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ワイトとマスター

 むかしむかし、ある貴族は不死になろうとした。


  死ぬことは恐ろしく、悲しく、辛く、苦しいことである。

だが生き物は生きた以上、決して死からは逃れることはできない。

生き物はいずれ弱っていずれ死ぬ、誰もが知っているこの事象に抗おうという者はまず居ない。

 なぜならどうすることもできないからだ。


 人の力でどうしようもできない事象は、大抵の場合神の仕業だということになる。

生を与えるのも死を与えるのも、神の御心なのだと世界中の人々はどこかでそう信じている。


つまりそれに抗うということは、神へ叛逆するということと同義である。


 だがそれでも尚、彼らは頑なに不死になろうとした。

死ぬことの悲しみと恐怖を受け入れることができず、生の喜びを求めてその生涯の大半を過ごしていた。


 結果から言うに、その行いはやはり失敗だった。

とは言っても、さすがは神にもっとも近い生き物といわれる人間なだけあって、なんとか死に抗うこと自体には成功していた。

しかし、その生に理性や意思のようなものは一つとして残らず、狂った本能のまま破壊の限りを尽くし、衝動のままに生き物を蹂躙し、ついには不死となった者同士が互いを殺し合い続けるだけの存在になってしまったのだ。


 神への叛逆の代償は、死にたくても死ぬことができないという呪いとなって現れた。

死ぬことよりも恐ろしく、悲しく、辛く、苦しい日々が、終わることなく永遠に続く不死の生。

神に見放され、救われることも裁かれることもなく、彼らには永遠に殺し合うという呪いだけが残ったのだ。


  そんな彼らを救ったのは一人の少女だった。


 彼女は誰よりも強く誰よりも優しいとんでもない力の持ち主だった。

すぐに呪いに苦しむ彼らの思いを察し、丹精込めて死を贈った。


神に見放され、永遠に死なず苦しみ続けた彼らは、彼女のおかげでようやく死ぬことができたのだ。


 そしてそんな不死達の残り物が、何を隠そうこのワイトなのだ。


  かつての幼い彼女は、その貴族に実験台として囚われ、不死化を施されるも実験の最中に死んでしまい、失敗作として棄てられた。

しかし、不死開発初期段階だったこともあり、理性や意識を保っていたまま不死化が後天的に現れ、彼女は地中から這い出たのだ。

 不死達を救った少女は『自分の意志でもないことに巻き込まれて眠るにはまだ早すぎる、好きなように生きて死にたくなったら私の元へ来い。いつでも殺してやる』と不死の少女に告げ、その地を去っていった。


  だからこそ、アタシは少女に仕えることにした。本来であれば当に死んでいるべき存在、もう一度生きる意味などない、ただの運悪く死んだ女の子。

 そんなものはアタシ以外にも数多く居て、その中アタシだけが慈悲をかけられ生きていくなど甚だしい。

 ならばせめて、尽きることないこの身全てを捧げ、彼女を『マスター』と呼び付き従ったのだ。

いずれこの身が満足して葬ってもらうのならば、そっちの方が都合もいい。


  とかなんとか悠長なことをやっていたら、アタシの後天的不死性はいつの間にかマスターでも殺すことのできない完全体になってしまっていた。

神様達に裁かれることも救われることもなく、身体が朽ちることも傷が癒えることもない、完全に不完全な呪われた身体になっていたのだ。とほほ。


 そんな経緯があって、輪廻の軸からはみ出したアタシの肉体や魂は、あらゆる神の加護も裁きもものともしない、そもそも眼中にないため完全に無力化してしまうのだ。

だから、アタシがもうちょっと強くて世界観がマジメだったら神殺しの英雄か、神殺しの大罪人として描かれていたことだろう。どう、かっこいいと思いません? まあそうなっていないということは、そういうことなんですけど。

 せっかく神の力を無効化する不死でも、アタシ自体のステータスは無気力な女学生程度なので、出来ることと言えば結界に土足で踏み入ることくらいだ。

今回はそのおかげでネコバリアをすり抜けたワケですが。


 しかし、アタシの不死の敬意などどうでもよくって、本題はここからだ。

実は、これまでの経緯から見て分かる通り、マスターはとんでもないことをやらかしている。

せっかくなので一緒におさらいしましょう。

 死は人の力でどうこうできない神の業。

 彼らは神に叛逆し、不死となって見放された。

 マスターは彼らの呪いを解いて、死を贈った。


 そう、神に見放されて死ねない彼らに、神の代わりに死を与えたのだ。

人の力でどうこうできない神の業を、マスターは人の身でどうにかしてしまったのだ。


 つまり、世界中の人々がどこかで信じている死を与える神に、あのエクソシス・R・フォンティルテューレは一瞬だけ辿り着いた。


 その事実を知っているのは、今となってはこのアタシだけなのだ。

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