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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
一章 商売を始めよう!

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9話 従業員募集 後編


「本当に助かったよ、魯陰」


「いえ、規模も小さいですし、シイツ様の協力もあったので費用も抑えられました」


 あれから一月が過ぎ、店の内装は綺麗なものに仕上がっていた。

 設計から内装のデザインの一切を、僕が取り仕切ることが出来たので、イメージ通りの仕上がりになっていた。


 高級バーのような、回らないお寿司屋さんみたいな。

 カウンターがあって、炊事場が直接目に出来る、従業員とお客さんの距離が近い空間。


「食材の方はどうだ?」


「まだ、お酒を安定して買い付けることは出来てないですね。やはり、実績もないので、これは開店後に色々変えていく必要があるでしょう。しかし、珍しい『葡萄酒』という代物が、僅かですが手に入りました。シキョウ様のお気に入りとのことです」


「流石だなぁ、あの遊び人は。いろんな伝手を持ってる」


 食材はこれから追々、色んなルートを探していくつもりだが、主に魚介類、香辛料、山菜がメインになるだろう。

 とはいえ、客を多く入れるわけではない。大量確保の必要はないから、その辺りでは気が楽だ。


 この時代、酒屋は酒屋、食事処は食事処と分けられており、一級品の酒と料理が外で楽しめるところは珍しい。

 食事と酒は合う。それは幾千年の歴史が証明している。


「じゃあ魯陰、雷華を裏から呼んできてくれ。二人には、今日は最終審査をしてもらいたい」


「承知しました」


 僕の呼びかけで、奥の炊事場から、三人の女性が姿を現す。

 皆、僕の母か、それ以上の年齢だ。そして誰もが、問題を胸に秘めながらも、強く生きるママさん達。


 多くの女性を面接して、礼儀や作法、性格、立ち居振る舞いを見て、この三人に絞った。


 この三人を正式に採用するつもりだが、とりあえず最終試験として、彼女達には「料理」をしてもらおうと思う。





 一人は、ふくよかな人で、淡い桃色の着物が良く似合う「こう」さん。


 旦那さんは漁師なのだが、近年、仕事場を貿易商人の船着き場として取られてしまったとのこと。

 仕事場を変えたものの、獲れる魚の量も以前より大幅に減り、稼ぎも減少。

 しかも康さんは子供が出来ない体質らしく、それも先行きが不安な原因の一つらしい。


 ただ、それでも底抜けに明るい女性だった。だからこそ採用した。

 それに、旦那さんの獲る新鮮な魚介を全てウチが買い取るという事も出来た為、ウチにとっても有難い存在だった。



 次は、既に初老に入っている最高齢の「てい」さんである。

 彼女はほんとに経歴がおもしろい。今まで、巫女や、占い師として生きてきた人だ。

 人相、占星術、そういう事を良く知っており、全国各地を旅していたとか。


 天涯孤独で、親も子も無い。ただ、この経歴から聞く話は本当に飽きない。

 もう年で旅も出来なくなり、金もないとのことで、声をかけた次第です。

 ちなみに、占いはあまり当たらない事が評判。



 そして最後は、強面で気が強そうな、色黒の「れん」さんだ。

 彼女に至っては、正直素性は分からない。分かっているのは「山越族」の出身という事のみ。


 ちなみに「山越族」というのは、南方の荊州、揚州、交州に勢力を持つ異民族とされている。

 主に山岳や林に住み、戦いに慣れた者達で、中央の権力に歯向かい続けている歴史を持つ。

 三国志の「呉」の歴史というのは、この「山越族」との戦いの歴史だと言えるほどに、その力は強大であったとか。


 蓮さんの素性は分からないが、その覚悟は人一倍であり、所作の一つ一つに強かな品があった。

 それに顔も凛々しく、綺麗である。間違いなく、この店の顔になり得る存在である。



 奥の炊事場からは良い匂いが漂い、目の前では康さんが慣れた手つきで魚や山菜を切りつけている。

 もう、雷華なんかは爛々とした目で、今か今かと料理を待ち望んでいる。


「はい、お待ちどおさん」


 康さんは笑顔で一つ一つ、皿を並べる。


 刻んだ貝と魚醤のみで味を付けた、炊き込みご飯。

 山菜やキノコと白身魚を、味噌で味付けして蒸した、ホイル焼きのようなもの。

 そして、糠床につけていた、キュウリの漬物。


 どれも、それほど多い量ではなく、上品に盛り付けられており、なんとも食欲をそそる。

 今の僕はまだ酒は飲めないけど、これは酒が旨いこと間違いなしの逸品達だ。


「うめぇ……うめぇよ、シキ! なんだこれ!!」


「これは、素材が良いのでしょうか。変に味付けされてないですし、とても美味しいです」


「うん、文句なしだね。三人とも、これからよろしく頼む。給金は間違いなく払う、成果が出ればその分だけ上乗せだ。とりあえず、合格祝いとして、これを」


 三人にそれぞれ、給金の倍に当たる金銭を手渡す。

 まさか今、お金を本当にもらえると思っていなかった三人は、ポカンと口を開けていた。


「ありゃ、良いんですかい? アタシらはまだ、稼いだわけでもありゃせんが」


「良いんですよ、丁さん。これは、優秀な人達に対する、期待を込めた投資だ。これからもよろしくお願いします」


「そうかい、そうかい。なら、貰っておこうかね。イッヒッヒ」



 明日はいよいよ、一人目のお客様を呼ぶ開店日だ。




若けりゃ良いってもんじゃない(ぇ


なんというか、こういう深い接客業をしてる方とお話しするたびに思うのですが、人間としての芯が強すぎるなぁと、感心してしまうんですよね。

気軽に会話できる相手というよりは、人生や哲学の先生みたいな。

美人とか可愛いとかよりも、なんかカッコイイんですよね。


自分の小説にそれを持ち出してくるぐらいには、ばっちり影響受けている今日この頃(笑)



いつもいつも、ブクマ・評価・コメント、本当にありがとうございます。

皆さまに支えられていると感じる日々で御座います(街頭演説)



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