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その愛はちょっと重たいかもしれない。(改稿版)  作者: ありま氷炎
第二章 その愛は重すぎるかもしれない
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一 王妃候補

「さすが、凛様。よい王妃になれらることでしょう」


 王妃……。

 本当しっくりこない。

 確かに、後宮にいた時は国母になることを目指していた。目指していたというよりも、目指すしかなかった。


「凛様?どうされましたか?」


 赤毛の女官ーーすいが駆け寄ってきたので、私は慌てて顔を上げた。

 旦那様の顔が浮かんでしまって、だめだわ。

 心配をかけてしまった。


「なんでもないから」


 後宮のことを思い出すと、いつも旦那様の顔をチラつく。もう二度と会うこともないのに。


かん殿、凛様は体調がお悪いようです。今日はこの辺で講義をやめましょう」


 私の背中をさすりながら、翠がかんに申し出る。とたん彼の顔が曇ったので、慌てて口を挟んだ。


「大丈夫よ。ちょっと考えことしていただけだから」

「凛様。無理をしてはなりません。急ぐことはないのですから、続きはまた今度にしましょう」


 彼は大仰に首を振る。

 どうやら、講義が途中になることで機嫌を悪くしたわけじゃないみたいだ。

 ここにきてからも、私は人の顔色を窺ってしまう。

 怯えるわけじゃないのだけど、私に好意をもっているのか、それとも敵になるのか、と反射的に考えてしまう。

 数回、講義を受けているのだけど、やっぱり翠や陽のように信頼できない。


 紫国にきてから、二週間が経った。

 皇帝陛下から下賜された私は王妃になるらしい。

 ……旦那様の元で教育を受け、後宮で一年を過ごしたので、下賜の意味は理解していたつもりだった。

 だけど、まさか、私は黎光れいこう……紫国の国王の正妻になるなんて、思わなかった。

 下賜の意味をよくよく考えたらわかることなのに、後宮から、旦那様の手から逃れることばかりを考えてしまった。


「凛様、お疲れでしょうか?」

「そんなことはないわ」


 翠は本当によくしてくれる。

下賜された妃の私の待遇は、後宮にいた時よりもいい。表だって見下す者はいないし、翠のように親身になってくれる女官がいるので安心感がある。

角家から連れてきた筍には敵意は持たれてなかったけど、旦那様の目であったから気を抜くことが出来なかった。


「凛!」


 扉をたたく音と同時に黎光れいこうの声が聞こえて、きらきらと銀色の光が飛び込んできた。


「陛下、威厳がなくなるような行動を慎んでください」


 ぴしゃりと翠は言い放ったけど、黎光れいこうは全く気にしていないようで、可愛らしい微笑みを浮かんでこっちを見ていた。


「凛、会いたかった。朝食は食べた?」


 ぎゅっと私を抱きしめた後、その水色の瞳を輝かせて聞いてくる。


「はい。ありがとうございます」


 公明……黎光れいこうが紫国の王だと知り、この国来て彼のことを知れば知るほど、距離を感じる。彼の妻、王妃になるために日々学んでいるけど、まだ実感はわかない。

 彼を私を愛しているという。

 とても優しい公明。

 出会った時は、そのまま消えていなくなりそうなくらい儚くて、だから思わず拾ってしまった。

 今は、全然違う。


「凛。嫌なことがあったら教えて。絶対だよ」


 皇帝陛下の妃であった私が孕っている可能性もあって、すぐに婚姻を結ぶことができなかった。黎光れいこうはごねたけど、陽が説得して、この一年は王妃教育に充てられることになった。

 時折熱をこもった目で見られて、思わず視線を逸らしたくなることがある。

 その度に陽が小言を言ってたり。

 下賜された妃、次期王妃、王に寵愛されている。

 この条件が揃っている私に嫌なことをすることなどできるはずがない。

 翠と陽以外の女官や官吏は、私の機嫌を損なわないように接してくる。

 後宮にいた頃とはかなり違う。


「どうしたの?凛」


 水色の瞳はとても澄んでいて、綺麗。

 ここでは私は怯えて暮らすこともない。

 旦那様の鞭に。

 周りの悪意に。

 けれども、いいのだろうか?


 黎光れいこうは、私のどこが好きなのだろう。

 王妃なんて、私にはふさわしくないのに。

 皇帝陛下のお子を産もうとしていたくせに、今はそんなことを思う。

 あれは私の意志じゃないから。

 今は私は考えることができる。

 旦那様の鞭に恐れることはない。

 だからこそ、黎光れいこうのそばで、紫国王の隣にいることがふさわしいとは思えない。

 下賜された私を無下になんかできないだろうし、

 今は彼は私のことを愛しているという。

 でも、その愛はいったいなんなんだろう。


 少女の私に一目惚れしたというけど、今の私はあの時とは違う。

 姿こそ綺麗になったけれども、もう何も知らない生娘ではないのに。

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