8
部屋を見渡すと、「探索」を
使うまでもなく実に簡素な作りだと解る。
四方を土壁で仕切った部屋は
ところどころ草が突き出ている。
土と、草を練り混ぜた壁なんだろうか。
こんなのすぐに
崩れるんじゃないかと
指で引っ掻くが、意外と硬い。
土壁恐るべし。
隅には木の棚が設置してあり、
色とりどりの、よくわからない瓶詰が多数あった。
錬金術を生業にしていると言っていたっけ。
仕切り布から出て、
隣の部屋のテーブルを目指す。
木の棚に埋め尽くされた部屋の
中央に、これまた簡素な
木のテーブルが置いてあった。
その上に用意してもらった
果物、バナナのようなものを
確認すると、ひとつ千切って口にほおる。
味はあんまりしないな。
マロ眉犬のあごをうりうりしながら
バナナもどきを一欠けら千切り、
マロ眉犬、ええい。
マロに命名。
マロの口に持っていく。
ふんふん匂いを嗅いで、すぐに
食べた。ああもう。可愛すぎる。
さて。
腹も満たしたし、これからの事を
考える。
オレが「探索」で
見つけた異世界人の姿形は
完全に認知している。
リーフが連れてくる人間が
異世界人じゃない可能性もあるけど
<ドラゴン殺しのディーガン>とかいう
異名が付くなら、本人もしくは
近しい存在である可能性が高い。
問題は、どうやって平和的に
コンタクトするかだ。
いきなり襲われる事は
ないだろうけど。
この状況を素直に言って
素直に聞いてくれたことが
ただの一度もない。
こっちは完全に正体が解ってるのに
相手は誤魔化すわ、騙すわ…
はあ。
気が重い。
こんな時に
せめて外に出られれば
気分転換にもなるだろうけど、
他人の視線で一撃KOだ。
無理無理。
…
いや、実は大丈夫なんじゃ?
うん。今こんなに穏やかな気分なんだし。
よし。スタスタこの家から出て
大通りに出た瞬間に、帰還。
顔が炎のように赤くなっているのが解る。
動悸が止まらない。背中の汗が気持ち悪い。
他人の視線がオレを射抜く。
こうなるって解ってるのに
やっちゃうんだもんなあ。泣きそう。
しばらくマロとまったりしてると
リーフが帰ってきた。
すぐに元いたベッドへ戻る。
「魔女様」
仕切り布の奥でイケメンが
片膝をついた。
「ディーガンとの話が付きました。
しかし、その、
大変申しにくいのですが・・」
「何か、問題でも?」
「魔人化」で
冷静に会話を進める。
しかし、あれだな。
自分が思った通りに事が進んだ
試しがないよ。
今回もまあ、最初から
上手くいく予感は
なかったけどさ。
「ディーガンは明日にでも街を
発つそうで、どうしても都合が
つかないそうです」
「うご」
思わず変な声が出た。
マジか…またかもう。
いつもこうだ。
「そこで、なのですが。
今からなら、大丈夫だそうです」
はぇ?
「ディーガンを外に控えさせております。
魔女様へお通しても宜しいでしょうか?」
お、あ!?今から!?え!?
「…どぞ」
「魔人化」でも
収まらないテンパリ状態で
何の算段もないまま
適当に返事をしてしまった。
「ディーガン」
リーフが少し緊張した声で
外の人間を招き寄せた。
仕切り布の奥のシルエットが消え、
代わりに別の人間の
シルエットが現れた。
「お初にお目にかかります。魔女様。
ディーガンと申します」
「…」
固まるオレ。
しばし静寂が流れる。
「…」
ディーガンが困っている。
「あ、えーーと」
どう言えばいいんだろう。
君、異世界人だよね?
どうやったら元の世界へ
戻れる?
とか直接に
聞いていいんだろうか。
頭が真っ白になりかける。
「畏れながら魔女様」
仕切り布の、さらに奥。
シルエットさえ見えない位置から
イケメンリーフの声がする。
「魔女様の意を汲み取るのが
使い魔としての存在意義。
魔女様が全てを
語る必要はございません」
いや、使い魔じゃないし・・
「私が魔女様の意向を
に言葉に致します。」
何者なんだリーフ・・
「ディーガン。
魔女様は君の能力に
疑問を抱いているんだ。果たして、
その力は正義のものなのかと」
ちょっとまてリーフ・・
「・・なるほど」
ディーガン。お前も納得するな・・
「ドラゴンを屠り去るその力は、
正義でも悪でもない。
ただの、純粋な暴力だ。
扱う者が違えば、たちまち破壊者へと
なるだろう」
「つまり、私を見極めたいと」
な に も 言 っ て な い
「解りました。
明日向かう黒龍討伐への
同行という訳ですね。
貴方は白の魔女様に遣われた
監視役・・・失礼。
見届け人でしたか」
オレは何も言ってない。
「魔女様の遣いがいらっしゃるのは
聞いておりましたので、用意は万端です」
「では、明日にお迎えにあがります。
それでは、失礼いたします」
ディーガンのシルエットが消えた。
「魔女様」
代わりにリーフのシルエットが
現れた。
「明日は私も同行します。
使い魔としてまるで未熟、いえ
分不相応ではございますが、
この命に代えても、魔女様を
お守り致します」
もうどうにでもなーーれ☆