表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章 妖怪の二枚舌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/102

19話 王佐の才


「もう、シキの奴は呉へ着いた頃合いかのぉ」


「御屋形様。もうとっくの昔に着いてると思いますよ? 距離は俺らの半分程ですし」


「そりゃそうか。おまけにこっちは牛歩じゃしな」


 シショウとシキョウの旅路。

 いつも窘める役割のシイツの姿が無いからか、二人は余計に遊び歩いていた。

 そのせいか、予定よりも遅い到着になる始末である。


「しかし、本当に良かったんですか? 遅い到着になってしまって」


「良い、良い。どうせ曹操は今、河北の統一に夢中じゃ。ゆるゆるとしていた方が、むしろ丁度良い」


「それもそうっすね!」


 今の漢王朝の中心地である「許都きょと」。

 シショウの記憶の中の「洛陽」程の活気こそないが、街並みは綺麗に整えられ、人が多い。


 実に、機能的な街だ、とも思った。

 民を見れば、統治者の器量が見て伺える。

 まさに曹操は、天下人の器だ。


 街にただ活気を呼び込むだけではない。統制、秩序、それが見事に現れている。

 シショウも自らの内政の腕には自信はあったが、曹操の視野の広さを存分に見せつけられ、苦笑いを浮かべるしかない。


「こりゃ下手すれば、交州へ戻る頃、この首は胴と繋がっておらんかもしれんなぁ」





 現在、袁尚を破って冀州を治めた曹操は、二人の敵を相手にしていた。

 一人は、袁紹の長子、青州の袁譚えんたん。そして、袁紹の甥、并州の高幹こうかんである。


 袁紹が没し、袁家が衰えたといえ、その地盤はあまりに堅固。

 袁家の為に戦う豪族はまだまだ多く、曹操と言えど、その抵抗勢力にほとほと手を焼いている様だった。


 こうして曹操が前線で自ら兵の指揮を執っている今、許都を治める実質的な最高責任者は、名を「荀彧じゅんいく」といった。


 天下の覇者たる曹操の配下の中で最たる人物であり、まさに王者を補佐するに足る才能を持ち合わせた逸材。

 三国志という時代において、最も優れた参謀といっても決して過言ではない大器だ。


 シショウの訪問に対し、身を乗り出して仲介を申し出たのも、この荀彧であった。

 この報を最初に聞いたシショウは、思わず眉根をひそめている。


「ほんとに、ちょっと面通しをして、互いの情報を交わす事の出来る繋がりを持てればそれで充分だったんじゃがなぁ……」


 荀彧といえば曹操第一の臣下であり、曹操は全ての相談をこの荀彧に尋ねる程の間柄だ。

 これでは、大事おおごとになりすぎる。それがまず、第一の懸念であった。


 曹操陣営に大々的に受け入れられてしまえば、孫権に睨まれてしまう。


「こんな辺境の、兵もろくに持たない領主など、軽くあしらわれるものだとばかり思っていたのだが」


 荷物が仮の屋敷へ運びこまれるのを眺めながら、シショウは思わず溜息を吐く。

 それに今、シキが個人的に、「袁煕」への援助を極秘裏に行っている。


 理由は単純で、曹操の背後に小さな勢力があった方が都合がいいからだ。

 もしも曹操と孫権が手を組んだ時、交州の命運は尽きるが、もう一つの勢力があれば、外交努力でまだ何とかなる。

 弱小の自治区が生きていくには、利害が一致可能な勢力と手を結ぶしかない。


 交州、遼東、南蛮。


 これらの和でもって、戦乱を避け、自己を防衛する。

 時に曹操に付いたり、時に孫権に付いたりして、実権を保ち続ける。

 壮大な計画だが、試してみる価値は大いにあった。


 まぁ、これがバレてしまえば、シショウは今ここで、即刻打ち首なのだが。



「大王様」


「許都でその呼び名は止めよ」


「申し訳ありません」


 若い従者であった。

 真面目でよく働く青年である。

 ただ、この青年の目を見ていると、自分はそんなに偉い人間ではないのだが、と思ってしまう。


「先ほど、屋敷に客人が御一人、御屋形様への面会を求めております」


「はて、誰であろう。正式に参内するのは三日後の予定であったが。名は聞いておらんのか?」


「それが、呼んで頂ければ分かるとばかり。ただ、高位にある御方の冠であった為、どうしたものかと」


「丁重に案内せよ。今すぐ会おう」


 官職を持つ者が、わざわざ。

 シショウは居住まいを正して、客間へと足を急がせる。


 待っていたのは、凛々しく才気の漲る顔立ちをした、細身の男性であった。

 女子なら言わずもがな、男ですら惚れてしまいそうな美貌をしている。

 真っ先に抱いた印象はこの通りであった。


「首を長くしてお待ちしておりました、士燮シショウ殿。お会いできて光栄に御座います」


「あぁ、いや、斯様に歓迎の言葉をいただけるとは思わず、ただただ恐縮するばかり。申し訳御座らんが、名を聞かせていただけませぬか?」


「これは失礼しました。私は、名を『荀彧じゅんいく』と申します」


「こ、これはこれは、そうとは知らずご無礼を」


 シショウはすぐさま地に膝を付けて、平身低頭する。

 聞けば齢は既に四十を超えているはずなのに、目の前のこの荀彧は、まるで二十歳そこらの若さであった。


 まさかわざわざ出迎えに来るとは、思いもしなかった。

 片や天下の覇者を補佐する人物であり、片や辺境に逼塞し戦乱を避け続けた老人。


 飛ぶ鳥を落とす勢いの人物が、こちらの下手に出てきた。



「お立ち下さい、今日は先生に教えを乞いたく伺ったのです。事前の連絡もせず、非礼を詫びるのはむしろこちらの方でしょう」


「ははは……いやはや、これは困ったな」


 荀彧に手を取られ、シショウは立ち上がる。


 どこまでもこちらの心根を見透かそうとする、冷たく透き通った大きな瞳から、思わずシショウは目を逸らした。




荀彧は、史実にもばっちり記録が残ってるほどのイケメン。

曹操が荀彧を「我が子房」と呼んだのも、その才能だけじゃなく、外見も相まって呼んだんじゃないかなぁって思ったりして。



面白いと思って頂けましたら、ブクマ・評価・コメントを宜しくお願いします!


ではでは!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ