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作戦とねこ


「はーい点呼とるぞー、いち!」

「にー」

「さん」

「……きょん」

「よーし全員居るな!!」

「全員居たらダメきょんなあ⁉︎」


 時刻は夜七時、ジョン・ドゥ邸の近所に位置する林、裏山といった方がそれっぽいだろうか。

アタシとマスター、それにジョンさんとキョン子さんの四人は今そこにいる。


「なんでドロボウ被害に遭ってるってゆーのに全員でココにいるきょん、バカか⁉︎もぬけのからじゃなかきょん!!」


 興奮してよく分からない方言が飛び出たキョン子さんが、両手をパタパタ振りながら異議を申し出た。


「ふふふーん、まあ案ずるな、これはいわゆる作戦ってわけだ。さてそれではまずその概要を伝えよう!」


「捕まえたにゃ。」


  マスターが自信満々で構成した超作戦を発表しようとしたのも束の間、食い気味で一人、いや一匹の妖怪が口を挟んだ。

 すぐさま全員がそちらに振り返ると、そこには高い背丈で細身の女の子が、こちらを眠そうな目で見つめながらぼうっと立っていた。

黒っぽくてツヤツヤした、尻尾が二本あって目の赤い女の子だ。いやおかしいおかしい。


「え、カシャニャン!?もしかしてカシャニャンっスか!?」

「うにゃ、えと、多分そうにゃけど……、もうその名前で確定にゃんし?」


 ぴこぴこと頭のてっぺんに生えた二つのネコミミを動かし、両頬に残った三本ヒゲを指でいじりながら、カシャニャンはやや照れ臭そうにアタシの問いに答えた。

今うにゃって言った!にゃんしって言った!かわいい!すっごいかわいい!


「あれ!?でも待ってください、初めて見たときより大分オトナになってませんか!?」

「う?ああ、あの時のはネコ被ってただけにゃ。アレ、その場しのぎの嘘にゃ。これがホント。ネコは気まぐれにゃ。あとホラ人間より成長早いし、最近妖力いっぱい吸ってるし、まあどうでもいいにゃ。ネコは適当にゃ」


 なんだよくわかんないけど可愛いからどうでもいいや!

たしかにそう言えば今朝方マスターは、カシャニャンは妖力の高まる夜になると人型を保てる――、とかなんとか言っていましたね。

  誰も居なくなったと見せかけて、初めからカシャニャンにコソ泥を捕まえさせる作戦だったというわけですか。


「マスター!すごいですね!見事に作戦成功じゃないですか!見直しました!」


  アタシが素直な感心と興奮でマスターを褒めると、マスターは静かにそっと顔を上げた。


 「えっ……なん、えっ、え?……お、え?」


  ああああああああーーーッ!絶句だああああーーッ!

完全に想定外だったーーーッ!全然今の状況についてこれてない上に、せっかく用意した作戦が無駄になってガッカリしている顔だああーーッ!


「え、捕まえちゃったの……?え、終わり?事件解決?え、すごない?はやない?はやあるよ、はや、はやや」


なんてこった。結構長い間この人のこと見てきたけど、こんな動揺してるのは初めて見た。


「う。困ってたみたいだからお手伝いしたにゃけど、にゃんか問題だった?」

「え、カシャニャン。その、捕まえたのってもしかしてネコだった?」

「ネコにゃ」

「五、六匹ぐらいの?」

「六匹居たにゃ」

「あ、あそう」


 もしかしての可能性もかけていたみたいだけど、どうやら超作戦で捕まえる予定だった相手と、カシャニャンが一人で捕まえた相手は完全に一致していたらしい。

 マスターはしゅんと肩を小さく落とすと、はぁと大きく息を吐いた。


「にょははっはははは!ウケるきょん!スゴ腕自慢を散々してたのに!!なんか夕方からゴチャゴチャやってたのに!ささっと解決してるきょん!惨めきょん!ヒー!チョー面白いきょん!」

「いや、キョン子さん?むしろこんな素早く解決した問題に頭を悩ませていた僕達の方がよっぽど惨めなのでは……?」

「ゔぇ!」


 キョン子さんサイドも何やら色々思うことはあるようで、口々に色々な感情を吐露していた。


 というか、ネコだったんですねドロボウの正体。さっきマスターが「顔を洗って」と言っていた時、「首では?」と変に口を挟まなくてよかった。

それにしても一体どこのどの程度の情報量から、犯人が数匹のネコだったと判断したんでしょう。怖。


「う?それで、アイツらどうするにゃ?一応まだ置いてあるけど焼く?()す?燃す?」

「いやいや、やりすぎやりすぎ。とりあえず一回状況見たいから案内お願いできるか?」

「わかったにゃ、んじゃこっちにゃ」


 おててをブンブン振りながら、オマケに二本の尻尾を振ってカシャニャンはマスターの手をひいて歩きだした。

それを見て、向こうでゴチャゴチャやってたキョン子さん達も連れられて歩いてきた。

 アタシは少し駆け出して、先導するカシャニャンの隣りに並んで歩いた。


「……なんだか、エラい素直じゃないッスか?カシャニャン的にはマスターに殺されかけているんでしょう?」


 そして、マスターには聞こえないよう小さな声で、耳の良いカシャニャンにこっそり囁いた。


「うー、にゃーだって今が一番シアワセでタノシイって言ったら多分嘘になるにゃ。死体集めもできにゃーし、使い魔は全滅するし、コレクションも消滅したし……、でも、あのイカれ陰陽師から命を助けてもらったのは事実にゃし、困ってるヤツの手助けをするってのも別にイヤなわけじゃないにゃ。ネコは気まぐれでテキトーだけど、義理は果たすにゃ。オネーサンだってきっとそうにゃ」


 ……お、おう。思ったよりマトモで真面目な解答が来てちょっと困惑してしまった。

  でもやっぱりこのエクソシストといいあの陰陽師といい、人間の方がよっぽどイカれてるんじゃないかってのはアタシら魔の物には共通の認識らしい。

 彼女はどうやら言動や性質の割に芯はしっかりとしているし、きちんと味方してくれるようだ。

 人と違って、魔というのは同族に対して嘘をついたり欺いたりと言ったことは絶対にしない。

寝返りはしょっちゅうするけど、それでもきっとこれはまごう事なき本心だ。


「……大変ですねー」


  今朝、アタシの胸元で顔を出していたカシャニャンに対して言った独り言を、今度はしっかりと感情を乗せて彼女に投げかけた。


「……それにゃ」


 アタシ達はお互い顔を見合わせると、困った顔をしながら少しだけ笑って、ハアと二人で一緒にため息を吐いた。

  ただ、気苦労を分かち合える友人ができたことに嬉しくなって、少なからずアタシの心は喜んでいた。

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