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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
一章 商売を始めよう!

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11話 天下の行方


 急な呼び出しがあったのは朝の事。

 前もって連絡してくれればいいのに、親父が叔父上の屋敷を訪っている事を全く知らなかった。


 しかし、どうして僕が呼ばれたのだろう。

 魯陰に尋ねても首を傾げていたから、また気まぐれが出たのだろうか?


「遅れて申し訳ありません。シキがただいま、到着いたしました」


「おう、急にすまんな! こっちへ来い!」


 親父と共に書室に座っているのは、叔父上と、白い髭を蓄えた老将が一人。

 彼とは以前、小さい頃に一度会ったことがある。


 名を「雍闓ようがい」。親父の盟友にして、益州南蛮の最大勢力を誇る豪族の当主であった。

 三国志演義でもこの老将の名は出てくる為、彼の事は知っていた。


 劉備死後の蜀漢が、国力増強の為に南蛮地方の平定に乗りだしたときのこと。

 蜀軍を率いる諸葛亮と対峙したのが、この雍闓である。


 雍闓は劉備の死で、蜀に未来は無いと踏んで、反乱。

 しかし諸葛亮にあっという間に平定され、雍闓は命を落とす。

 まぁ、南蛮王「孟獲もうかく」との前哨戦に過ぎない立ち位置にある、噛ませ役だった。


 ただ、史実での印象は大きく異なる。


 南蛮の民に広く支持され、器量は広く、性格も穏やかで優しい、そういう領主だった。

 決して、浅慮で短気な男ではない。彼もまた、この時代の英雄であった。


 南蛮地方で反乱を起こしたのも、劉備の死によるところが大きい。

 この時期、諸葛亮の名は天下に知られていたわけではなく、ただの官僚の一人に過ぎない存在であった。

 それに、劉備という戦乱を生き抜いてきた英雄の名が大きすぎたというのもある。


 その英雄が没したことで雍闓は不安に陥り、孫権の指示によって、親父シショウがその不安を煽った。

 民の生活を案じ、呉からの支援を取り付ける事で、雍闓は反乱に踏み切ったのだ。

 南蛮地方を呉へ組み込もうと考えての挙兵である。


 しかし反乱を起こしたとき、蜀と呉は国交を回復させており、雍闓は支援を受けることが出来なかった。

 そうして諸葛亮に攻められ、最後には仲間から裏切られて殺されたという悲しい結末がある。



「お久しぶりです、雍闓ようがい様」


「大きくなったな、シキ殿。君に会いたいと父上に頼んだのは、実は私なのだ。忙しいところ申し訳ない」


「い、いえいえ、とんでもございません」


 丁寧に頭を下げる雍闓に遅れて、僕も慌てて頭を下げる。

 親父の盟友とは思えない程、義理堅く、温和な真人間だなぁ、なんて。


「シキよ、早速の本題だが、この報告書を読んでくれ」


 叔父上に手渡された書簡。

 その内容は、天下の中心地、河北の情勢が記されてあった。


 倉亭の戦い。

 後の歴史では、そう記される戦の全容が記されている。


 官渡で敗れた袁紹は、残存兵力をかき集めながら体勢を立て直した。

 曹操はこの機会を逃さんと攻勢を続け、両者は黄河のほとり「倉亭」にて軍を対峙させた。


 この戦に勝てば、曹操はついに、袁紹の根拠地である冀州への侵攻がかなう。

 袁紹にとってしてもこの戦は、最後の防波堤であった。


 初戦は、地盤の勢力で勝る袁紹軍が優勢。曹操軍は敗走を重ねた。

 しかしこの敗走は曹操の策の内であり、深追いして部隊が乱れた袁紹軍は伏兵に遭い、敗走。


 またしても、曹操の圧勝に終わった。


「シキよ。これより、お前の言った通り、冀州での戦いになるだろうな。そして今、勢いがあるのは、曹操だ」


「そのようですね」


「この報告書を見た上で、再び、お前の意見を聞きたいのだ。というのも、この戦の後、曹操はおかしな行動を取った。冀州に侵攻せず、軍を撤退させ、千載一遇の好機を手放した。これはどういうことだ」


「ふむ」


 未来を知ってはいるものの、下手な事は言えない。

 再び報告書に目を落とし、文面をよく見て、思考を整える。


「袁紹が、かように下手な戦をするでしょうか?」


「どういうことだ」


「官渡で敗れた袁紹がすべきは、曹操の足を止める事。倉亭にて、初戦で勝利したならそこで引き上げるべきなのに、何故、血気盛んに追い打ちをかけたのでしょう。袁紹は腐っても、天下に覇を唱えた男。これくらいの駆け引きが出来ない男ではないはずです」


「なるほど。では、袁紹でなければ、誰が」


「思いますに、旗印こそ袁紹であれど、全軍の指揮は袁家三男の袁尚だったのではと。物怖じせず、面子めんつを大切にする性格だと聞きます。彼が指揮をしたならば、官渡の敗北を取り返そうと意気込むに違いありません。袁家の面目を保つ為に」


「それと、曹操が撤退したことに何の意味があると思う」


「袁尚が指揮を執ったということは、袁紹が指揮を執れない状態という事。恐らく、病か何かで倒れた、曹操はその情報を掴んだのでは? 袁紹が倒れれば、正式な後継者を定めていない袁家は分裂し、内輪揉めを起こす。それを期待しているのかと」


「ならば、次、曹操の動きは」


「まずは兵糧の回復に努め、袁家の分裂を謀略で促し、機会を待つ。順当に行けば、そうなるかと。袁紹が回復したとしても、手が回らない程に反乱分子を育てておくでしょう」


 親父を含めた三人は、しばらく黙って腕を組む。

 そして、雍闓と親父は、何かを確かめるように目を合わせて、ひとつ、ふたつと頷いた。


「なるほど、助かった。参考にさせてもらおう。下がって良いぞ」


「承知しました」


 そのまま、僕は頭を下げて退出する。


 うーん、また何か、親父が変な事を企んでるんじゃなかろうかと不安になった帰り路である。



誤字報告、いつも助かっております(;´Д`)


ブクマ・評価含め、本当にありがとうございます!

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