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14回目の異世界転送 そのログ  作者: 代筆クリスタル
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 周りを見渡す。

オレは寿司屋にいて、シャリを作っていた。


 機械の自動制御で作られた寿司飯を、

これまたパチンコのような

機械へ詰め込む。


 ベルトコンベアで運ばれ、下に行くに従い

狭くなっていく車輪により形作られ、

最後に機械のアームで縦、横と圧縮され、

一貫のシャリが出来上がる。


 これに魚のきれっぱしと、わさびとか言ってる

緑色のペーストを上に乗せる。

そしてマヌケ面して座ってる客の前に流す。


 満面の顔でそれを取り、

醤油をつけて口にほおばる。


旨いねえ。


実に嬉しそうにそんなことを

こぼす。



…馬鹿じゃねえの。


そんなの。


オレじゃなくったって…


 寿司屋の世界が一瞬にして消え、

変わりに映画で良く見た中東っぽい

世界が鮮明になっていく。


 オレは自分にかけられた

薄い布を握っていた。

少し深い呼吸をする。


 また寝てた?いや、違う。

オレは気絶していたようだ。


最高に嫌な夢を見た。


 未熟だった自分。

クズだった自分。

その時代の自分の記憶。


 いや、今もクズなんだろう。

そうやって、ネガティブな気持ちに

逃げ込むのはオレの最も得意とするところだ。


まっ黒い気持ちに塗りつぶされるその寸前。


 ふんふんという音が聞こえた。

鼻息が荒いマロ眉犬がすぐ傍にいた。

ベッドというにはあまりに

簡素な作りの寝床の横に、伏せていた。


 愛玩をそそるくりくりの目にやられ、

無理な体勢から頭を撫でるべく

腕を伸ばした結果寝床から落ちた。


「いっ…」


 思わず声を出す。しかし

痛みはほとんどない。

びっくりしただけ。


 奥から足音が聞こえる。

一気に緊張が走る。


 しかしその足音は、ちょうど

隣の部屋へと繋がる

布の仕切りの前で止まった。


「魔女様、お目覚めになられましたか?」


 シルエット姿でオレを気遣うその姿勢。

なんてイケメン。


「…魔女様?」


「あ、だいじょうぶ、です」


 姿が見えなければ問題ない。

元々の人見知り程度に納まる。


「探索」(サーチ )を使った。


 仕切り布の奥にいたのは

やはり、盗賊の砦で結果的に

助けたあの男性だ。


 「申し訳ありません。魔女様が

倒れられたので、失礼とは

知りつつも、お体に触れました。」


「…」

オレは沈黙する。

どう返していいか解らない。


 「このようなあばら家ですが、

助けて下さった恩もありますので

介抱させて頂いた次第でございます。」


「…あ」


「?」


「あり、がとうご、じゃいます」


 噛んだ。またか。自分をぶっ殺したい。

お礼もまともに言えないのか。

ネガティブが爆発しそうになったその時。


 「お礼の言葉など!

とんでもございません。

私は賊に命を奪われるところでした。

その命を救って頂いた。

それだけで、私のこの先の人生すべてを

魔女様に捧げる所存でございます。」


 とか、言い放った。

マジかこの人。どれだけイケメンなんだ。

いや、もう武士じゃないの?

侍だよ。もう。


 あ、今気づいたけど、この人の顔

見えてないじゃない。それなら。

 オレは冷静に、ハッキリとした声で

返した。


 「お気遣いなく。私は私で、目的があり

行動したまで。貴方を助けたのは偶然。

恩に感じる必要はない。」


 と、淀みなく言えた。

「魔人化」(エビルモード)だと

ちょっと強いよ。オレ。

犬が警戒してるけど。


「で、ですが、それでは…」


「くどい」


 バシッと決めた。

と思ったが、よく考えたら

オレはこの町をまともに歩けない。

 介抱してくれた恩人に対してさえ

顔を合わせて話ができないくらいだ。


すぐに方向転換する。


「と、言いたいところですが」


 わざとらしい咳払いをして

彼が隠れている柱に体を向ける。


「手伝ってほしいことがあります」


と、何とか言えた。

少し間が空き、彼は答えた。


「いかなることも」


マジでイケメンだよこの人…!

ちくしょう…!


「え、ええと。じゃあ」


 と、そこまで言って固まった。

異世界人との接触がしたいものの

どう言っていいのか全く

解らなかったからだ。


「会いたいんだけど…」


 と、前後の文章を完全に無視し、

支離滅裂な問いかけをしてしまった。のに。


 「エンティオに待ち人が

いらっしゃるのですか?」


 と返してきた。エンティオ??


 「畏れながら魔女様。この街は

エンティオと申します。

昔は物流で巨万の富を設けた商人も

おりましたが、今では資源の枯渇により

商人たちは次々と町を棄て、

死にゆく町となっております」


ほほう?


 「しかしながら、未だこの町に

夢を見る者も少なくありません。

この町に入る者の流動は激しいですが、

留まる者もおります」


ふむふむ。


 「その中に、魔女様の

懇意の方が、もしくは

意中の方がいらっしゃるのですね?」


 なにこの人怖い。

AIみたい。


 「そ、そう。そうなんだ。

ぜひとも会わなきゃ、ならないんだ」


 自分で言ってて悲しい。

日本語がおかしい。

いや、今しゃべってる言葉は

日本語じゃなくてクティオ語なんだけど。

クティオ語はこの星で実に6割が

使う言語。


「探索」(サーチ )でもう理解済み。


 「して、その人物は

どのような方なのでしょうか」


 そこまで言われて口を紡ぐ。

どう言ったらいいのだろう?

そのまま言ってもいいのかな?


うーーんと・・・


 「・・・痩せ男で、耳までかかる髪型。

恰好、服装が、周りと違う。

人当たりはとてもいい」


 と、ここまでは無難だったが、

これから言う特徴を伝えるのは賭けだった。

しかし、この人には全部言っても

いいんじゃないかと思うほど

一方的な信頼感があった。


「あとは…――異常」


「…異常?」


 ピンときていないらしい。

もう少し詳しく話す。


 「その人、もしくは周りで、異常な事が

起きている。その人が異常に強かったり

異常な物を持っていたり。

あとは人間関係が異常だったり」


 「例えば、王族と友達だったりとか、

奇妙な技、スキルとか、魔法とか、

そういう事が出来る人。

とにかく、普通じゃない」


「そういった、異常な状態の人物。」


 これを言うのは正直気が引けた。

この人を探していますが、

私は他人ですよと

言っているようなものだ。


 適当に話しているかのようにさえ

聞こえてしまう。


 こんな感じで話すと、まず、まともに

取り合ってくれない。なんせ怪しすぎる。

それなのに…


 「それは、もしや、

<ドラゴン殺しのディーガン>の

事でございましょうか?」


 と、答えを出してくれた。

神かこの人。


「そう、それ。うん。」


とりあえず返答する。


「解りました。では明日、取次を致します。」


え。


「ディーガンとは顔見知りですので、

滞りなく召喚できると思います。」


まじで。


「ディーガンは素晴らしい人格者です。

魔女様と関りがあっても、何も不思議では

ありません。」


すげえディーガン。


「そして、無礼をお詫びいたします。

まだ、私の名を名乗っておりませんでした。

本来なら、私の名など

聞くべき事ではないのでしょう。

しかし、第3者を魔女様に取次するにあたり

私の名が無いと何かと滞る可能性があります。」


布ごしにだが、片膝をつくのがわかった。


「私はこの町で錬金術を生業として

暮らしております。片田舎で生を受け、

着の身着のままここへ流れ着きました。

リーフと申します。」


「アルマです」


 かぶせ気味に自分の名前、いや、異世界での、

第1世界で名付けられた名前を言った。


「…」


返事がない。

かぶったからかな。


「アルマです」


もう一度言ってみる。


すると意外な答えが返ってきた。


「魔女様の名前を耳にするなど、

あってはならない事です。

しかしそれはつまり、

私を使い魔として

認めて下さったのですね?」


意味不明。


「さっそく、ディーガンの元へ

参ります。では」


 仕切り布からシルエットが消え、

足音が遠くなっていく。


はあ。緊張した。


 碧眼、金髪のリラックスモードに戻り

マロ眉犬の頭を撫でながら

リーフのイケメンっぷりを

脳内で反芻した。


「はあー。わかるわ。

あんなん惚れるわ。

これ女なら絶対に

惚れちゃってるわあ」


 だが残念。

オレは魔女でもなければ女でもない。

19歳の、男性寿司職人見習いだ。

惚れはしないが、憧れる。

ああいう男になりたいなぁ…


「魔女様」


 びっくりした。

いつの間に戻ってきてた!?


「もし、よろしければですが、

こちらのテーブルに粗末ではありますが

少々の果物を用意してございますので、

召しあがってください。」


「それでは」


今度こそ足音が遠くなっていく。


 ああもう。

こんな男になれるわけがない。

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