14話 一族の適正
「なぁ、本当に良かったのか?」
「ん? 何がだ?」
「店の経営の件だよ。せっかく稼げて来たのに、運営を蓮さんに譲っちまってさぁ……あの調子なら、店を他の場所に出したり、もっと利益の拡大が出来ただろうに」
「完全に譲ったわけじゃないさ。困ったことがあればこっちで対処する様にしてるし。まぁ、女手一つで部族を離散させることなく統率してきたあの手腕があれば大丈夫だ。警備や経理の人材もそこそこ増えてきたし。運営に協力してくれる商家もいるしね」
「そういう事じゃなくて、うーん、もっとさぁ、儲けてやろうみたいなさぁ」
「え、儲けてるぞ?」
「大部分は、お前個人が色んな商家の運営に絡んで得た利益じゃないか。いや、でも結果としてはこれでも良いのか……うーん」
案外、お金持ちって言うのは、お金を余らせてる人が多い。
じゃあそのお金をどこに使いたいか。それは、自分の娯楽だ。
そしてその最たる娯楽こそが「誰かを応援する」というもの。
ゲームだってそうだ。
育てたらこいつは強くなるぞーってキャラを育てて、仕上げていく過程が面白い。
僕の今の武器は「若さ」にあるのだから、どんどん色んなお金持ちの懐に飛び込んでいった方が、この身一つでお金が集まってくる。
それに、新しいことにも手を出していきたいから、運営は軌道に乗り始めた辺りで手放す。
別に儲けてやろうって気持ちはないからなぁ。その辺りは、雷華や他の人には分かりづらい感覚なのかしらん。
「次はどうしよっかなぁ。学校とか作りたいよねぇ。親父も学問に力入れてるし、一枚噛ませてもらえないかなぁ」
学問に力を入れることが出来れば、それは後に技術や産業の革新に繋がり、ひいては国家の安全保障に有益となる訳で。
三国志版マンハッタン計画かな?
「シキ様。御屋形様から伝令が届いております。シイツ様のお屋敷へ来るようにとのことです」
「また急な話だなぁ……分かったよ。魯陰、馬車をまわしてくれ」
「かしこまりました」
☆
叔父上の屋敷で待っていたのは、僕を呼びつけた親父と、シシ兄上であった。
何かと最近入用な叔父上は、忙しいせいか不在らしい。
「おうおう、何かと色々、忙しいらしいなシキ」
「いえいえ。親父の名前を聞けば、皆、僕を子供だとは侮りません。非常に助かっております」
この交州における「士燮」という名の影響力は絶大である。
朝廷の「皇帝」に馴染みがない民にとってすれば、この親父こそが王という存在と変わりないからだ。
もう民の間では、大王様、と呼ばれたりしてるくらいだしな。
そんなに崇高な人間じゃないですよ? 若い女性を見つけては追っかけまわしてるし。
「商売の方は、どうだ? 儲かっているか?」
「楽しくやっていますよ。僕がやりたかったことも、概ね達成できています」
「そうかそうか。シシよ、お前の目から見ては、どうだ? シキの商売は」
「んー……」
兄さんは困ったように眉をひそめ「正直なところ」と、難しそうに口を開く。
「商いとしてみれば、甘すぎる、というのが感想ですね。何度かシキの店に足を運んだのですが、非常に魅力的な食事処でした。ただ、だからこそ、この技術を様々な商いに応用し、もっと利益を拡大すれば良いのにと、むず痒い思いをしています。それなのにシキは小さく小さくまとめようとしてますし」
例えば、天下統一を目指すという目標を前に、僕がしていることは、一つの城を堅固にすることに注力しているということ。
統一をするなら軍を前に出し、犠牲もいとわず、領土を拡大し、権勢を増していかなければならない。
兄上はそう述べる。
「イッヒッヒ、確かにシシの言う通りじゃ。シキよ、商売人として利益を追求するのは当たり前だ。その常道に例外は無く、そこから外れとる時点でお前に商いは向いてない」
「自分が考え得る、最善を尽くしたつもり、だったのですが」
「別に責めてはおらん。シシとはやり方が違うだけの事じゃ。ただ、シシと同じ業種で商いを競争すれば、お前は負けるでな。例えばシシ、お前ならどうする?」
「食事処の多い場所に大規模な店を出し、初めは赤字でも良いから周囲から客を根こそぎ奪います。そうやって周囲が潰れれば、あとはこちらの裁量でいくらでも儲けが出ます。そうやって店を拡大し、交州一帯を埋めればもう、この地位は揺るぎません。勿論、危うさを孕む女性雇用はやりませんね」
「シキよ、これが商いじゃ」
「むぅ」
ふてくされる僕を見て、親父と兄上は顔を合わせて笑った。
「俺達兄弟は、それぞれの適性を持っている。それに合わせた行動を取ればいいんだ。シキの行動にもそれが現れているのだから」
「適正?」
「そうじゃな。例えば、シキンは人をまとめる術に長けておる。欠点らしい欠点も無く、広い視野を持ってる。シシはその類稀な商才を持ち、シカンは天賦の才がある」
「僕は、何でしょう」
「初めはシシに似た商才があると思っておったが、そうではなかった。内政や謀略の類に秀でた才だ。社会問題に向き合い、情報を何よりも重視するあたりが、まさにその表れだろう」
親父は悪戯気にそう告げる。
自分としては実感がない話だが、言われてみたら、そうなのかもしれないという気もしてこないでもない。
そう考えるなら、親父は「演者」としての才があるだろうな。
別にこれといった理由はないが、僕は何となくそう感じた。
「あ、そうじゃ。それを言いに来たわけではなかった、うっかりしておった」
親父はそのつるつる頭をペンと叩く。
兄上と僕は、そんな父の様子に首を傾げた。
「天下も大きく動いておる。交州もそろそろ、在り方を決めねばならん。その考えを皆に伝えようと思ってな。近々、一同に集めようと思っておるから、まぁ準備しておくように。という事を言いに来たんじゃった」
時は、202年。
史実で言えば、袁紹が死去する年であった。
三国志展で、横山Tシャツを買いたかったんですよねぇ。
呂布が「だまれ!」って言ってるやつとか、司馬懿が「孔明!」って言ってるやつとか(笑)
しかし、私の服のサイズはXLサイズ。
色んなグッズTシャツとは縁遠い人生を送っております(;´∀`)
ちなみに購入したのは、後漢末期の中華全土が記された大きな地図です。
マジでこれは助かる(*'▽')
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