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その愛はちょっと重たいかもしれない。(改稿版)  作者: ありま氷炎
第二章 その愛は重すぎるかもしれない
11/15

六 

「黎光様。往生際が悪いですよ」

「凛も連れて行きたい」

「それは駄目です。凛様の評判を落とす様なことはやめてください」 


 昼食は思ったより時間がかかってしまい、黎光が陽に急き立てられる。


「さあ、凛様。お部屋にもどりましょうか」


 恨めしそうな黎光の視線をぴしゃりを遮り、翠が微笑みを浮かべる。

 視線が思わず、彼と翠の間で彷徨ってしまった。


「黎光様。凛様を困らせるのはやめてください」

「わかったよ。凛、ぎゅっとしたから元気もらったよ。午後の執務も頑張ってくる。君はあまり深く考えない様に。私の言葉を忘れないで」


 彼の言葉に泣きそうになって、私はただうなづくしかできなかった。

 翠と共に彼の部屋を出て自室へ戻る。

 その後、すぐに彼らも王室へ向かった様だ。

 執務の邪魔をしてしまったかもしれない。


「凛様。黎光様のことは気にしないでくださいね。困ったものです」


 王のことを気にするなと、翠はまた大胆なことを言う。

 

「午後からは書庫へ参りましょうか?」

「いいの?」

「もちろんです」


 皇帝の母になるため、知識は必要だった。そのために角家で文字を教わり読書を強要された。書物はすべて知識を得るためであり、内容も歴史や地理、政治関連で楽しめる様なものではなかった。けれども現在、講師の教えについていけるのは、これらの読書のお陰だ。

 後宮で書庫に行くことがあり、面白そうな書物を見かけたことがあった。手に取るとお目付け役の荀に睨まれたため、旦那様の顔も浮かんでも結局借りなかった。

 紫国の王宮では自由を保障され、時間もあったため、娯楽として書物を読むことが多くなり、書庫に行くのは楽しみになっていた。

 気がつくと書庫で座り込んで読んでしまっていて、翠に苦笑されてしまう。

 時刻を聞くと、すでに二時間ほど過ぎていて、慌ててしまった。


「随分楽しそうに読まれてましたね。借りられますか?」


 翠は私を急き立てることもなく、ゆるりと聞く。


「いいの?」

「ええ」

「でもまだ部屋にある書物は返してないわ」

「いいのですよ。お部屋にある書物は全部読み終わりましたか?」

「まだ、一冊読んでないものがある」

「それでは、この二冊を今日は借りて、残りは読み終わってからにしましょうか?」

「ええ。ありがとう」


 こんなによくしてもらってもいいのかな、

 それくらい翠は優しい。

 姉がいたらこんな感じかもしれない。


「翠様」


 ふいに慌てた様子で、桂梨けいりが書庫に入ってきた。彼女にしては珍しく髪が乱れている。


「桂梨、どうしたのです?」

「赤族の族長様がいらしゃって、翠様を探しております」

「族長が?どういうこと?」

「申し訳ありません。私にはわかりません。春風殿でお待ちです」

「……わかった。桂梨。凛様のことは任せるわね」

「かしこまりました」

「凛様、しばらく席を外します。申し訳ありません」

「謝る必要なんてないわ。ゆっくりしてきて」


 翠は赤族の族長の姪だもの。何かあったかもしれない。

 桂梨と二人になるのは正直緊張するけど、そんな事言えないわ。

 翠が書庫を出て行き、二人っきりになった。


「それでは凛様。お部屋に戻りましょうか?」

「そうね」


 借りる予定だった書物。

 まだ読んでないものも部屋にあるし、今日はいいわ。

 書庫を出ようとしたところで桂梨が立ち止まった。


「どうしたの?」

「凛様。花芳にあっていただけないでしょうか?」


 花芳……、黎光の婚約者だった女性。

 床にふせっていると桂梨が言っていたけど。


「やはり無理でしょうか?」

「そんなことはないわ。花芳は大丈夫なの?」

「大丈夫と言える状態ではありませんが、一度貴方様にあってみたいと相談されたのです。陛下は婚約を解消してから花芳とは会ってくれず」

「わたしのせいね」

「とんでもございません」


 桂梨の表情が青ざめるのがわかった。


「安心して。あなたや花芳のことは誰にも話してないわ。けれど、花芳はどうして私に会いたいの?」

「陛下が好きになった方を見てみたいという願いです。それでもしかしたら吹っ切れるかもしれないと」


 吹っ切れる。

 本当はそんな必要ないのに。

 黎光に相応しいのは花芳なのに。




 


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