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婚約破棄された怪力ぽちゃ令嬢は、それでも婚活を諦めない  作者: からふるろく
二章 怪力ぽちゃ令嬢、さっそく【暗黒騎士】に狙われる
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6話 暗黒騎士さまの吉報


「……暗殺に失敗しただと」


 冷たく低い声が呟いた。

 暗い部屋の中、深く椅子にもたれかかった声の主は、不機嫌そうなため息を吐き出す。


「絶好のチャンスだっただろうが……お気楽なバカ王子と、その婚約者。インダストル王国を混乱に叩き落とす良い機会だったのによ」

「それがですね、ナズマ様……」


 従者の言葉に、眉をピクリとひそめた。


「んだよ」

「報告によりますと、令嬢に倒されたとのことでして……」

「は?」


 語気が強くなったので、従者は「ひぃ!」と身体を震わせた。


「モタモタすんなさっさと説明しろ」

「……令嬢の方は、アンバー・ブレッドスター男爵令嬢。かの、変人魔法研究家の娘です。データにはなかったのですが、調べたところものすごい怪力だという情報がありまして」


「ほう?」


 ナズマの鋭い片目が、ギラギラと燃えるように見開いた。眼帯で覆われた方を大きな手でなぞりながら、「そうか……そうか、おもしれぇな」と低く笑う。


「王子に見初められるってんなら、相当見た目も良いんだろ」

「はい、華奢な美人だと伺っております」

「本当かどうか、確かめてやる必要があるな」


 ナズマは重いマントを椅子から引きずり上げ、自分の肩にかけた。

 ガチャガチャと、簡易な鎧が揺れる。


「アンバー・ブレッドスターは現在、領地から移動して中央にいるようです」

「はん、なるほど。まあいい、一目見に行ってやろう、この俺が」


 ナズマは、意地の悪そうな笑みを浮かべて言った。


「楽しみだ、怪力令嬢」




★ ★ ★



 ナズマ・ロクフェイスは敵国、ロジーク帝国の残酷騎士として悪評を誇っている。


 邪魔者を始末するためなら手段は選ばず、争いを好み、4人の暗殺者を常にそばに置くという危険な男。そんな彼が、酔狂のために行ったのが「王子暗殺未遂」というヤバイ所業。誰の指示でもなく、彼が勝手に行ったことだ。


「ナズマ様、本当に行くんですか」

「あ? 久しぶりに楽しいぜ、俺は。珍しいものが見れるかもしれねえんだから」


 従者は、主人の楽しそうな笑顔が世界で一番恐ろしい。黙って「そうですね」と言わんばかりに微笑んでおくのが正解だ。余計なことを言うと殺されかねない。


 鎧を脱ぎ、物騒な眼帯を外し、汚れを浄めたナズマは、いかにも庶民な格好に着替えていた。従者から見るとコスプレにしか見えない。


「ほら、わりと庶民っぽくなっただろ」

「ええ、本当に」

「はっきりしろ、どっちだ。言え」

「庶民です、どこからどう見ても」


 そうだろうが、と笑う主人には何も言うまい。暗黙のルールだった。


「ここから馬とばせば明日にはつくな」

「ナズマ様正気ですか」

「俺がいつ正気じゃねえんだよ」


 黒い馬にさっそうと跨ったナズマは、「まあ楽しみにしとけ」と軽く微笑んだ。そしてそのまま振り返らずに馬を走らせ、敵国に堂々と侵入しようとする。



ーー例えばそれが、国を出てすぐのアンと入れ違いになって、気づかなくても。



 そしてきっと、そこで諦めておけばお互い良かったのかもしれないが、ナズマは執念深い男だった。


 ゆえに、


 変貌を遂げたおでぶ怪力令嬢と、


 敵国の残酷騎士が入れ違いに気づいて追いかけてくるまで、

 

 そうは時間がかからない出来事だったようだ。


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