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その愛はちょっと重たいかもしれない。(改稿版)  作者: ありま氷炎
第二章 その愛は重すぎるかもしれない
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四 青族の娘

 夢蝶に会ってから、明確になった「王妃にふさわしくない」という思い。

 それは日増しに強くなる。

 黎光れいこうに伝えようか。

 でも彼はきっと気にしないと答えるだろう。


 白銀の髪に、水色の瞳の彼。

 とても美しい。

 髪を結い、王たる冠をつけ、玉座に座る彼。

 紫国の王に相応しい、賢王。


 私は?

 皇帝陛下の妃であったという立場で、黎光れいこうの寵愛を受ける娘。

 それが私。

 黎光は側にいてくれと言ってくれたけど、私に何ができるのだろう。

 彼の子どもすら産むこともできないかもしれないのに。


「凛様?お加減が悪いのですか?」

「心配してくれてありがとう。桂梨けいり。大丈夫だから」


 今日は翠が休暇で、というよりも休暇をとってもらった。毎回私に張り付いているのも大変だと思うし。陽とも会ってゆっくり休んでもらいたかったから。

 思えばずっと一緒にいてくれてる。

 陽も翠も私を救ってくれた。二人を大切にしたいもの。

 だからこそ休暇はちゃんととって欲しい。

 代わりの女官は、青族の桂梨けいりだ。 

 青みがかった黒色の髪に、漆黒の瞳をしている聡明な女官だ。翠の補佐的な女官で、彼女が信頼している者。

 翠はとても心配性だ。

 夢蝶のことといい、私に近づくものには注意深い。

 王妃確定の私を害することなど、黎光れいこうに牙を剥くようなものなのに。

 それとも、何か……


「凛様。お聞きしてもよろしいでしょうか」

「何かしら?」


 桂梨けいりが漆黒の瞳をまっすぐ私へ向けてくる。

 何か胸騒ぎを覚えながら答えると、彼女はゆっくりと口を開いた。


「私には大切な友がおります。彼女、花芳かほうは幼い時から陛下に憧れて、その夢を叶え婚約者となりました。かの方に相応しいように努力も続けてまいりました。けれども、王になられた陛下は貴方様をお選びになった。どうしてでしょうか?」

「け」


 彼女の名前を呼ぼうとしたのに、言葉が出てこなかった。


「やはり皇帝陛下の御命令だったのでしょうか?」

「ち、違うわ。そんなこと!」


 思わぬことを言われ、反射的に声を荒げてしまった。


「申し訳ありません。お心を煩わせるようなことを聞いてしまいました。ただ、我が友は婚約を解消され、とこから出てこれないほどに衰弱して、その命を危ぶむほどです。凛様、お情けをいただけませんか?花芳かほうは命を削るほど、陛下を愛しております。どうか、その思いを汲み取っていただき、王妃の座を退いていただけないでしょうか?」


 王妃にふさわしくない。

 ずっと思っていたこと。

 退くことは黎光れいこうのためにもなる。

 彼を本当に愛し、王妃として相応しい者が隣に立つべきだ。

 頭では理解しているのに、私の口からは冷たい声が発せられた。


「私の一存では決められないわ。私は下賜された身にすぎないから」

「凛様。一介の女官に過ぎない私が出過ぎた言葉を。怒りは私に、花芳かほうのことはどうかご容赦を。陛下や翠様にはどうかお話されないように」

「わかっているわ。安心して」


 もしこのことを翠に話せば、黎光れいこうにも伝わる。

 下手したら罰せられるかもしれない。

 そんな酷いこと、私にはできない。

 黎光に婚約者がいたなんて、きっと私と会う前だろう。当時、彼はすでに十六歳。今の私と同じ歳。結婚してもおかしくはない歳だもの。

 私のせいで、黎光れいこうは婚約を解消することになった。


花芳かほうのことで何かできることがあったら教えて。王妃の座については、考えてみるから」

「ありがとうございます。感謝いたします」


 黎光の悲しむ顔がすぐに想像できたが、それをかき消して、そう口にする。

 死を思うほど愛する思い、それはとても深くて重い。

 私にはないもの。

 王妃に相応しい娘は、彼女だ。

 私ではない。


 ✳︎


翌日、すいが出仕してきた。

 

「これはお土産です」


 そうして差し出してくれたものは、星のような形のお菓子。


「砂糖で作っているのですよ。どうぞ」


 他の女官の前で渡されたお菓子。

 彼女は毒見役を自らしてから、私の手の上に紙を置いて、数個の星を乗せてくれた。

 可愛らしい小さな星だ。


「美味しい」

「よかったです」


 飴玉のように舐めていると、噛んでみてくださいと言われ、噛むとシャリッとした感覚があって、一気に甘さが口の中に広がった。

 素朴な甘さに気持ちが和らぐ。


「食べ過ぎは良くないので、残りは明日にしましょう」

 

 翠の言葉に少しだけ残念だと思って、それが顔に出ていたらしく、彼女は笑い出す。


「申し訳ありません。あまりにも可愛らしくて。それではあと三つどうぞ」

 

 姉などいたことがないけれども、もしいたら翠のような優しい存在がいい。

 そう思わせてくれる彼女。

 

 追加してくれた星を口に含んでシャリシャリと口触りを楽しむ。

 その間に翠はお茶を用意する。

 穏やかな、後宮にいた時の張り詰めた冬のような感じではなく、春のように暖かい。


「凛様?」


 驚かれて気が付く。

 涙がこぼれていたみたいで、私は慌てて拭う。

 翠の緑色の瞳が見開かれていた。


「埃が入ったみたい。化粧も落ちてしまったわ。顔を洗ってもいいかしら?」

「勿論です」


 心配させないように笑って頼み込むと、翠はすぐに他の女官に命じて洗顔の準備をしてくれた。


 

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