メペロピルタとユーキューチャイチャイ
「おおー、墜落してるなー!」
「やめなさい指をささない」
辿り着いた現場はチープな想像とちょうど一致する、『ザ・墜落した宇宙船』と言わんばかりの光景で、地面に斜めに突き刺さった、銀色の円盤状の乗り物らしき物体と、それの不時着による慣性で、抉りとられて焦げついた土があたりに散乱していた。
木は薙ぎ倒され、宇宙船(仮)も損傷は激しく、至る所からブスブスと黒煙と紫電をあげており、とても動き出しそうには見えない。
「乗り物のようですし……、やっぱり何かが乗ってるんですかね。」
ギャグ漫画みたいな光景に呆れながらも、だがやっぱり少し怖がりつつ、妙な警戒をしながらアタシはマスターに問いかけた。
戦闘力の高い殺戮系エイリアンとかが搭載されてたら手っ取り早くて一番楽なんですが、ぶっ殺せばいいだけですし。
「たぶん人、知的生命体だと思う。もし惑星開拓用の探査ポッドや尖兵だとしたら、そもそも不時着自体しない。安全装置をつける必要も技術もないからな。地面に着ける構造と、飛行時や着地時に安全性を考慮してる点から、少なくともさほど敵意は持っていないと思うし、操作ミスとか、何らかの想定外のトラブルに遭って墜落したと見て妥当だろう。」
考察が素早い上に鋭すぎて気持ち悪い!
ですが、なるほど納得できる点は多々ありますし、そう考えると中の人が心配になってきますね。
ネギトロめいた死体になってれば手っ取り早くて楽なんですが、カシャニャンに火葬してもらえばいいだけですし。
「まあ、とりあえず人が集まる前にとっとと回収するか。認識阻害の魔法陣はもう描いといたから、しばらくは大丈夫だと思うけど」
「そんな能力あったんですね、やや便利ですね」
マスターの後をついていくように、おそるおそる宇宙船へと近づいていくと、確かに宇宙船の外側にも、手回しのハンドルやメーターなどが確認できた。
これでとりあえず、相手は宇宙人的なサムシングに断定されたワケですが、それでも警戒するに越したことはない。
完全に宇宙船の真ん前まで立ち、シューシューと音と白い煙を立てる扉へと迫ると、突如としてその扉は激しい音を立てて吹っ飛んだ。
「もーーーっ! アカン!最悪やわ!なんで日本なんかに落ちてまうミ!」
わー、変なのでたー。
おおよそ金髪の成人女性のシルエットに近いが、衣服や髪と思わしきものと、その軟体の皮膚に境目のようなものは無く、ほぼ一体化している。
皮膚というよりかはゲル状、ゼリー状のぷるんとした質感は、地球上の生き物で例えるならクラゲかウミウシといった深海の何かであろうか。
なんでスウェットとジーパンみたいなラフな姿を選んだのか、なんで中途半端に関西弁なのか、そのぷにぷにの身体でどうやって鉄の扉をぶっ飛ばしたのか、疑問は泉の如く、尽きることがない。
「せめて米国!なさ!こないな辺境の島国、言語取得パターンもようわからんっちゅーミ!」
「は、はろー? まいねーむいずわいと、はわゆー?」
「……あぁん?なんやジブンらミ、見せもんやないミ!ッチ、しゃーねぇ。面倒ごとになったら厄介やし、ちーとばかしその首置いていけミ!」
「やっほーぴろぴろ、地球は初めてかお姫様? まあ、こうして酸素もあるし安心してくれ。私達は口外するつもりも貴女を取って解剖しようというワケでもないんだ」
いやなんだそのぴろぴろ。
相手変な武器持ってますよ、あれ絶対ヴインって音立てながら光の刃出るやつですよ絶対、レーザー光線圧縮熱ブレードですよあれ、死にますって何ふざけてんだ勘弁してくれミ。
「ほゥ……?何者かわからんがミ、中々礼儀っちゅーモンがなっているようやなミ。了解した武器は降ろそう、もしや我の連合のことを存ずるぴろぴろミ?」
「昔一度だけ、な。ところで立ち話も何だし、どこかで詳しく話を聞かせてもらっても良いかお姫様」
「ふむ、まあええやろミ。どちらにせんと我のユーキューチャイチャイは動くこともあらへんミ、ジブン、名は?」
「エク=ソシス・R・フォンティルテューレ。悪魔悪霊祓いと寿司屋を生業にして、人々をシアワセにするべく蘇ったものだ。こっちは不死のワイト」
「中々地獄みたいなプロフィールやんな。まあよいミ、我の名はメペロピルタ、大宇宙星間連合の主宰やミ」
互いに主張の強い二人は、壊れたユーキューチャイチャイの前でやわらかな握手をして歯を見せて笑った。
その目に宿るものは、信頼とは言いがたい一時的な信用、信用と呼ぶにも危うき不安定な興味と好奇心であった。
いや、なんで分かりあってるんだよおかしいだろ。