2話 令嬢は、王子の暗殺者をジャイアントスイングしました。
アンは、ミシミシミシィ……と骨のしなる音を聞きながら、同時に王子の顔色がサーーッと青くなっていくのも感じていた。最悪だわ、とも思うが、この状況をどうすることもできない。
アンの下で、死にかけのニワトリみたいな声を喉から出しながら男はのたうち回る。
さすがにダメな気がした。
ぱっと手を離すと、黒装束の男はナイフを持ち、軽々しい身のこなしで斬りかかってくる。
チッ! と舌打ちして、やむを得ないから男の下に潜った。そして両足をガッチリ掴んでグイィと、引っ張りあげる。相手はナイフを落とした。多分ビックリして。そのまま、足を掴んだまま男を振り回した! というか振り回しながら大回転した。
一撃必殺!
ジャイアントスイングっっ!!!
「ぎゃああああああああああ!!!」
情けない大声を出した黒装束をそのまま壁に激突させ、ブッ倒れたところを両腕縛り上げて捕獲。流れるような一連の動作。
ここまでやって、ようやくホッとため息をこぼした。
……いや、ホッとするのはまだ早い。
恐る恐る、振り向いて、震える声で無理やり笑って、
「お怪我はありませんか? 殿下」
ーー振り向いた先にいたのは、黒装束の暗殺者以上に震え上がり、何なら漏らして歯をガタガタさせている、
インダストル王国第二王子、ドーナ殿下のお姿であった。
「あっ、わたくし、終わりましたね」
心の中でつぶやくつもりが、うっかり口に出た。
氷点下な二人の後ろで、黒い暗殺者の「化物……」という、最後の言葉だけがポツリと聞こえた。