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14回目の異世界転送 そのログ  作者: 代筆クリスタル
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 まず、オレは、

正真正銘、男だ。♂だ。


 地球では19歳の、

成人まであとちょっとの

成人未満男性だった。


 …――遠くのゴロツキを爆殺し、

岩場に偽装していた砦の地下の入口に、

一歩一歩ゆっくりと進む。

ヒールの音が岩場に反響する。


 恐怖と、混乱と、

そして羞恥心までもが溢れだす。


あれは第10世界の事だった。


 第10世界は

人間が存在しない世界だった。

言うなれば、獣人のみが

存在する世界。


 猫型、犬型はもちろん、キリン型、果ては

竜型なんて獣人もいた。


その世界も「星の問題」を抱えていた。


 あ、これはオレが便宜上

そう呼んでるだけで、

正式名称なんかない。


 この「星の問題」を

解決するたびに、

異世界転送が起きる。


 その世界の問題は、

端的に言うと

「野生を捨て生き永らえる」か

「野生のまま死ぬ」か

という極端なものだった。


 獣人たちは悩んだ。

しかし、それも一時の事だった。


 …――ゴロツキたちの

アジトを地下に地下に進んでいく。

出会うゴロツキは

もれなく爆殺させてもらった。

 もう恐怖と混乱は収まった。

羞恥心はまだ続行。


 彼らは「野生を捨てて生き永らえる」を選んだ。

彼らは獣から、ヒトへと変わった。


 体も人並みになり、

ほんのちょっとのことで

死んでしまう人間そのものへと変化した。


 しかし、知恵を手に入れた。

同時に、ずる賢さも手に入れてしまった。


 獣人達の世界での独自的で、

野性的で、絶対的な絆とも取れる

価値観が完全に崩れてしまった。


 元獣人達は偽りの握手と

誤魔化しの笑顔の中で

生きていく事になった。


 それは、死ぬよりは、

マシな事だったのだろうか・・。


 そんな中、その世界のラスボスは

「野生のまま死ぬ」を選んでいた。

誇り高き野生を! という、

中二っぽい感じだったわけです。

 このラスボスを、

色々あってオレが倒した。


 しかしその時、とある呪いを

食らってしまった。

それは、またもや端的に言うと、


 「コンプレックスが

前面に出る呪い」

だった。

ちょっと意味が解らないだろうか?


 …――相当数の

ゴロツキの頭部を

爆散しつつ、最下層へめざす。


 皆さんは美少女になりたい、

と思たことは無いだろうか?

さっさと自白するが、

オレは思ったことがある。

いやむしろ、よくある。


 地球時代では、寝る前に

よくそんな妄想をした。


 オレが美少女になって、

周りの男友達にチヤホヤされて、

いい目に遭う、そんな妄想だ。

 でも、それは、大嘘だった。

大きな勘違いだった。

だって、よく考えてみてくれ。

絶世の美少女になったところで、

チヤホヤしてくれるのは男だ。


 友達の範囲で

男がチヤホヤしてくれるのは

大歓迎だ。

食事や遊びに誘ってくれたりね。


 でも、完全に女性として

見られるのは嫌だ。


 男友達とのエッチなんて

ほんとに勘弁。

オレはやっぱり男だし、

男に惚れられても

うれしくもなんともない。


ていうか迷惑だ。


 …――爆散した

ゴロツキの血だまりを、

砦内に設置してあった

ランタンが照らす。

 血の鏡となった床の中に映る

自分の姿をあらためて見つめる。


 薄い生地のタートルネックと

ワンピースを合わせたような

服に包まれた自分の姿が映っていた。


腰まである金髪、


宝石のような碧眼、


体にピッタリ張り付いた

黒い服に抵抗するかのように、

豊満な胸がこれでもかと浮き出ていた。


 スリットが入った服から伸びる

ほんの少し赤みがかった長い脚、


細い腰、


 歩くたびに揺れる

ぷりんとしたおしり。


 床に伝わる血が

細い足首を収めたヒールにまで広がる。


 興奮しているかのように

赤く濡れた妖艶な唇。


誘うようなツリ目。


 血管が浮き出るほどに

透き通るような白い肌。

目を細め、ぽつりと呟く。



「イケメンって、見られたかった…」



 女の子にモテたかった。

女の子に惚れられたかった。

でも、そのために、イケメンになりたい、

だなんて、口が裂けても言えなかった。



だって、

だって、

だって、

だって、

だって、

だって、

だって…


 イケメンになりたかった、なんて、

そんな事を言ってしまった日には、

自分がイケメンじゃないって

認めてしまう事になるじゃないか…!


 ああ、解ってる!

自分がイケメンじゃないって、

そんな事は解りきってる!!


 でも!でもさ!

万が一、億が一、兆が一…

そんな風に見れる事も

あるかもって、思ったんだよ。


 それだけが防波堤だったんだよ。

支えだったんだよ。


 オレが本当になりたかった姿は、

美少女なんかじゃない。


 身長180センチ、筋肉質の、

ダンスパフォーマンス集団のひとりみたいな、

イケメンだったんだ。


 流行りのドラマに主演の、

イケメン俳優だったんだ。


 女子に大人気の、

あの男性グループの、

イケメンの誰かだったんだ・・・・・。


 今のオレの姿は、呪いそのもの。

この姿を見るたびにニヤニヤとあざ笑う

幻聴が聞こえてくるようだ。


「美少女になりたかったんですよねェ?」

「ほら、絶世の美少女になりましたよォ!」

「望みが叶いましたねェ?」

「あとはイケメンと

キャッキャウフフでもしてくださァい(ハート)」


 あああああ。

やめてくれ…


 重ねて言うが、この状態を望んだわけじゃない。

鏡を見るたびに泣きそうになる。

 もしも男のままだったら、異世界の誰かと

もしかしたら恋に落ちて、ハッピーエンドを

迎えることが出来たかもしれない。

 異世界へ転送されるまでの

わずかの間だったとしても…


だがその道も断たれた。


 今のオレは

ハーレム展開になっても

男が寄ってくるだけ。


 女性が好きな女性も、

いないこともなかったけど、

何か違うよね。

そうじゃない。そうじゃないんだよ。


「うおおおおおお!!」


 不細工なゴロツキの叫びに我に返る。

いかんいかん。

ネガティブにハマるとろくなことがない。


「魔女か!?何でこんなとこに!」


 いつのまにかゴロツキの親分の

ところまで来てしまっていた。

これまでの爆殺で

なんとなくこの世界の人間の戦力が見えた。


やはり、並だ。


「くそっ!くそっ!関係ねえ!」


 ゴロツキ親分の体、

いや周囲が一瞬ふるえ、

緑色のオーラのようなものを纏った。


 魔法…? にしては

呪文とかの詠唱は無いんだな。

スキル的なものか?


 少し緊張しつつ、効果を見てみる。

受けても大丈夫・・だよな。

とモジモジしてる間に、

ゴロツキ親分は距離を一気に縮めて

斧をオレに振りかざした。

 刃が当たるその瞬間、

その斧は柄まで粉々になった。


「んなっ!?」


 驚愕してる親分の両頬を

右手で掴み、

そのまま地面へドスンと落とす。


「・・・っき!!」


 蚊の鳴くような音を口から漏らし、

ゴロツキ親分は行動不能になる。


 自分が無傷だと解ってても、

殴られたり斬られたりするのは慣れない。

 が、そういう事をしてくる奴らには

容赦をしないことにしているので、

これからする事にためらいはなかった。


 もごもごと何か喚いているが、

頬を万力のように抑えているので、

しゃべることが出来ない。

ゴロツキ親方の目をじっと見る。

その目は、恐怖より怒りに染まっていた。

 

「探索」(サーチ )」をゴロツキ親分にかける。


 めまぐるしい情報がオレの中へ流れ込んでくる。

何度やってもこれも慣れない。気分が悪い。


 右手を離すと、目と口を半開きにした

ゴロツキ親分が動かなくなっていた。

 

 「探索」(サーチ )とは、

外部環境との同化により、

情報を自分のものにする能力だ。


 対象に対して、広く浅く使うぶんには

さして影響はないが、狭く深く使うと、

完全にそれと同化する。


 彼の、これまで生きてきた人生で

得た情報や、経験をすべて

自分のものにした。


 しかしそのせいで、

ゴロツキ親分の自我は

オレと同化し、完全に消滅し、

生命維持機能だけを残した

廃人になってしまった。


 恐ろしい能力だが、

反面、ゴロツキ親分の

知りたくもない悪行まで

自分がやったのかと錯覚してしまう。


 すぐに余計な経験の記憶は

すべて隔離し、必要な情報だけを抜き出す。

                

 廃人にしていいような

悪者にしか「探索」(サーチ )をかけない。

…いや、廃人にしていい人間なんか

いないのは解ってる。


でも、もう、とっくに引き返せない。


 他人の命に対して

そこまでこだわれなく

なってしまったんだ。

悪い奴くらいは、

死んでいいんじゃないかと。


 そんな事を抵抗なく

思えるようになってしまった。


 今、得た情報を少し整理する。

緑のオーラは、やはりスキル的なものだった。

名前などはないようだったが、

身体強化のようなものらしい。

 オーラの色で強弱が解るようで、

色が濁れば濁るほど強力になるみたいだ。


ん、こいつ、誰かを捕まえてる。


 ゴロツキ親分がいた部屋から

さらに進み、汚い寝室にたどりついた。


 その隅に、ちょうど一人分が

進める狭い階段がある。

昔から知っていたかのように

淀みなく隠し牢獄へ進んでいく。


 牢の一番奥へ進むと、誰かがその中にいた。

格子を開けようとしたが、鍵がかかっていた。


「う…」


 生きているようだ。

この砦の中から格子のカギを

探す手間を考えたらめんどくさくなった。

 

 「探索」(サーチ )を使えば一発でわかるが、

鍵がある所まで行かなきゃいけないので、

物理的に破壊することにした。

ひとつ深呼吸をする。


 「魔人化」(エビルモード )


 見開いた碧眼は炎のような色に変わり、

輝く金髪は白に近い銀髪へと変化する。

お店の暖簾を開けるかのようなしぐさで、

格子を無理やりに広げた。


 赤眼、銀髪から

すぐに碧眼、金髪へと戻った。


 金属が引きちぎれる音に驚き、

こちらをじっと凝視する男性。気まずい。


「…」

「…」


 沈黙が続く。

ここでひとつ困ったことを告白する。


オレ、他人とほとんどしゃべれない。

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