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婚約破棄された怪力ぽちゃ令嬢は、それでも婚活を諦めない  作者: からふるろく
二章 怪力ぽちゃ令嬢、さっそく【暗黒騎士】に狙われる
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9話 モモ「悪役令嬢は貴様か」

 壁にめり込んだ男が、ぐらりとそのまま前に倒れた。


 トンデモな光景に、さっきまでガヤガヤと賑やかだった酒場はシンと沈黙に包まれる。


「あっ……」

「あ」


 アンとモモは2人で呟いた。

 そして多分同時に思った。


 やってしまった。


 アンが何かを言おうと口を開きかけた瞬間、 


「……な、なんだ今の! スッゲェー!!」


 髭の生えた男が大きな声を出した。そして続くように


「何だ今の!」「すげぇっ、お嬢ちゃん……すげぇよ!」「人間かほんとに!」「何のスキルだよ今の!」


 酒を片手に、客という客が声を上げる。なんかめちゃくちゃ盛り上がり始めた。アンはポカンとして立ち尽くす。


「お嬢ちゃんならAランクモンスターぐらい一撃でいけるんじゃねえのか!」

「いやいや、Sランクドラゴンもワンチャンぶちのめせそうだ!」

「だって、ちょっと叩いただけで吹っ飛んだもんなぁ!」


 がしっ! と肩を組まれて、アンはオロオロ「え? あ、えへ? そ、そうですわよ、そうですわよね」と早口で言う。死ぬほど焦っている。


 ふと視線を向ければ、倒れていた被害者の男はむくりと身体を起こし、  


「死んだばあちゃんが手招きしてた……」


 と、うわ言を呟いていた。 


 アンはかけよって、「ごごご、ごめんなさいほんとうに!」と謝りに謝る。


 モモはホッとしたようにその光景を眺めていた。


 なんとかなってよかった。


(これなら、しばらくは放っておいて大丈夫そうね)

 

 気づかれないようにそっと酒場から出たモモは、夜道を静かに歩きだした。 



☆ ☆ ☆


  

【――侵入成功、間もなく王子の元に到着予定。誰かといるようです】


 モモの体内から発信されるのは、男爵に向けた魔波メッセージ。目には暗視機能が起動し、コソコソと場内を探っていく。


 屋根裏に忍んだモモは、王子がいる客間の上へとたどり着いた。盗聴を起動させる。

  

「ーー・ーーーーまさか、アンがーー・」 


(聞こえづらいわね)


 しかし、アンの名が聞こえた。

 もう少し注意して聞く。


「あの方は恐ろしい方……今まで、だれも逆らえなかったですもの」


(誰かといるわね……女の声)


 まさか本当に裏で手を引いていた女がいたとは。


 モモは若干ショックだ。


「みんな、王子には黙っていたんです。彼女の恐ろしさを。今回のことはーー王子には災難でしたが、良かったのかもしれないですわ……」

「……アンは僕のことを、本当は嫌いだったのか……」

「ええ……だって、もう王子には関わってこないじゃないですか。そして学園も退学されて……」

「君から話を聞くたびに信じられない……でも、この目で見てしまったから……」


【旦那様、死ぬほど怪しい女が王子といます。データ参照…………でました。お嬢さまのご友人……間違えた、取り巻きだった女の一人、シフォン・ラビロースト令嬢です】


 聞こえないようにため息を吐いたモモは、そのあと小さく舌打ちした。


 ぴぴっと脳内にメッセージが届く。


【あーあー、聞こえるかモモ。盗聴を続けろ。明らかに怪しくて、男爵笑いが止まらんナウ】


【承知しました】


 会話を聞きながら、モモは右手で魔法を起動し、データベースにアクセスする。ブレッドスター家のデータ群にアクセスしながら、至る所に仕掛けてあるスパイデータと統合を始めた。


「ーー・ーーーアンは本当に敵国と通じているのか」

「じゃないと、お忍びデートの場所がバレるはずがないじゃないですか……」

「なんてことだ……」


 疑心暗鬼にどんどんはまっていく王子を見て、

 シフォンは一瞬だけ邪悪に微笑んだ。


 モモはそれを見逃さなかった。


「わたくしは王子を裏切りません」


 シフォンは、立ち上がると王子の隣に座り、白い指を王子の肩に添わせる。  


「シフォン、」

「もう誰にも、貴方を裏切らせない」


 シフォンの瞳がうっとりとし、王子にささやく。

 王子も、シフォンの両肩を抱いた。

 二人の身体が触れ合う。


 ゆっくりと、シフォンの唇は王子に触れようとする。

   


【ーーーーイラッ】

 

 

 ドカンッッッ!!!



「きゃああああ!」

「……な、なんだ! 何者だ!!」


 突然の魔法炎弾の攻撃に、ふたりは身体を離して狼狽する。

 ギリギリの理性で壁に打ち込んだが、

 穴の空いた壁からはモクモクと煙が上がっていた。


(まずい、殺す気でやってしまった)


 無意識でだ。


 王子と令嬢が慌てふためき、城の兵が何事かと部屋になだれ込んでくるのを見ながら、モモは落ち着き払ってその場をあとにした。

 

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