表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

炊きたてごはんと一汁二菜

とある平日の16時、手持ち無沙汰のボクは夕食を作ろうと思い立った。今日はなにを食べようかな。


そろそろごはん、炊くかー。


そう思い立って冷蔵庫の野菜室を開けた。

よし、今日はこれっ。

中を見回した後、右手前にある新聞紙に包まれたものをとりだし、中を確認。

「三重県産コシヒカリ……。やっぱこっちにしよう」

無作為抽選の結果に納得がいかず、別の包みに取り替える。

「山梨県産農林48号。うん、今日のお米はこれだね。うん、なかなかいいツヤしてるね」包みの中にはポリ袋に入ったお米が入っている。それも玄米の状態である。

中身に満足したボクは、抽選の不正行為など気にもとめず振り返ってお尻で冷蔵庫を閉め台所へ移動する。

「2合でいいかなー」

頭のなかで考えながら計量カップで玄米をすくい、炊飯器のような機械に投入する。

1杯、2杯、2合、白米、ぽち


しゃごごごごごごごごごごごごご

ボタンを押すやいなやモーターが唸る低音とお米が擦れ合う音が部屋中に響く。

「うるさい…。」

しゃごごごごごごごごごごごごご

………

しゃごごごごごごごごごごごごご

……止まる。

しゃごごごごごごご


予想より7秒ほど長く動き続けて機械は止まる。蓋を開けるとそこには白米が入っていた。

うんうん、ボクは満足し精米されたお米を片手鍋に開ける。鍋は直径18cm、深さは10cmほど。くっつかないコーティングのされたものである。ネット通販で買った、1230円。

「322グラム。1.5倍だからえっと450、472、483グラムぐらい」

片手鍋はデジタル計りの上に乗っていた。

お米の重さから水の量を計算、この手順も慣れたものである。


蛇口を開け、お米を洗う。

米は『研ぐ』なんていうけど、今時のお米は精米がしっかりしているので、軽く洗う程度で十分。どこかで聞いた、料理研究家の言葉が頭をよぎる。全くそのとおりだ。

冷蔵庫で玄米のまま保存した、精米したてのお米ならなおさら手を加えないほうがいい。素人の自分が余計なことをする必要なんてないのである。

気をつけることは、最初の水をすぐに捨てることぐらい。あとはいい加減でもおいしく炊き上がる。何度も経験したことを確認し、つい余計な手出しをしがちな自分を押さえ込む。


3回ほど水を替え、ちょっと白く濁った水が入った鍋を計りに置き、水を調整する。

「798グラム、まいっか。」

7グラムのズレを誤差の範囲と許容してから、ちょっと心配になる。

「1.45%の誤差(小数点第2位を四捨五入)、やっぱり大丈夫じゃん、さすがボク。」

あれこれ計算方法を思い出しながらスマホの電卓で出した値に納得。

直感で7グラムを許容した自分もしっかりとほめておく。


炊く前の準備を終えた鍋にふたをして、コンロの上に置く。蓋はガラス製だ。

吸水時間は1時間。今日のおかずはなににしよっかな。

おいしいごはんを思い浮かべながら、マイバッグに財布とスマホをいれ、買い物に出かけて行くのであった。




~1時間10分後~


「ただいもぉ」

買い物から帰ったボクはコンロの前に直行する。吸水時間が少しぐらい過ぎていても大した問題ではなかったが、今日炊くお米は新米だ。きっとデリケートなやつだから、気を使ってあげないといけない。

スーパーに長居してしまったことに対するいいわけを誰にするでもなく、ツマミを回して点火。鍋を強火にかける。

ちなみに長居した理由はシュークリームを買おうかどうか迷っていたのだ。10円引きの訴求力に揺らいだが、せめて3割引きになってくれないとだめだ。ボクは意志が固いのだ。

火にかけてすぐ、お米の状態を確認していなかったことに気づいて蓋を開ける。お米が透明感のない白い粒になっていること以外よくわからないが、いつも通りだからこれでいいのだろう。赤子泣いても蓋取るな、この警告に意味が無いことは知っているが、すばやく蓋を戻していく。


火をかけている間、マイバッグの中身を整理する。卵のパックを開けて、冷蔵庫に一つづつ並べる。もやしは、すぐ使うからこっち。トマト缶はシンク下。親指よりも太いかりんとうはボクの好物。お菓子カゴにいれて、と。あとは…。


新入りだ、仲良くやってくれ。

タマネギとジャガイモにそう告げて、ニンジンを玄関の靴箱にある段ボール箱の中へ。


台所に戻ると、鍋は沸騰寸前だった。慌ててスマホのタイマーをセットする。設定は2分。そのまますぐに、もやし調理の段取りにかかる。

茹でようと鍋を探して気づく、いまご飯炊くのに使ってたね。ま、いいけど。

コンロの奥に引っ掛けてある小さなフライパンを取り、水を入れて開いている五徳に乗せる。火はまだ点けない。フライパンは直径20cm。取っ手が取れるメーカーの取れないやつ。かわりに長く使っているせいか、コーティングがすっかり取れている。使い始めて8年ぐらいだったかな。


ビィーッ!ビィーッ!ビィーッ!


大音量でタイマーが時間を知らせる。はいはいわかってますよ。料理はいつだって時間との戦いだ。


沸騰後しばらく、吹きこぼしていた鍋はややおとなしくなり、蓋の内側で大きな泡を作っていた。水は随分減って、お米の表面が露出している。火を出来る限り弱く加減し、タイマーを再セット、13分。


ガラス蓋は中が見やすくていいね。ボクの家料理スキル、なかなかでしょう。


鍋を弱火にしたら、いったん調理は中断。お湯の出る蛇口をひねり、精米機の手入れをはじめる。洗うのは、お米受け、回転羽根、ヌカ受けの容器である。まずは溜まったヌカを捨てる。有効活用できたらいいなとは思うけど、ごはんを炊くたびに中途半端な量が出るので、使い切るのは大変。ゆるせ、ヌカ。


スポンジに泡を付けて容器を軽くこすり、洗い流す。手早く済ませたら次はテーブルの準備だ。食器棚の脇にかかったふきんを濡らして、テーブルを拭く。パソコンデスクを兼ねていて、キーボードが占拠しているので、しばし立ち退いてもらい、代わりにB4サイズほどのランチョンマットを広げる。

ただ今よりこの土地は夕食軍のものである。許可なく我々の領地に入ってはならない!ふっふっふ。


台所に戻り、おかずの準備が本格化する。フライパンの乗ったコンロに火を点けてから食器を選ぶ。茶碗、お椀、ちょっと深めの小皿、醤油皿。一人暮らしなのに食器をたくさん持っているのは、おかずに合わせて選ぶ楽しさを知っているから。高級なものは一つもないけど、どれもお気に入りである。


ビィーッ!ビィーッ!ビィーッ!


再びタイマーが鳴る。弱火にしてあったつまみを再度左に回して最大にする。そのまま30秒まって火を止める。ふたのスキマから湯気が立ち上ってくる。もう一度タイマーをセット、13分。




夕食作りも終盤戦。

もやしの袋を軽くあけ、電子レンジへいれる。あたため40秒。

かわりにレンジ台になっている冷蔵庫から味噌と瓶詰めを取り出し、台所へ。

味噌を小さじにひとすくい、お椀に入れる。瓶詰めは伊勢湾産海苔の佃煮、醤油皿にこちらもひとすくい。

ピロリ、ピロリ

電子レンジの加熱が終わる音、味噌と佃煮を冷蔵庫に戻そうとして動きが止まる。だしが入ってない。シンク上の棚にある乾物入れから顆粒だしを取り出し、お椀に一振りしてから当初の工程へ。もうフライパンに張ったお湯は沸騰している。


味噌たちを冷蔵庫に戻し、もやしを持って帰還。もやしを投入する前、フライパンから熱湯少々をお椀に加える。もやしを茹でている間、味噌を溶かすのだ。電子レンジで予熱してあるので、茹で時間は短時間でいい。15秒ほど湯通しして、半量をザルに取り、水を切る。そのまま小皿に盛り付け、塩をふりふりラー油をたらりで2品目完成。


佃煮と名もないもやし料理をテーブルに置いてから味噌汁を仕上げる。乾物入れから細かく切られた高野豆腐もやしの入ったフライパンに投入して戻す。フライパンにかかった火は無意識のうちに止めていた。

味噌汁用のもやしをお湯につけっぱなしにしていたのは、茹で汁を使うためもあるけど、すこしくたっとなったやつも好きなのである。高野豆腐が戻ったのを確認してから溶いた味噌を茹で汁で伸ばし、味噌汁を仕上げる。フライパンに余った茹で汁は仕方ないのでシンクへ。ザルでもやしと豆腐を受け、おわんに入れて完成。溢れそうになった中身をこぼさないように注意して、テーブルにセット、これでごはんを迎え入れる準備は整った。


タイマーを確認すると残り1分20秒ほどだった。

もう必要ないとリセットして、残り時間で最後の仕事。佃煮や味噌をすくったスプーンとザル、フライパンを手早く洗い、ついにごはんの炊きあがりの時がきた。


水で濡らしたしゃもじを片手に鍋の蓋をあける。幸せな香りが湯気とともに広がるのに満足し、ごはんをひと混ぜ。早く食べたい気持ちをぐっと堪え、茶碗に盛り付ける。おいしそうに、おいしそうになるように。


「できたできた。」

今日のごはんもなかなかのできだね。

ごはんをちょっとだけ山盛りにした茶碗と箸を持って、おかず達のまつテーブルへ。


今日のごはん、いただきます。

ゆっくりと過ごすひとりの時間っていいよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ