十(挿絵あり)
角家の残党ー文勇たちは皇帝領に戻されることになった。
黎光は皇帝からの書簡を私にも見せてくれ、彼らの処分について知ることになった。
「斬首は重すぎる気がします」
「皇帝がやらなきゃ、私がやるところだよ」
黎光は書簡を綺麗に折り畳みながら答える。
荀は少し怖かったけど、私が恨まれる理由はわかる。
だからと思ったけど、黎光はものすごい怒っていて、このことについてはもう言わない方がいいと思った。
青族への処罰は行わないことになった。
私が泥を被ったことになるのだけれども、構わなかった。
願わくば花芳が元気になってくれるといい。
桂梨は自ら職を退いた。
花芳をこれからも支えてほしいと思ってる。
「凛、おいで」
この騒動が起きてから、私の自由時間が減ってしまった。会議でもなんでも私は連れて行かれた。彼の隣に席が設けられ、私はそこに座る。
黎光は私とずっと一緒にいるつもりのようだった。
少しでも離れると物凄い追いかけられる。皆んなに迷惑をかけるので素直に彼の側にいる事にした。
最初のうちは周りの視線が痛かったのだけれども、その性質が徐々に変わっていった。
それは黎光の私への態度があまりにも甘いせいだと思う。
多分皆んな呆れていたはず。
これじゃ、彼の評判を落とすんじゃないかと心配で、何度も言ったのだけれども、彼は常に私を連れていく。
陽や翠が愛情表現が重すぎ、やめた方がいいと助言するのに彼はやめなかった。
側でただぼんやりとしているのでは、彼の顔に泥を塗ると思って、私になりに会議の内容や、面談があれば面談の内容を理解しようと心がけた。
そんな私のことがわかってか、黎光が私に意見を求めたりするので本当に困った。
でも勉強した結果が出ていて、おかしなことは答えていなくて、黎光以外に他の人から意見を求められることも増えた。
視察にも連れて行かれて、色々な人と会った。
そうして過ごしてると一年はあっという間に過ぎた。
王妃にふさわしくないという私の意見に、黎光は笑って答えた。
「君がふさわしくないって?この一年近く私と一緒に会議に参加して、君の意見が採用されたことが何度もあった。それでもふさわしくないと思うの?」
子が産めないかもしれない。
私の言葉に彼は微笑む。
「皇帝陛下から聞いている。彼は薬を処方していた。だから君には問題はない。皇帝陛下とは一年。私と君では十分時間があるね。これから毎晩楽しみだよ」
彼は私を抱き寄せると囁いた。
「君に愛ってどんなものか教えてあげる」
耳元に息がかかって、初心な気持ちなんてないはずのなのに、顔が真っ赤に染まる。
まだ自分の気持ちはわからない。こうして求められるのが、必要とされるのが嬉しい。
翠に相談すると、こんな重い愛を受け止められるのは私だけだと感心された。
どう言う意味なんだろう?
婚姻の儀の準備が進められる中、花芳が青族の族長と共に面談を求めてきた。
黎光から断っていいと言われたけど、私は会いたかった。
花芳ときちんと話をしたかった。
「それでは、私は外で待っておりますので」
翠がガンと譲らず部屋にのこったけど、青族の族長で、花芳の父泰芳は退出した。
静寂に包まれる部屋の中で、花芳が先に口を開いた。
「お会いいただきありがとうございます。あの時は本当に申し訳ありません」
花芳が深々と頭を下げた。
「謝る必要はないの。あなたの気持ちはわかるから。でもこの一年で私は変わった。今は私は王妃にふさわしいと思える様になったの」
「凛様。いえ、王妃様。あの時、私どもを庇ってくださった時から、私はあなたが王妃にふさわしいと悟りました。そして目が覚めました。私もこの一年で、変わりました」
花芳が明るい笑顔を浮かべる。
角家の騒動の際、青家で見た彼女は美しかったけど、儚い印象が大きかった。
けれども目の前の花芳は、血色がよく、少しふっくらとしていて健康的だった。
花芳との話はそれで終わり、戻ってきた彼女の父からも一年前の騒動について再度感謝された。
月日は経ち、婚姻の儀の日がやってきた。
視察に同行したりして、国民と直に話す機会もあった。だから国民には私が時期王妃であることは伝わっている。
正式なお披露目はまだされておらず、今日は初めてになる。
身につける着物は複雑なものではない。
けれども頭にかぶる飾りが大きくて、均衡を保つのが必死だった。
どうにか婚姻の儀が終わって、夜がやってきた。
黎光との初めての夜。
彼の言葉には嘘はなくて、愛というものがどういうものが教えてもらった。
翌朝、体が鉛の様に重く感じて、目を覚ます。
隣を見ると幸せそうに笑みを浮かべて熟睡している黎光がいて、十年前の彼との出会いを思い出す。
綺麗な人、やっぱり精霊のように美しい。
彼の愛は受け止めるには重すぎるのだけど、この国、紫国で私は彼の側で生きていこうと思った。
(おしまい)
駆け足の終わりになってしまいましたが、最後までお読みくださりありがとうございました。