表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その愛はちょっと重たいかもしれない。(改稿版)  作者: ありま氷炎
第一章 その愛はちょっと重たいかもしれない。
3/15

 翌朝、宦官が部屋を訪れ、紫国しこくの王へ下賜されると知らせを持ってきた。


 昨日の夜はあまりにも夢うつつで、よく考えられなかったけど、紫国しこくについて聞いた事があった。旦那様からは辺境の地で、蛮族の国だと教えられた。

 住居は布でできた質素なもの、床で寝泊りをして、食事も床で行い、手で食べる。

 確かにそれは野蛮かもしれない。でも、彼がいるならそんな国でもいいかと思った。

 そんな淡い思いを抱きながらも、同時に旦那様のことが不安だった。

 旦那様は私を許すだろうか。

 そんな国へ、私が行くことになれば、旦那様はどう思うか。

 でも、これは命令なので、逆らうことはできないはず。

 私を陛下の側室にし、ゆくゆくは子を産ませ、次期皇帝の祖父となり、権力を握るつもりだった旦那様はさぞかし、お怒りになるだろう。


 公明こうめいは大丈夫だといったけど、私は怖かった。

 だから、紫国しこくに行く前に、後宮を出され実家である角家に帰るのが恐ろしかった。下賜される私を殺しはしないだろう。けれども折檻をされるはずで、後宮を出る知らせを戦々恐々として待った。

 しかし何日待っても、その知らせはなく、紫国しこくに直接渡ることになった。

 私を迎えにきた紫国しこくの女性達。

 動物の毛皮を使った服を着ていて、とても珍しかった。髪も黒色ではなく、白銀。それは公明こうめいと同じ髪色で、自然と好意を持った。


「やっと、我が王の念願が叶います」

「念願?」


 その女性の言葉が気にかかり聞き返すと、悪戯が見つかった子供のように笑った。


「そのうち、おわかりになりますよ」


 紫国しこくから使いは一人ではなく、もう一人いた。真っ赤な髪の女性で、彼女は楽しそうに笑う。緊張していた私も思わず釣られて笑ってしまった。


美凛めいりんもそのように笑うのだな」

「陛下!」


 突然部屋に陛下が現れ、私は傅く。けれども二人の女性は頭を少し下げただけで、しかもなぜか私を守るように立っていた。


「そう警戒するではない。約束は約束だ」


 陛下は、二人の態度に気を悪くすることもなく、私の前にいらっしゃった。


美凛めいりん。私の元でもそのように笑ってくれたら。まあ、今更になるがな」

「陛下」

「顔を上げよ。美凛めいりん、もし紫国しこくの王が無体な真似をするようであれば、余のところへいつでも戻って参れ。そなたの場所は残しておこう」

「お言葉ですが、皇帝陛下。我が王はそのようなことをされる方ではありません!」

「そうです!」


 陛下に向かって二人はそう言い返して、私は目を丸くしたけど、側に控えていた宦官はまたかというような表情をしただけだった。

 まるで私だけが事情は知らないようで、何かわからないまま、後宮の外へ連れて行かれる。


りん!」


 公明こうめいが馬車の近くで待っていた。

 彼の視線が私を捉える。すると駆けてきて、抱きしめられた。


紫国しこくの王よ。ここはまだ皇帝領。ひかえていただけるか」


 紫国しこくの王。

 そうだ、彼は王様だ。

 宦官の言葉に、彼の立場を思い出し、力が弱まった隙に腰を落として頭を下げる。


「宦官殿。これはすまなかったな」


 冷たい、私に呼びかけた声とはまったく違う底冷えする声で、紫国しこくの王は宦官に告げた。


「お分かりいただければよいのです。それでは紫国しこくの王。美凛めいりんをここに。それではよい旅を」


 紫国しこくの王からまだ顔を上げていいと返事を頂いておらず、私は地面に伏したまま二人の会話を聞くことになる。

 この宦官、名前はなんと言っていたのか。

 随分ふてぶてしい感じがする。

 辺境といえ王には変わらないのに。

 私の戸惑いは正しかったらしく、傍に控えていた白銀と赤色の髪の女性達が怒りに震えているのがわかった。


りん。顔を上げて。君は私に仕えるものではないのだから」


 宦官が去っていく足音がして、場の雰囲気が柔らかくなった。

 すると彼から言葉がかかり、顔を上げる。

 水色の瞳が私を見つめていて、息が止まるかと思った。

 やはり彼は美しくて、見られるとどうしていいかわからない。


「陛下。りん様が困っていますよ。そんなに見つめて」

「そうか、りん。悪かった!さっ、国に戻ろう」


 白銀の髪の女性は随分王と親しいようだった。彼女に言われて、王は私の腰に手を当て、馬車に乗るように誘導する。


「陛下。気が早いです」


 腰に触ったことだろうか。

 赤色の髪の女性が厳しい口調で咎め、王は苦笑していた。

 随分、王と臣下の関係が親しい国のようだ。それとも、この二人の女性が特別なのか。戸惑いの中、馬車に乗り、私は紫国しこくへ移動する。


 馬車には二人の女性と王も同席し、にぎやかな旅となった。

 白銀の髪の女性はようで、赤色の髪の女性はすいと名乗った。王と二人は紫国しこくの様子などを話してくれて 私は聞くだけだったけど、蛮族の国として伝えられていたことがほとんど偽の情報であることがわかった。

 寝台がないこと、食事は手で行うことは、聞いていた通りだったけど、住いは今では布ではなく、木製や石製になっていること。動物は狩っても、人を食べることはないこと。

 人を食べるくだりでは、王が面白おかしく話をしてくれて、かなり緊張をほぐしてくれた。


 


 紫国までは馬車で一ヶ月の旅。

 まずは皇帝領を抜けるのに一日かかる。

 日が暮れ始めて、私達は皇帝領の端で宿をとる事になった。


 私は一人部屋を与えられ緊張していたけど、慣れない馬車の旅ですぐに眠りについた。

 肌を撫で回される感触で目を覚ますと、そこには旦那様がいた。 

 声を出しそうになる私の口を押さえつけ、右手には鞭を持っていた。


りん。これでぶたれたいか?おとなしくすれば、ぶつことはしない」


 鞭を見ると体はすくみ上がり、何も考えられなくなる。

 そんな私の口に布を詰め込み、旦那様は着物に手をかけた。


「蛮族の王にやるくらいであれば、最初から私の玩具にしておけばよかった。無駄な時間をかけさせた上、あのような金子で話がつくと思って。まあ、陛下の命令だ。聞いてやる。だが、一度くらいは楽しませてもらう。ずっと、お前を抱きたかった。陛下に献上するため、我慢していたが、もういいだろう。散々陛下を楽しませてきた体なのだから」


 聞きたくない言葉が耳に飛び込んでくる。

 このまま気を失ってしまいたい、そんなことを考えていたら、急に視界から旦那様が消えた。


「この外道が!」

「陛下。殺すのはおやめください」


 赤色の髪のすいが私の傍にきて、着物を直してくれた。白銀の髪のようはなにやら勇ましい格好していて。王を止めていた。

 騒ぎを駆けつけて、女将が街の役人を連れてやってきた。旦那様は処罰されると、王が言っていた。


りん。大丈夫かい?」

「はい」


 王は心配そうに見ていた。

 これは私のせい。旦那様の期待を裏切ったから。


りん。私のせいだ。金を握らせれば納得すると簡単に考えていた。いやな思いをさせてごめん」

「そんなこと。王様。謝らないでください」

「王、様?」


 王に嫌そうな顔をされた。


「何か聞き捨てならない言葉を聞いた。りん、君は私のことを王様と呼ぶのか?」

「はい。いけませんか?それでは私も陛下と、」

「凛。私の本当の名は黎光れいこうという。君が名づけた名前の公明こうめいでもいい。王様と呼ぶのはやめてくれないか?」


 そんなこと。

 王様は王でしかありえないのに。


りん様。名前で呼んであげてください。私も普段は、黎光れいこうと呼んでますから」


 白銀の髪のようは、随分低くなった声でそう言った。

 よく見ると、格好だけじゃなく、なぜか、とても男らしい。


「私は、実は男なのです。すいだけじゃ心配なので、変装して後宮に入ったのです」

よう。お前の話はどうでもいい。りん。君も私のことを黎光れいこうと呼んでくれないか?」


 王、黎光れいこうはなぜか切なげに私を見ていて、その後ろのようもお願いというような表情をしていた。


「……黎光れいこう?」

りん!やっぱり本当の名前で呼ばれるのはうれしいな。公明こうめいが嫌いとかじゃないよ。あの名前も君がつけてくれたから、大事に思っているんだ」


 黎光れいこうは子供みたいなはしゃいでいて、私は四年前の彼の姿に今の彼を重ねる。

 そしてやっと同じ人物だと、納得できた。

 大人なのに、とても子供みたいな人で、守ってあげないとと思わせた人。

 彼はやっぱり彼で私は安心した。


りん!やっと私に笑顔を見せてくれた。その笑顔、ずっと見たかったんだ。私はね。十二歳の君に一目ぼれをしたんだ。だから、国に帰ってからずっと君のことを考えていた」

黎光れいこう。告白はちょっと早すぎます。ごらんなさい。りんが引いてらっしゃいます。時間をかけてと言ったのに」


 熱い視線を送る黎光れいこうの隣で、呆れたようにようがぼやく。

 黎光れいこうの思いは嬉しいけど、私はまだちょっとわからない。

 だけど、彼の傍で、生きていくのは幸せなことかもしれないと思った。


りん。引かないでくださいね。陛下はずっとあなたを探していて、まだ誰とも情を交わしたことがないのですよ」

すい!何でそんなことを言うんだ!」

「陛下の純愛を証明しようと思いまして」


 だけど……黎光れいこうの思いはちょっと重いかもしれない。

 そんなことを思ったのは秘密だ。


 私は賑やかな二人と、王と新しい土地へ向かう。 

 旦那様に養われた三年、後宮での一年。

 私にとっての四年間はとても楽しいものじゃなかった。

 でも、これから黎光れいこうの土地で、新しく生まれ変わることができるかもしれない。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ