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その愛はちょっと重たいかもしれない。(改稿版)  作者: ありま氷炎
第二章 その愛は重すぎるかもしれない
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五 問答


 昼食は黎光と共に取ることになり、彼の私室へ向かう。

 部屋には彼と同じ髪色の陽がいて、久々にその姿をみた気がした。黎光と並ぶとその美しさは霞むけれども、十分に整った顔に細身の体。今日は文官の服を纏っているので男性に見えるけど、女官の服に身を固めると女性にしか見えないかもしれない。

 実際、後宮に迎えにきた時は女性としか思えなかったし。

 

「凛」


 見惚れていたわけじゃないのだけど、少し不機嫌そうに名を呼ばれて、慌てて陽から視線を逸らす。視界の端で彼は苦笑したのがわかった。


「だから、陽に会わせたくなかったんだよ」

「しばらく挨拶もしていなかったので、ご無体なことは言わないでください。陛下」


 陽は流石に従兄弟なだけあって、不機嫌な彼に構わず私の前に現れる。


「凛様、ご無沙汰しております。こうして文官として挨拶するのが、誰かさんのおかげですっかり遅くなってしまいました」

「誰かって」


 黎光が噛み付くように口を挟んで、とうとう堪えきれなくなった。

 二人は従兄弟同士で遠慮がなくて、やりとりを見ているだけで楽しくなる。


「ほら、陛下。凛様の笑顔見たかったでしょう?」

「そうだな。お前のおかげというところが気に食わないけど」

「お二人とも、凛様が戸惑っていますよ」


 二人の会話をうまく収めるのが、翠の役目のようだ。

 

「さあ、翠。私たちはお邪魔のようだから、外で待っていようか」

「陽。給仕はどうするのですか?」

「それは黎光にまかせればいいだろう」

「陽!」

「翠。心配しなくてもいい。私が十分凛の世話はするからね」

「陛下がそういうと別の意味に聞こえます」

「失礼だな」


 本当にこの三人のやりとりは楽しくて、私はまた笑ってしまった。


「翠にも感謝しないとな。陽と一緒に食事をとっているといい。私も凛と二人っきりを楽しむから」


 そうして翠と陽が出ていって、私は黎光と共に部屋に取り残された。

 彼の私室は紫国の文化をそのまま取り入れている。椅子や机もあるけれども、奥には幾つもの毛皮で作られた敷物が敷かれていて、座卓が置かれている。

 黎光は椅子に座って食べるよりも、敷物の上に座って食べるのが好きなので、二人で食事する時はいつも座卓を利用する。

 最初は戸惑ったけど、床に座るというのは、ちょっとした安心感があってすぐに慣れた。

 できるなら私の私室にも欲しいくらい。

 ……私室。そうね。


「凛。何か私に話したいことがあるんじゃないか?」


 私たちは小さな座卓を挟んで真向かいに座っていた。

 水色の瞳は輝きを増し、水晶のようで、私の考えを全て見通すことができると錯覚してしまいそうになる。

 そういえば、皇帝陛下の漆黒の瞳もそういう風に思わせることがあった。

 上に立つ人はやはり見通すことができるのかな。

 そうであれば、話は早い。

 お茶を飲んだはずなのに口の中が乾く。

 だけど私は彼の水色の瞳を見つめ返して口を開いた。


「黎光様。やはり私は王妃にはふさわしくないと思うのです。皇帝陛下から下賜された身でそんなことを口にするのもおこがましいのですが」

「凛。君は何を言っているんだ。下賜はあくまでも形式だ。下賜という形で君をあの後宮から出す方法が一番適切だったんだ。それとも、君は私の妻になるのが嫌?」

「そ、そんなことは」


 即時否定した自分に驚いた。

 黎光への自分の思いについてまだよくわからない。

 でも彼の妻になりたくないわけではない。

 寧ろ嬉しいくらい。

 けれども、彼は紫国の王。ふさわしい相手が他にいる。


「だったら余計なこと考えなくていいから。君が妻になってくれることが私の幸せなんだ。君が側にいてくれたら、なんでもできる気がするんだ」


 水色の瞳が眩しいくらいに光っていて、思わず視線を外してしまった。


「凛。やはり嫌なの?」


 ここで嫌だと答えたらどうなるのか。

 激昂するかもしれない。 

 旦那様のように?

 ふいに旦那様の顔と鞭が脳裏とよぎる。 

 するとあの恐怖が蘇ってきた。


「凛。震えている。どうした?」

 

 立ち上がって、黎光が隣に座る。


「ご、ごめんなさい」


 恐怖心に支配されて、背中を触っているのが彼だとわかっているのに震えが止まらなかった。


「凛。もう聞かない。だから怖がらないで」


 ぎこちなく抱き締められて彼の温もりを感じる。

 すると震えが止まった。


「すみません」

「謝ることはない。あ、離れないで。もう少しこうして君を抱きしめていたんだ」


 彼の抱擁から抜け出そうとしたけれど、頭上でそう言われて、その言葉に甘えることにした。

 

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