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14回目の異世界転送 そのログ  作者: 代筆クリスタル
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 瞼を開ける。

目の前にはよくある草原、木々、

ところどころ岩。


 …――

オレは両手を広げ、手のひらを天へ向ける。


「はあー…」


 ため息と共に、

オレはいつものことを、

いつも通りにやった。


 しばし棒立ちになったオレは、

静かに集中する。


 自分の体の奥、その奥。さらに奥を意識する。

オレはさらに集中する。


 音は消え、

温度もなくなり、

体の感覚は霧散する。


 体を突き抜け、

原子を通り越し、

核を通過し、

物質界を越え、

オレはオレの魂とも呼べるものに触れた。


 オレは液体になり、

気体になり、

自分と外界の境界が無くなり、

無限に溶けて広がっていく。


 オレは宇宙と一体になった。

外敵もいない。

オレを否定する環境もない。


 全てと一体になった満足感に浸ってるのもいいが、

とりあえずやる事はやっておく。


 宇宙と一体になったオレは、現実の体に手を伸ばす。

手のひらを上に向けたまま固まってる

マヌケなオレに、ゆっくりと手を降ろす。

その手が触れたその瞬間…


オレを中心とした世界が明確になる。


 木々を揺らす風の音、

太陽に反射する川のきらめき、

野生動物の鼓動、

人々の語らい。


 自然で、町で、世界で、

生きとし生けるもの、形あるもの、

目に見えないもの、全てが全て、

オレの中にあった。


全てがオレで、オレが全てだ。


 …ま、こんなもんでいいかな。

戻ろう。


 現実世界へ

逆再生するかのように

超高速で戻った。

 オレが手のひらを上にあげてから

1秒も経っていない。


 この世界を、いや、

この星を浅く広く調べてみた。


 ふーん…

中世っぽい。

いや、王道異世界モノっぽい?


 人工物は多いが、

オランダ村とかで見る中世っぽい建物や、


 城、人々、着てる服、

モンスターぽい奴ら、

よくわかんない塔みたいなのがあったり

ラスボスっぽい感じの常に曇ってる地域の城とか、

空間が歪んでるところとか、

火山の中にいるデカいなんかとか、

もう…完全に地球じゃないな。


 内部まで詳しく調べなかったけど、

する必要もないね。



はー。またかー……―

また異世界かー…

 


「探索」(サーチ)と自分で呼んでいる能力で調べてみた。


 これを使い、この世界…

というかこの星をまず探索する。


 端的に言うと、

これを使うとオレの中心から

同心円状に色んなものが

瞬時に理解できていく。


 それは地形だったり、

生命体であったり、

人工物であったり様々だ。

それによると今回の世界も現代ではないらしい。

 

 

 「探索」(サーチ)で感知したところ、

ここは起伏がほとんどない草原で、

東に湖、

西は硬そうな大地、

北は草原が続き、

南がむき出しの岩石地帯。


 そこから南西45キロメートルに

人口1万8千人ほどの集まりがあった。

細かい数字もわかるけど割愛。


 その街には人間ぽい奴や、

エルフ?…耳がとんがって

やたら造形が整ってる奴。

ドワーフ?小さいけど

筋肉質な奴。


あとは…

あ、これアレか。


異世界人もいる。


オレとは別口の感じかな。

あとはまあ、亜人がゴロゴロって感じ?


とりあえず、色々と情報と状況を整理する。

えーと、まず。



 ①オレは14回目の

異世界転送をされた。



 ②14番目の世界観は

王道異世界モノ・・

っぽい感じ。



 ③星に、穴が空いてたりとか

特に変わったところはない。



 ④「星の問題」も見たところ解らない。


……――以上。




うん。



しかし、まあ、うんざりだな。


 強くてニューゲームを

繰り返すのって、

2、3回までだよね。

楽しいの。


 RPGのゲームを最後まですすめて、

ラスボスを倒せるレベルまで上がった状態で、

最初からゲームをやり直す。


 序盤は無双で最高に楽しい。

でも、意外とすぐに飽きる。

実は、ゲームの楽しさは

難易度に比例する。


 最初から最強で冒険したって

楽しい事なんかほとんどない。


なんでもできるからだ。


 あくまでゲームクリアをした

プレイヤーへのご褒美ってだけだ。


それが、強くてニューゲームだ。


 でも、オレはその、

強くてニューゲームを

少なくとも14回は繰り返してる。


 今度で14回目の

強くてニューゲームだ。

つまり13回、世界を、

星を救った。

ゲームクリアした。

詳細は端折るけど、救いましたとも。


でも、地球に帰れない。


 ひとつの物語が終わったら、

元の世界へ戻れるか、

その世界で幸せに暮らしましたとさ、

になるはずだろう?


 お約束なのに。


でも、オレはそうならなかった。


 世界を救える力をもって、

また新しい異世界へ飛ばされた。


 今度こそはと救うも、またも飛ばされた。

こんなことが繰り返されて、今に至る。


…どうしたらいいんだ?


 オレがひとり絶望に耽っていると、

オオカミのような生き物に

囲まれているのに気が付いた。

じりじりと距離を縮めてくるオオカミ。


 倒れるオレ。

もういっそ殺してくれ。

泣きそう。


 倒れたオレに少し躊躇するも、

それも一瞬のこと。

オレの喉元をピンポイントで噛みつく。

…が、まったく歯が通らない。

まあ、それはそうだろうよ。


 いつのまにか

オレの目は赤く煌々としていた。

 舞う髪も、銀色に変化している。

ぎりぎりと喉元に力を

籠め続けるオオカミの頭を、

やさしく人差し指と親指で

くしゃりと潰す。


頭蓋骨は…標準の硬さか。


 歪な頭部のオオカミが

痙攣しながら倒れこむ、のと同時に

周りのオオカミが

…よせばいいのに

オレへと襲い掛かる。


 ゆっくりと立ち上がり、

襲い来るオオカミ達の頭部を

丁寧に、

静かに、

それでいて確実に

くしゃくしゃ潰していった。


 物言わぬ肉塊になったオオカミを調べる。

…とくに何も無い。


 こういった異世界の

生きとし生けるものはだいたい

魔石とか、

変異とか、

魔力みたいなものが

あるのが定石。


 肉体にもなんかしらの

痕跡があるはずだけど、とりあえずは

見当たらない。


ふーん。


 14世界中、初かも。

ただのオオカミだからか?


 まあこの世界独自のルールによる

何かだったらそもそも

わからないからどうしようもないけど。



オレはほんの少し安堵した。



 戻るべき地球でなかったのは残念だが、

それでも少しだけマシだった。


 オオカミと言ったけど、

実は2メートルくらいあった。

地球でこれ出たらトップニュースだと思う。

そんなオオカミの戦力が、並だったからだ。


つらい記憶はすぐに浮上してくる。


6番目に転送された世界だ。


 そこは、最大限に譲歩しても、

史上最悪の地獄だった。


 1番目の世界の

魔王クラスの実力を、

そこらのオオカミが宿していた。


 雑魚敵との一戦ごとに

ラスボスバトル並みの

命の奪い合いが起こった。


他にも、


 戦艦並みの火力を持つ中ボス。

動くだけで地震が起きるボス。

口から星が半壊するんじゃないかと

思えるほどのレーザーを放つ大ボスなどなど…


最悪を数えたらキリがない奴らと戦った。


 それに、その世界に住む

住人達も基本的に悪い奴ばっかりだった。

 親切にしてくる奴は100%裏があり、

ひいき目に見てもクソッタレしかいなかった。

一時的に人間不信になった。

 人間大嫌いになったわ。

元々そんなに好きじゃないけど。


 あとは、違う意味で

9番目の世界かな。


 そこは、文明が完全に荒廃した世界だった。

一瞬、地球の未来へ

転送されたのかと思ったけど、

2000年代では説明がつかない

テクノロジーがいくつかあったりしたので

違うと思う。


そこは、まあ、平たく言えば


 ゾンビ化ウイルスが蔓延した世界だった。

ごく少数に生き残った人類と、

ゾンビと、ゾンビ化ウイルスを

散布した黒幕との壮絶なサバイバル世界だった。


 そのころのオレは

もうバリバリのファンタジースキルが

満載だったので、


 まあその、

世界観が合わなかった。


 残り少ない弾倉で戦ってる人類に対して、

オレは遠くから対象に手をかざして、


ドカーンと大爆発させることができた。


 1万体のゾンビとかいても

1秒で破壊できたもん。


 いや、何だったら

ゾンビ化ウイルスだけを死滅させられたし。

一応、その世界の人たちを助けたくて

ちょっと動いたけど、

なんか、

その、

すっごく白い目で見られた。

 「なにこいつ」的な感じが終始つきまとった。


 安易な希望っていうのは

死ぬほど胡散臭いんだね。

その時に気が付いたよ。


 久しぶりの王道異世界に安堵しつつ、

これからのことに不安が隠せない。


 はあー。

やだなあ。

新世界の人間関係をこれから

作るのもめんどくさいなあ。

 周りに気を遣って正体を隠して

活動するのもダルいなあ。


 ハーレムイベントは……

―――……無い事を切に願いたい。

いらない。マジで。


 あとは正義と正義がぶつかる展開もいいです。

どっちにつけばいいかホントに悩むから。


 オオカミの屍の中でブツブツと

グチをこぼす。でも言わせてくれよ。

もう14回も世界を巡ってるんだ。



 これからどうするか………

とりあえず、あそこに行ってみるかな。

でも、その前に、ログはこんなもんでいいのかな。


 オレは右手にある黒ぬりの

長方形の物体に向かって話す。


 えと。小説家になろう、

サイトにちゃんと投稿されていることを願う。

 詳しい事はまた機会があれば話すけど、

オレは今、特殊な方法でオレの独り言を

小説家になろうサイトに投稿してもらってる。


 オレにとって、

本物の、

地球の、

現実世界の接点はこのサイトしかない。

 信じるしかない。

じゃなきゃあ、

もう、オレは…

生きていけないよ。


 …ただ、唯一の不満は

オレがこれを見れないってところだ。

このサイトを。


投稿はできても、確認ができない。


 ……――ホントに投稿されてるのか?

無意味な独り言が、

空に消えていってるだけじゃないのか?

はあ。


 やると決めたんだから、とりあえずは続ける。

こんなことをしても

何も解決にならないが、

続けることで何かが変わるかもしれない。

 蜘蛛の糸より細い糸でもすがる。

地球に戻れるかもしれないなら。


見渡す草原が、相変わらず風に綺麗になびいている。

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