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1000人目の子供を造れば姉がお嫁さんになってくれるそうです

 地下に広がる迷宮の奥深く、外界から隔離された錬金術工房。

 僕は今日も槌を振るう。


 カンッ!カンッ!


 魔力を流し魔鋼を鍛える。


 一番弟子の三男が大槌を振い僕が形を修正していく。


 カンッ!カンッ!


 また一つパーツが出来上がる。


「親父殿、今度の子は妹なのですよね?」


 作業の合間に三男が確認をしてくる


「その通りだけどどうして?」


 この子は鍛冶以外には興味がなく、こんな質問をしてきたのは初めてだ。

 中には新しい兄弟ができるたびに次は男女どちらなのかと聞いてくる子もいるが、この三男は初めてでは無いだろうか。


「それが兄弟の中の話で出てきたのですが、親父殿は控え目な胸の女性にしか興味がないのですか?」


 なっ!巨乳至上主義者との呼び声も高いこの僕を捕まえてなんとゆう侮辱!


 僕は無い乳主義者だった父とは違う。


「ど、どうしてそんな話になるんだい?」


「それが妹達が言うのです。親父殿は自分の趣味のために自分の娘達の尊厳を犯している。そして、その趣味の為に母上と結婚をしないのだと」


 子供達の間にとんでもない誤解が!

 圧倒的な力でボコボコにされて真っ二つに断ち切られ、あの腕の中に抱きしめられた時から、僕は姉一筋なのに。

 最近の娘達のが慎ましやかなのは、そうでないと姉の機嫌が悪くなるからだ。


「僕はもう1000年、姉さんに求婚し続けているよ?受けてもらえないのは僕の力が姉さんの理想に届いていないからだね」


 しかしそれは、もうすぐ解決する予定。


 結局のところ姉の理想とは父なのだ。

 姉が敬愛してやまない母の夫で、僕と姉を製作した稀代の錬金術士。

 僕の師匠でもある。


 錬金の知識は全て受け継いだ。

 その後の研究の道筋もつけてもらっていた。

 だけれども1500年の研鑽の結果、今の僕は父を超えた自信がある。


 父ですらなしえなかった、無から命を創り出せるようになったのだ


 あとは実績を残すのみ。

 姉の望みである沢山の子供達の母になること。

 その望みを僕の力で叶えて、姉に夫として認めてもらうのだ。






 パーツを合わせ一番下の娘を組み上げる。


 次は胸部への核の埋め込み。

 この核こそが父から受け継いだ研究の成果。

 無から生み出された命の素。


 僕と姉だけであった錬金術によって造られた錬金人形が、唯の創造物から次代へと命を繋ぐ「一族」、新しき種族になる原因となった技術。


 この技術をつなげてゆくため、この工程は出来るだけ多くの子供達習得させようと思っている。


 今ここにいるのは長女と次男、先ごろ一族の中で初めての夫婦となった二人だ。

 いずれ自分達の子を作るための予習として優先的に学ばせている。


「私、お父様のように次代を創り出せるようになるかとても不安なのです」


「俺もです、親父殿」


 一族で初めての、若い夫婦は不安そうだ。


「僕も最初は不安だったけどできるようになった。それに場数を踏んで技術も向上したよ。もうすぐ夫と妻、夫婦の力を合わせて核を作る方法が確立する。そうなれば僕もおじいちゃんかな?」


 そう言ってやると顔を赤くする若い夫婦。

 かなり羨ましい。


 実際のところ、自分の子供達に先を越されるとは思ってなかった。


 お姉ちゃん子だったこの次男は1000人近い兄弟のうち、たった一人しかいない「姉」を射止めた、ある意味大先輩だ。

 姉からは一番僕に似ていると言われたが、この子は僕が未だ道半ばの偉業をすでに成し遂げている。尊敬に値する自慢の息子だ。


 だが、尊敬はしているが娘の父としてはまた別だ。

 娘達のうち最初の5人位は姉をモデルにした。

 そのため体型は姉のコピーで、毎晩この姉の腕に抱かれて眠っているのかと思うと羨ましいを通り越して殺意が湧いてくる。


 花嫁の父は複雑なのだ。


 複雑な胸中を隠し作業に入る。錬金術の奥義によって霊素と呼ばれる神の領域に干渉し新しい命を造る。ゴッソリと魔力が抜けてゆく。思い浮かべるのは僕を抱きしめてくれる時の姉。

 この工程で新しい子の人格に影響が出るので慎重に。

 このまま二ヶ月ゆっくりと魔力と想いを込める。

 今度も姉に似た良い子が生まれるといいな。






 核の埋め込みが終わった娘の胸部を閉じる。


 現在の体表は金属。

 この上に秘伝の人口皮膚を流して定着させる。


 最後まで見ようとしたデリカシーのない息子が耳を引っ張られる形で退出。

 二ヶ月付きっ切りの研修ご苦労様。


 ぴったり一人分、キッカリ流し待つこと暫し、新しい娘が目を覚ます。


「初めまして、誕生おめでとう」


「ありがとうございます。お父様」


 999人目の子供、500人目の娘だ。


 用意しておいた衣服を渡し、部屋を出て待つ。

 それ等の服は父の遺品である簡易魔術付与機により強化の魔術が掛かっている。

 勝手がわからずに破ってしまうこともないだろう。


 暫く待つと、服を着た娘が出てくる。

 一族の女性の民族衣装とも言えるお仕着せ、いわゆるメイド服がよく似合う。


 僕の趣味ではない、姉の好みだ。

 姉の姉にあたる人間の真似らしいが僕はあまり面識がないので詳しくは知らない。

 因みに男は執事の格好が正装。


 この新しい娘を連れて地上へ出る。

 ダンジョンから出たことにより世界の法則が変わる。

 僕の望んだ世界から神の望んだ世界へ。


 今この瞬間が、本当の意味での娘の誕生かもしれない。


 いつ振りか分からない日の光の下を歩く。

 この道はかつてここが迷宮都市と呼ばれていた頃のメイン通りで、当時は多くの人間達で溢れていたが今見えるのは少数の錬金人形種のみ。


 時の流れを感じ感慨に浸りながら自分の屋敷へと向かう。

 新しい娘を姉に紹介しなければならない。


 門番のゴーレム達に見送られながら門を潜り久々の我が家へ。

 さて、姉はこの時間帯だとどこにいるだろうか。


「お帰りなさいませ、お父様」


 玄関で迎えてくれたのはこの屋敷の管理を任せている娘の一人。

 新しい娘の紹介をしておく。


「ただいま。この子が新しい妹だよ。仲良くしてあげてね。」


 うちの家族はごくごく一部を除いて皆仲が良い。しっかりと面倒を見てくれるだろう。


「ところで姉さんはどこかな?この子を紹介しておきたいんだけど」


「お母様は今お忙しい、新しい妹の引合せはオレがやっておく。親父殿は自分の仕事に戻られるが良い」


 横合いから会話に割り込んできた不躾ものが一人


「自称」姉の護衛である長男だった。


「おや、久しぶり。君は未だに家から独立せずに居座っているのかい?」


「何度も言うがオレはお母様の護衛だ。お母様のいる場所がオレの居場所で好き好んで親父殿の屋敷にいる訳ではない」


 ああ、やっぱりダメだこいつ。

 この長男は生まれたばかりの頃から極度のマザコンで一時たりとも姉から離れようとしない。

 後から生まれた弟妹達がそれぞれ一族のための役割についても、自分は護衛だと言い張って独り立ちしないのだ。


「護衛対象の足元にも及ばない、足手まといの護衛に何の意味があるのかは知らないが少しは弟妹達の手本になるように努めてもらいたいものだね」


「オレは十分にお母様を守れる!あんたこそ1000年も付きまとって相手にされていないのだからいい加減諦めろ!」


 この糞ガキが……

 まず僕と姉の付き合いは1000年ではなく1500年だ。お前を造るまでに500年かかっている。

 それに付きまとっているのではない。僕は見守られているのだ。

 僕が姉に相応しい男になるのをな!


 この長男は毎度毎度僕をイライラさせる。

 たまに核をえぐり出してスクラップにしてやろうかと思うくらいだ。

 姉が悲しむといけないからやらないがな。


 いけない、生まれたばかりの娘が怯えている。

 これでは父親失格だ。


「報告しなければいけないこともある、姉さんはどこだい?」


 長男との言い合いを打ち切り本題に戻る


「お母様は自室で鍛錬の支度をしておられますので、中庭でお待ちになるとよろしいかと」


 長男はポンコツだがこの娘は優秀だ。

 何事もなかったかのように対応してくれる。


「ではそうさせてもらおう」


 移動を開始しようとするが、長男が喧嘩腰に文句を言いながら引き止めようとしてくる。

 正直うっとおしい。


 ゴン!


 脳天にゲンコツ一発。

 未熟者の息子に父からの贈り物だ。

 これで暫くは静かになるだろう。

 気絶した息子を残し姉の元へと移動した。





 中庭で出会った姉はやはり美しかった。

 かつて父が姉のことを「ワシの天使」と評していた事を思い出す。

 父は全く正しかった。


「この子が999人目。新しい娘です」


「そうですか。利発そうな子ですね。私が貴女の母です。お母様と呼ぶように、と告げます」


「初めまして、よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる娘。


「はい、よろしくお願いしますね。今日は疲れたでしょう。暫くはこの屋敷で色々教えますので今日はもうゆっくりすると良いでしょう。命名式は明日行いますので後のことはあちらの姉に聞くと良いでしょう」


 姉の優しげな笑顔がたまらない。


 娘達を下がらせると姉と二人きりだ。


「今回も良い仕事をしてくれました。ありがとう、と告げます。そして何か報告があると聞きました。」


 姉に礼を言われる。生きててよかった


「次代の一族の繁殖について、新たに親世代の負担の少ない方法を作りました。これからはこの新しい方法を一族繁栄の方にしてゆきたいと思っています」


「どのような方法か聞いても?」


「はい、今迄僕一人で行っていた核の精製を新しい子の親二人の力で作るようにします。これによって親世代の負担を時間、魔力共に半分に抑えます」


「まるで人の営みの様ですね。かつての父と母を思い出させます」


「そうです。まさに夫婦の共同作業として子を成す方法になります。一族の家族としての在り方が大きく変わると思いますので先に姉さんに相談しようと思いました」


「それは構いません。変化はいつか訪れるものです」


 新しい方法に許可は出た。

 ここが勝負だ。


「この方法の最初の一人は次の1000人目の子供にしようと思っています」


「それで?」


 何やらじっとりとみられている気がする。


「それで、この共同作業を姉さんと僕でやりたいと思っています」


「初めてが私で良いのですか?」


「姉さんがいいです。いや、姉さんでないと嫌です」


「……」


 姉が黙ってしまった。

 しかし今までの保留され続けた求婚とは反応が違う。


「姉さん、貴方を愛しています!僕の伴侶になって一緒に次代の子達を作って下さい!」


 もういく度目になったかも覚えていない求婚をする。


「分かりました。私を嫁もしくは妻と称する事を許します」


 例え何度保留されようと僕は諦めな……


 え? ええ!?


「い、今何て……」


「今まで保留していた求婚を受けると告げました」


「な、なんで」


「自分で求婚しておいて『なんで』とは大変遺憾であると告げますが、今まで何でも一人で行い何も求めて来なかった弟が初めて私の力が欲しいと告げてきました。非常に好ましいと告げます。

 一人で事を成すなら夫婦である必要は無いと思っていましたが、貴方が私を必要とするならば、それは夫婦であっても良いのではと判断しました。」


 ってことはもしかして、もっと早く何がしかの助力を求めていれば……


「かつて私の母は暴走する父を御し、支え、共に生きていました。私も又、母の様に御し、支えましょう」


 そうだった、姉の理想は父母だったのだ。もっと早く気がつくべきだった。


「では、1000人目を共同で作り、それをもって夫婦の証とします。準備が整ったら知らせて下さい」






 この後、彼女は僕の姉から嫁となり、それを引き金に一族は結婚ラッシュ。

 それぞれの夫婦が子を作ることでいっそうの繁栄を手に入れていくことになった。


 但し、長男のマザコンだけは治らなかったけどね。


以上連載中の作品のスピンオフでした

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