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その愛はちょっと重たいかもしれない。(改稿版)  作者: ありま氷炎
第二章 その愛は重すぎるかもしれない
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三 王妃に相応しい者

「凛様、夢蝶の申したことなど気にしないでくださいね」

「翠、心配しないで。大丈夫よ」


 あまりにも翠が怒りを顕にするので、茶会はすぐにお開きになった。

 その後、何度も翠が気にして同じことを言う。

 気にしていないことはないけれども、この数週間抱えていた思いが一気に明確になった気がする。

 私は王妃にふさわしくない。

 皇帝陛下から下賜され、黎光れいこうにとっては命の恩人……正直そんなことは思えないのだけど。

 彼は私を王妃にせざるえない。

 いえ、本当に私を愛しているかもしれない。

 愛というのがいまいちわからないのだけど。

 あんなに優しくて、時折情熱的に向けられる視線、それが愛というものだろう。

 けれども、私は王妃になんてふさわしくないし、多分彼の子を孕むことはないかもしれない。

 その日はずっとそんな考えことをしてしまって、翠がずっと心配そうにしていた。


「凛」

「黎光」


 夕食は彼が忙しいということで、別になり、翠の計らいもあり、部屋で食事をとった。そうして、簡単な書物を読んでいると、黎光が現れた。

 今日は忙しいはずなのに無理をしているかもしれない。


「お忙しいところありがとうございます」


 礼を言うと、黎光れいこうはとても複雑な顔をしていた。

 どうして?


「ねぇ。凛。君はずっと私から距離をとっているよね。どうして?」

「どうしてって、黎光は紫国の王でありませんか」

「凛。私は確かに王だけど、君の前ではただの黎光だよ」


 彼は少し困ったような笑みを浮かべている。

 困るのは私の方だ。

 あの時、私は彼の身分を知らなかった。しかも12歳の何もしらない子どもだった。だからあんな態度をとれた。

 今は違う。


「凛。お願いだ。距離を取らないで。私の側からいなくならないで」

黎光れいこう。そんな風におっしゃらないでください。私はあなたに後宮から出してもらいました。いなくなるなんてあり得ません」

「凛にとっては、そういう意味で私の側にいるんだね。……そのうちわかってもらえると嬉しいんだけど」


 彼は私の手をとって、その水色の瞳を向ける。

 透き通った瞳の中に、力強い何かが光る。


「君がわからなくても、私は君を手放すことはない。君以外に王妃はいないんだ。わかって」


 昼間の夢蝶を思い出す。

 彼は私を愛している。

 だから、側に置きたい。

 わかってる。

 でもわからない。

 どうして、私を?四年前に拾ったから?


「あと一年。一年したら、君は正式に私の妻になる。待ち遠しい」


 黎光れいこうは手を放して、私の頭を撫でるとにこりを微笑んだ。

 眩しいくらいに綺麗な笑顔だ。


「凛。私には君が必要だ。だからおかしなこと考えないで。本当は王妃教育なんて必要ないんだ。辛いならやめてもいいよ」

「そんなこと、辛いことなどありません」


 旦那様に鞭を振るわれ、学んだ日々に比べるととても辛いなんて思えない。

 講師も優しいし、わからないところがあれば丁寧に教えてくれる。


「それならいいんだけど。凛。本当はずっと一緒にいたんだけど、仕事が溜まっていてね。明日は一緒に朝食を取ろう。おやすみ」


 黎光れいこうはなぜか少し悲しそうに目を細めた後、私の額に軽く唇を押し付ける。

 彼にそんなことをされたのは初めてで、生娘でないくせに、熱を帯びる。


「あ、翠に怒られそうだ。じゃあ、また明日」


 多分頬が赤らんでいる。

 見られたくないと俯いているうちに、彼はそう言って部屋を出て行ってしまった。


「凛様。入ってもよろしいでしょうか?」


 黎光れいこうと入れ替わるように翠の声がして、私の返事を待って彼女が入ってくる。その手にはお盆を持っていて、温かそうな湯呑みが乗っていた。

 本当に気が効く。


「ありがとう。翠」

「いえいえ。陛下とは何かお話できましたか?」

「翠。もしかして、夢蝶のこと話した?」

「もちろんです。陛下には逐一話すように言われているので」

「逐一……」

「誤解しないでくださいね。陛下は凛様のことをなんでも知りたいのですよ。本当。重くてすみませんね」


 なぜ翠が謝って、私は思わず吹き出してしまった。


「ふふふ。笑っていただけました?陛下は凛様のことに関わると子どもみたいになるので困った者です。あ、本当に困っているわけではないのですよ。微笑ましいと思います。あの方は昔から何を考えているか、わからないところがありましたからね」


 昔という言葉が、胸に響く。

 私は彼の昔を知らない。 

 知っているのは四年前の数日と、この一ヶ月くらい。

 本当に何も知らない。


「凛様。あまりにも重い時は陽にビシって言ってもらうので、おっしゃってくださいね」


 翠とは恋人の陽。

 そういえば最近見かけていないけど、元気だろうか。

 女装がものすごく似合っていたけど。


「凛様?陽は陛下から、凛様に会わないように言われているんですよ。よそ見してもらったら困るとか。もう独占欲丸出しで。あ、凛様、引かないでくださいね」


 黎光れいこうにそんなに思われているなんて、本当になぜかわからない。

 だけど、陽が姿を見せない理由がわかって少しほっとした。


「翠は大丈夫?陽はあなたの恋人なんでしょう?」

「大丈夫ですよ。浮気なんてしたらとっちめてやりますから」


 翠は腕まくりして、にっこり笑った。

 その笑みは迫力満点で、もしかして翠も結構やきもち焼きかもしれないと思った。



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