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婚約破棄された怪力ぽちゃ令嬢は、それでも婚活を諦めない  作者: からふるろく
一章 怪力ぽちゃ令嬢、婚約破棄される。
5/16

5話 怪力ぽちゃ令嬢、決意する

 金色の髪に、歳を感じさせないツヤツヤのお肌。いつまでも若く、そして頭がおかしいと噂のブレッドスター男爵……そして、アンの父。転生者だとか、稀代の魔術師だとか、一大ハーレムをかつて築いただとか、いろんな噂のある彼だが……


 そんな彼を父に持つと、アンはいろいろと苦労したものだ。


 例えばこの木っ端微塵にされた壁だって、父の手にかかれば修繕なんてあっという間なのは知っているが、なにぶん穏やかではない。


 とにかく父は変人なのだ。アンは嘆息する。


「……お、おとうさま、あの」

「おっとこれは驚いた! 我が娘、やけ食いにも程がある」


 ひょうきんにおどけた男爵は、からからと高笑いした。バイクから降りて、アンの前でステッキを振る。


「まあ、僕の故郷ではふくよかな女性がモテてたし大丈夫。それよりも許せないのは婚約破棄の方だ!」

「旦那様、お嬢さまはふくよかの範囲を150%超えています」

「モモ、空気読めないところ、アンドロイドらしくてハナマルだぜ」


 あくまで男爵はマイペース。気まずそうに慌てるアンのこともさほど気にしていない。


「ったく……昨今、婚約破棄なんか流行らないぜ、我が娘よ。おいモモ、調査だ。絶対婚約破棄するように仕向けた悪役令嬢がバックにいる」

「旦那様、この事件はお嬢さまの自業自得な可能性が高いのですが」

「僕の故郷だと、そういうのが流行ってたんだよ」


 どんな故郷だ。


 アンはあまり考えないことにした。この父に真面目に向き合うだけ損だと知っている。


(お母さまは、なぜこんな変人と結婚したのでしょう……)


 国一番の美人だった母は、アンを生んでまもなく亡くなっている。それ以来父は、女性と付き合うことなく、今でも母を想っているらしいのだ。かつてハーレムを築いたらしい父が。


(……悪い人ではないんでしょうけど)


 モモに調査の指示を出す父を見ていると、なんだか馬鹿馬鹿しくなってくる。アンはくすっと笑った。


「……アン、元気でたかい? いっぱい食べていっぱい笑う、これが元気の秘訣だ」

「旦那様、名言でましたね」

「メモしておきな」


 そう(うそぶ)きながら、男爵は「本題に入るぞ、我が娘」と向き合った。


「アン、ぶっちゃけた話……今回のこと、どう思っている」

「どうって……」


 脳裏に浮かぶのは、王子の怯えきった顔。そしてそれ以来目も合わせようとしない態度。胸がズキンと傷んだ。


「……悲しいです、こんな力、ほしくなかった」

「お嬢さま、強キャラ感マックスです」

「モモ、しばらくお口チャック」


 モモの会話機能が停止した音がした。


 ぴぴーっ。


 アンは、長いまつげをパチパチ瞬かせてうつむく。


「……わたくし、がんばったのに、振られて、挙げ句の果てにこんな大食漢に」

「ああ、可哀想なアン!」


 おおげさに泣き真似をした男爵は、わざとらしく「しかし、まだ諦めるのは早いぞ我が娘」と言い、ニヤリとした。


「そもそも、そんな軟弱な男……アンにふさわしくない!

 と僕は思うわけだ」


 アンの視界の端で、機能停止したモモが首を激しく縦に振っている。


「なーにが王子だ。令嬢に守ってもらった挙句振るような軟弱な男だぞ! 見返してやりたくはないのか! 我が娘!」


 モモが口パクで「そーだそーだ!」と言っている。


「アン、君はもっと素敵なお婿さんを探すべきだ。こんな貴族界……いや、国、世界を飛び出してね」

「お、おとうさま」

「きっとどこかに、君を本当に愛してくれる人がいる。絶対にそうだ」


 男爵は力強く言った。


「悔しくないのか、アン。見返してやればいい……最高のお婿を連れて、最高に幸せになって、王子を!」


「お、おとうさま……!」


 アンは思わず、何年かぶりに父に抱きついた。メキメキメキメキと、何かヤバイ音がするが、男爵はあくまでクールに、やけに肉感が増した娘の身体を抱きしめ返した。


 アンは瞳からぼろぼろと大きな涙をこぼし、笑う。


「わたくし、絶対に最高のお婿を連れて、この領地に帰ります」

「そうだ、その意気!」

「ね、モモ! わたくし、ふっきれましたわ。そして決めました!」


 ふわりと見た目の割に軽いステップを踏み、楽しげに回ってアンは微笑んだ。



「わたくし、自分より強い者を求めて旅にでます!」


「お嬢さま、どう見ても血に飢えた猛者のセリフです」


 

 かくして、脳筋おでぶ令嬢の、婚活の旅が決定したのであった。


 そして言うが早く、翌日にはメイドのモモを連れて出発してしまった。   


 敵国から魔の手が伸びていることにも気づかずに……。

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