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前日談 妖怪の頭


新連載スタートです!


この「前日談」は、三国志を良く知る方が楽しめる内容です。

主人公も出てきませんし、ストーリーの「前置き」なので、読み飛ばしでもOKですよ!


主人公の父となる「妖怪」のお話です。





 ────これは「妖怪」と呼ばれた男と、その一族による物語である。





 もう髪もほとんど抜け落ちた、壮年の小さな男が、宮廷の中央でひれ伏していた。


 玉座に腰を掛けるのは、当世の皇帝「霊帝れいてい」である。

 四百年以上続く「漢王朝」の歴史。

 その灯は時を経るごとに衰え、今まさに消えかかろうとしているのに、この皇帝はその衰えに気づく様子はない。


 代々、皇帝の耳目を曇らせているのが、皇帝の側に侍る「宦官かんがん」と呼ばれる者達であった。


 男根を切り落とされ、性欲を失った卑賤の身にある彼らは、一層の権力欲を増し、皇帝の耳目を奪って、天下を牛耳っていた。

 本来はただの、皇帝の身辺の世話係に過ぎない彼らが、今や朝廷の権力のほとんどを握っている。


 老いて益々、精力が盛んなこの小さな壮年の男は、「宦官」と呼ばれる彼らの気持ちが微塵も分からなかった。


(女と交われないなど、人生の何が楽しいのだろう)


 頭の中は十代の青年の様な景色が広がったままだというのに、その表情は何とも重厚で冷淡。

 訳も分からず呼び出され、皇帝や宦官を目の前にしている状況で、今にも欠伸をかましそうな男であった。


 煮ても焼いても喰えぬ。

 まるで「妖怪」の類のようだ。


 彼を知る者は陰でそう囁く。



「シショウよ」


「ハッ」


 宦官は、その男を「シショウ」と呼ぶ。

 男もまた間を入れずに返事をする。


「貴殿の故郷は『交州こうしゅう』であったな」


「はい。先祖は新の時代、王莽おうもうの圧政から逃れるように、交州へと移り住みました」


「しかし何故、遠い都にまで足を運び、職務を担おうと思ったのだ? 故郷で基盤を持つ貴殿なら、交州でも役職を担えたであろう」


「中央からあまりに遠き地であり、これでは世情に疎くなると思い、自らの蒙昧な知見を開かんと思った次第です。それに、私は漢の民。この身を賭して陛下に忠節を尽くしたく」


「殊勝な心掛けだな。しかし、先日、貴殿は父を亡くされたと聞いた」


「……その通りです。老いた父です。覚悟はしておりました」


 シショウには、故郷の交州の端の端、中華の南端のド辺境、現在のベトナム南部にあたる「日南郡」と呼ばれる地で、太守を務める父が居た。

 およそ戦乱に向かない、平穏で、平凡な父であったが、先日、病にて没したという話を聞いていた。


 ここでおおよそ、この宦官らが何を言いたいのかが、シショウには分かった。


「交州に赴き、父の跡を継ぐように。これは、勅命である」


 シショウには、都にて学問の師がいた。劉陶りゅうとうという、当世の文学における第一人者である。

 この劉陶は、宦官の勢力とは水と油の関係で、敵対している。


 劉陶の勢力を削る為に、その門下生である自分を「左遷」したいのだろう。


 時は、184年。黄巾の乱の只中である。

 天下が乱れに乱れている中、どうもこの宦官や官僚達は、権力争いにしか目が向かないらしい。



「勅命とあらば、謹んでお受けいたします」



 顔を上げたシショウは、前歯の一本欠けた口をにんまりと広げ、不気味に微笑んでいた。





 シショウは都でひっかけた多くの妻と、自らの一族を連れて、遠い南端の地に向かっていた。

 どうも馬は苦手だとして、農耕の牛に荷物や人を引っ張らせているので、足取りはなんとも遅々としている。


「兄上、私はまだ納得できておりません」


「まーだ言ってるのか、この堅物め。勉強ばかりしてると、環境に順応出来んぞ?」


「兄上が何を考えてるのか、全く分からん」


 同じ御車で揺られるのは、シショウの弟であるシイツであった。

 学問に秀で、一族の中では都に最も適していた人間だろう。


 知識人と交流を深め、詩に興じ、一人の妻を愛する男。

 頼れる弟なのだが、どうにも頭が固いのが難点である。


「どうしてそのように気楽なのですか? 故郷をそしるつもりはありませんが、交州は流刑地です! 左遷よりも流罪に処されたと言った方が正しい有様なのですよ!?」


「うるさいのぉ……勉強してるくせに、お前は馬鹿だ。これだから儒者というのは」


「なっ」


「良いか? 確かに交州は野蛮で、賊も多く、土地も貧しく、高温多湿で沼地も多く、作物も雨ですぐに流されるような、辺境の土地だ」


「それ、生きていけるのですか?」


「生きていけるとも。むしろ、平穏に人生を大往生できる楽園だと思っている。左遷? 流罪? とんでもない。宦官も官僚も馬鹿で助かったわい」


 まだ、シイツは首を傾げている。

 それを見て、シショウはまだ分からないのかと、眉を八の字にした。


「交州は、貿易の土地だ。南岸部を抑えれば、その貿易の収益だけで、下手すれば朝廷よりも莫大な金を稼げるぞ?」


「ま、まさか」


「お前は都がこの世の頂点だと思い過ぎだ。むしろ、あれほど争いの絶えない、最低の地は無いと思え。天下は今や乱世。されど、交州まではその戦火は届くまい。だからこそ、楽園なのだ」



 シショウ、三国志の歴史では「士燮」と名を遺した、交州の妖怪。


 戦乱の時代に、故郷を戦渦に巻き込ませず、のらりくらりと英雄達と渡り合った曲者である。



 その曲者は今、妖怪の異名に相応しい不気味な笑い声を、御車の上で響かせていた。






史実では、士燮はもっと早くから交州に居たんじゃないかとか、士壱は「長安遷都」まで都に居ただろ! とか、まぁ色々あるとは思いますが、これに関してはもう目を瞑って下さいとしか(ぇ


前日談から「史実」予防線を張りたい、そんなお年頃。



はい、これからの作者のモチベは、皆様の反応に大きく左右されます。

どうか応援だと思って、ブクマ、評価、コメント、どうぞよろしくお願い致します!


それでは第1話、どうぞ!

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