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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章 妖怪の二枚舌

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前日談 袁家の命運


 天下に轟く「四世三公」の呼び声高き名門「袁家」。


 四世代に渡って官僚の最高位に上り、崩れ行く漢室を支えた血脈。

 そしてその血脈は「袁紹」という異質の英雄に行き着き、ついに天下の大半を治めるにまで至った。


 その勢いは天を貫かんとし、天下統一はもう目前のものかと思われていた。

 誰もが、その未来を確信していただろう。


 曹操という、奸雄が現れるまでは。


 長き中華の歴史を見てみても、この「曹操」の名は特に燦然たる輝きを放つ。

 まさに、万能の天才。乱世の風雲児。

 この男の前に、袁紹の覇道は無残にも打ち砕かれてしまった。


 天下分け目の「官渡の戦い」に敗れた袁紹は、失意の内に病に倒れ、そのまま没した。

 時は二百二年。ここから、袁家の運命は大きく崩れ始める。



 袁紹は最後まで後継者を明らかにせず、三男の袁尚を傍に置き、寵愛していた。


 それによって、本来の跡取りである長男の袁譚と、三男の袁尚との間で抗争が勃発。

 この跡目争いは、もともと袁家の幕僚達の派閥争いをも巻き込み、泥沼に陥っていく。


 袁紹が没したと見るや否や、曹操は冀州へと侵攻。

 前線の軍事拠点である「レイ陽」を袁譚が守り、本拠地の「ギョウ」を袁尚が守った。


 この二つの拠点が連携していれば、冀州は曹操の手に落ちる事は無かっただろう。

 しかし、袁譚からの援軍要請を袁尚が度々断ったことで、レイ陽は曹操の手に落ち、冀州攻略に王手を刺される形となった。


 もう丸裸も同然である鄴を攻めることなく、曹操は一旦撤退。

 袁兄弟はそれを見ると内乱を始め、ついに戦にまで発展。

 あろうことか袁譚は親の敵も同然の曹操に降伏してまで、袁尚を攻め立てた。


 袁尚はその連合軍に大敗し、身一つで逃亡。

 勢いそのままに、曹操は冀州、青州、并州を併せ、残すは次男「袁煕えんき」が守る幽州をひとつ残すのみとなった。





「そうか、もう曹操はそこまで……」


 柔らかく微笑み、袁煕は従者を下げる。

 かつては多くの文官武官が並んでいた郡治所も、いまやがらんとしており、孤独が痛く身に刺さる。


 入ってきた報告は、兄である袁譚が曹操に背き、「南皮」にて交戦。

 初戦にこそ勝ったが、その後に敗れ、そのまま戦死したとのこと。


「兄上、如何した」


「あぁ、尚か。今しがた報が入った。南皮にて、兄上が曹操に討たれたそうな」


 袁尚はそれを聞き、残念そうに悲しむ表情を見せたが、その口元に喜色が見え隠れしている。

 大勢を見誤り、袁家を窮地に追い詰めたのは、確かにこの弟だと、分かる反応である。


 如何に才に優れていようと、無駄に高い気位が欠点であった。

 父はそれを「勇気」などと言って感心していたが、その結果が今の有様だ。



 臣下達は初め、袁尚の受け入れを拒み、曹操に降るようにと進言した。

 確かに、そうすべきだろう。頭では分かっているのだ。

 それでも、曹操は父の敵であり、袁尚は弟である。それが、通すべき筋であった。


 私は、袁煕だ。しかし、お前達はそうではない。

 今、私の下から離れ曹操に降伏しても罪には問わない。


 そう臣下に指示し、袁煕はこの弟を受け入れた。



「兄上、ではこれより、曹操との決戦となるのか」


「間違いなく攻めてくるだろう。しかし、今の私に兵はいない。臣下は皆、離れたのだから」


「されど烏桓族の者達がいるではないか。公孫瓚を散々苦しめてきた、北方の騎馬民族の力があれば、曹操も容易く跳ねのけられよう!」


 本気で勝てると思っているのか?

 血気盛んな弟の指示に、袁煕は思わずため息をつく。


「尚よ、今の袁家の当主はお前だ。しかし、ここは私の治める土地、勝手な真似は許さん」


 袁尚、袁譚とは、母が違った。二人は正室の子であり、自分は身分の低い側室の子である。

 それが父からの寵愛を遠ざけていた原因だろう。

 しかし、それが故に政争に巻き込まれず、こうして天下を俯瞰して眺めることも出来た。


 言ってみれば父「袁紹」も、正室の子ではない。袁術の方が、袁家の正式な跡取りである。

 そう考えると自分の運命もまた、皮肉なものに思えて来る。



「これより、烏桓の兵を率い、後方へ下がる」


「な、有り得ぬ! 長兄が居なくなった今こそ、曹操を打ち払い、袁家の復興を!!」


「袁家はもう立ち直らん!!」


 この事実を認めるまでに、どれほどかかったか。

 どれほどの苦悩に苛まれ、張り裂けんばかりの胸の痛みに耐えたことか。


 あの天下の名門「袁家」が、辺境に逼塞するしかなくなってしまったという事実を。



 名も、姿も知らぬ男が、それを教えてくれたのだ。



「曹操には、勝てない。しかし、生きることは出来る。生きていれば、希望はある」


「このまま……背を向けろと?」


「そうだ。私は、鄴に残した妻を、曹操が長子の曹丕そうひに奪われた。しかし、それでも生きるぞ。いくら惨めな思いをしようと、必ず生きてやる」


「俺は、俺は認めない! 曹操なぞ、汚れ者の家の身分ではないか!!」


 袁尚は激しく怒り、外へ駆け出していく。

 あぁ、これで自分は、家族も、故郷も、全てを失う事になるのか。



「……さらばだ、尚。私はこれより『遼東りょうとう』へと向かう」



 全てを失ってもなお、生きてやる。

 どこかの誰かが私の為に、全財産を投げて助けてくれようとしている。


 それだけが、今の袁煕の心の支えであった。



「殺せるものなら、殺してみよ。曹操」



Youtubeで、中田のあっちゃんが「孫子」の解説をしていて、なんとも嬉しく感じた今日この頃。


袁煕、書いていて楽しいですね。

絶世の美女たる嫁さん奪われたり、後継者争いとかあんまり関係ないのにとばっちりうけたりと。

なんとも頑張ってほしいものです(笑)



面白かったと思って頂けましたら、ブクマ・評価・コメント、どうぞよろしくお願いします!

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