1話 妖怪の息子
今回の主人公は「FXで有り金を全部溶かした」系の男子です。
頑張ってる人を応援したくなっちゃう、善人です(白目)。
「おぎゃああああああぁあんあなんむあむあ」
記憶が、曖昧だ。
覚えていることと言えば、そうだな、あぁ、トルコの「リラ」が暴落したせいで大損をしたってことだ。
あんのエルド○ンめ。
貴方がポエムを読み上げるごとに、リラの下落が止まらなかったんですが?
まぁ、リラの下落だけが大損の原因じゃないんだけど。
そう、何を隠そう僕は、FXや株で全財産を溶かしました。
真面目にやってれば、何千万も溶ける訳ないんだけど、いや、でも仕方なかったんやって。
ほら、頑張ってる人とか国とかを応援したくなるじゃん?
だからさ、紛争地域とか不安定な国を中心にお金をばら撒いて、えっと、破産しました。
シリアやジンバブエに金を投げたい。アメリカとかつまらんやん。
破産してもなお、俺はお金を頑張っている人に配るべく、働いて働いて、結果、ついに過労死してしまった。
ブラック企業じゃない会社で過労死してしまい、会社の皆様には申し訳なくオモテルヨ。
「ふぎゃあああぁああんぷええぇえい」
そう、僕が覚えている記憶は、そんな死の寸前の記憶。
なのに今、目の前に広がる光景を見るに、どうやら「転生」というものをしてしまったらしい。
困ってる人にお金をばら撒いた僕の善行が神様に評価されて、輪廻転生したという話に違いない。やったね。
え? そのお金が独裁者やテロリストに流れてるって考えないのかって?
チョット、ソウイウ水ヲ差ス話ハヨクナイ。
「おぉ! また男の子か! 我が一族は益々安泰じゃろうて!!」
柔らかな一枚の布に身を包まれた僕は、高く高く持ち上げられる。
目の前に迫るのは、頭がつるつるで顔に皺も多い、前歯の抜けたおかしな爺の顔だった。
どうやら、この爺さんが僕の父親らしい。
この親父が、名を「士燮」、三国志時代に「交州」を戦火から守り抜き、英雄達を手玉に取った曲者だと知るのはもう少し後の話。
そして、僕はそんな妖怪の三男坊「士徽」として生まれた。
交州を支配した「士一族」は、士燮という柱を失ってすぐ、「孫権」により滅ぼされた。
孫権の謀略にまんまと絡め取られ、一族を滅ぼした原因となってしまったのが「士徽」なのだ。
「ぶええええぇぇぇええい」
「しかしこやつ、我が息子ながらよく泣くのぉ。頼もしい限りじゃ!」
そんな暗雲立ち込める未来の事なんざいざ知らず、高く持ち上げられた恐怖で涙が止まらない。
ええい、はやく下ろせぃ、このジジィ!!
☆
「こんなはずでは、無かったのじゃがなぁ……」
シショウはつるつる頭を撫でながら、本日何度目になるであろう溜息を吐いた。
交州は未だ平穏で平和なのだが、天下の趨勢が大きく動いたのだ。
幽州、并州、青州、冀州の「河北四州」を手中に治め、天下統一は間違いないと思われていた「袁紹」が「官渡の戦い」で「曹操」に敗れたのだ。
曹操は袁紹の勢力の半分にも満たない群雄であったが、袁紹を打ち破った。
これは青天の霹靂であり、シショウの未来予想図を大きくぶち壊したと言って良い。
てっきり袁紹が天下を統一するだろうからと誼を結び、ある程度、交州の自治権を許してもらおうと交渉を詰めていた矢先である。
「袁紹は非凡ではないにせよ、愚鈍でもない。そこそこの器じゃし、負けるはずがないと思っていたんだがなぁ。曹操が、非凡すぎるわ」
さて、これからどうするか。
今度はすぐに、曹操と誼を結んでおかないといけないだろう。
「袁紹との関係がバレれば、曹操は怒るじゃろうなぁ。どれくらい謝罪すれば許してもらえるだろうか」
ぺんぺんと頭を叩き、従者の一人を呼びつけた。
「お呼びでしょうか」
「いや、特に用は無いのだが、屋敷に変わりはないか?」
「え、あぁ、はい。皆さま健康に過ごされておいでです」
「そうか、それは良い……そうだ、シキはどうしてる。武術の方は」
「いや、その」
従者はもごもごと口ごもる。
シショウは別に気にしないと、そのまま言葉を促した。
「それがですね、剣術も武術もさっぱりでして、少し血を見るだけで気を失う有様で。弟君のシカン様にも、一瞬で転がされております」
「それは心配だなぁ。この乱世の時代、血も見れない、武術も駄目となると、うーむ」
「されど、何とも気立ての良い御気性です。家人とも親しくし、賭け事などの遊びでは負けなしと、機知に富んだ御方かと」
「ほほぅ」
報告を聞き、シショウはニヤリと笑う。
歯の欠けた口と、皺の多い顔から、何とも不気味な笑顔である。
「どれ、儂がいっちょ揉んでやるかな」
「御屋形様、舐めていると本当にシキ様に足元をすくわれますよ。大人も顔負けと、評判ですので」
「益々興味をそそられるのぉ」
普段のストレスを晴らすように、シショウはホクホクとした笑顔で、シキの部屋へと足を運んだ。
三国志という歴史の表舞台には現れない地域ですが、そんな辺境の地で頑張っていく物語。
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ではでは、また次回。