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救われないトカゲ

作者: 10期

 



 私の名前は斉藤朋花、二十七歳独身。

 ブラック生産業の会社に正社員として勤める事五年の現、トカゲだ。


 頭がいかれてる?

 私もそう思ったさ、二日前までは。


 でも目と鼻の先で果たしの遺骨を抱えて泣き叫ぶ母を見て仕舞えば、どう足掻いても抗えない現実があると知ったのだ。



 思い出すとこ一週間前。私は自宅に向かう車で住宅街の電信柱に突っ込んだ。


 居眠り運転だった。


 勤めていた会社は定時で上がれる事がほとんど無く、繁忙期では午前様は当たり前。家には寝に帰るだけと言っても過言ではない。

 そしてその日の真夜中、私は半分寝た状態で電柱に突っ込んだのだ。

 唯一の救いは誰かを巻き込むような事故では無く、単独事故だった事ということだろう。


 痛みもなく、即死だったに違いない。


 それなのにふと目を開けてみると見知った世界は大きく、あり得ない状況に落とされたのだ。

 そうそれは、現実離れしたトカゲへの憑依だ。


 夢を見てるに違いないとちいさな手足を動かし歩けば、日頃歩いているアスファルトの道は長く、そうそう自宅にたどり着けない。

 時より車に踏み潰されそうになったり鳥に食われそうになったりと様々の経験をして、ようやくたどり着いた実家にはお葬式用の花が飾ってあった。


 喪主の名前は斉藤健一。


 私の父親だった。



 黒い服に身を包んだ友人や上司、親戚達。

 泣き叫ぶ母が縋り付いていたのは私が入っているだろう棺桶で、中を見れないとなると酷い状態だったのだろう。


 まさか、そんな。 あり得ない。


 そんな考えが頭の中を横切ったが私を乗せた霊柩車は仮葬場へ向かい、帰ってきた母の手には”ソレ”が大切そうに抱えられていた。


 私の慰霊を持つ父は母の肩を抱き、歯を食いしばっている。


 認めたくない事実。

 けれども認めなければならない事実。



 私は、死んだのだ。



 今思えば私はろくな親孝行も出来ず、ワガママ三昧に迷惑を重ね、誇れる子供ではなかった。

 こんなに早く生が終わってしまうのならば、もっと母と、父と話しておけばよかった。




 後悔先に立たずとはよく言ったものだ。



 私はなんだ。

 人か? トカゲか?


 意識だけは一丁前に人間の斉藤朋花であるのに、体は小さな小さなトカゲ。


 いっそのこと何も知らずに逝けたらよかったのに。




 私はトカゲなのだ。

 元な人間の、何も出来ない、トカゲだ。



 もう誰も抱きしめられやない。





ただただ救われない話を書きたかった結果、こうなった。

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