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14回目の異世界転送 そのログ  作者: 代筆クリスタル
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「探索」(サーチ)で確認する。


 城下町はすぐそこだ。

そして今は午前10時30分。

タイムリミットの午後5時まで、まだまだある。


 オレは少し心の余裕が出来た。

とは言え、何が起きるか解らない。

さっさと済ませられる事なら

早い方がいい。


 320キロを30分ほどで移動した。

しかしこれでもかなり力を抑えた。

本気で走ると地面が爆裂する。


 あとは爆発式移動法とかもあるけど

あれは宇宙へ行く専用にしている。

地上で使うと爆弾の掃射みたいに

なってしまうし。


 少し離れた場所から徒歩で

城下町へ入る事にする。

ヒールの音で、石畳に気が付いた。

エンティオより街道が立派だなー。




門が見えてきた。




おお。人がいっぱい。


ん。

あれ?

あれれ?


まさかあれは…


 赤いフレームのメガネから

通したオレの碧眼には、

複数の警備兵が、

通行人と許可証らしき板を

厳重にチェックしていた姿が映った。



入国ゲート……!



 し、しまった!

すっっっっかり忘れてた!


 何度もこれに苦汁を

舐めさせられたって

いうのに……!!

以前に転送された異世界にも

入国ゲートがあった。


 その度に、かなり苦労した。

異世界に転送されたオレには

国籍もなければ

出生記録もない。

何にもない。


存在しない存在。


 こんな怪しいヤツを

簡単に国は認めない。


 つまり、オレは、

この城下町に

入ることが出来ない。


ぐわあーーー。

何てことだ!



 あ、リーフ!

リーフがいれば

何とかなるかも!

助手とか、そんな名目で

一緒に……――


……いやまて。駄目だ。人前で

「下々の者が

魔女様を値踏みするなど

あってはならない!」とか

言いそうだ。


 ディーガンは今

引きこもってるし、どうすれば……


 入国ゲートの前で呆然としていると、

オレの袖が、後ろに引っ張られた。

振り返ると、小さな男の子が

うるんだ目でオレを見ている。


ん?

……?

迷子?


「おかあ、さん」



あい?



「おいっ!お前っ!」


入国ゲートの中が騒がしくなる。


「ああ、と、通してくれっ!

ウチのが、ウチのが

帰ってきたんだ!」


「おかあさん!おかあさん!」


 オレのちょうど股間くらいに

顔をうずめて泣きじゃくる子供。


「ああ……!」


 涙を垂らしながら一直線に

オレの元へ走ってくる男性。


「ああああ……!!」


その男性は、子供ごと、オレを

抱きしめた。




「俺に合わせろ」




男性が耳元で囁く。


「よく!よく!

帰ってきてくれた!

よく……!!!」


男性は泣き続ける


「おかあさあああん……!」


子供も泣きじゃくる。


合わせろ。

確かにそう言った。



……

あー……

ええと。

おかあさん……?

を、演じろ、と?



訳も解らず呆然状態。


「あ、ああー……あ……

お母さん私……――」


 ようやく出た言葉がこれ。

いやでもだって、

頭がついてこれない。


 男性が顔をぐしゃぐしゃに

したまま

入国ゲートの兵士に

向かっていく。


「妻は心を患ってるんだ。

悪いが、先に診療所へ送りたい。

あとで必ず入国書を持ってくる。」


「……そういう訳にはいかん。」


「失踪して、数年ぶりに会った

子供と母親を引き裂く気なのか!?」


涙にまみれ、

心の底から声を絞り出す。


「し、しかし、規則は……」


 周りにいる通行人達が

ヒソヒソと耳打ちしている。


奥にいる兵士が打診する。


「ここで騒がれるのは得策じゃない。

……入れてやれよ。どうせ

無関係だ。」


「だが……」


 男性と子供はオレを取り囲んで

嗚咽を漏らし続けている。


 その光景は冷徹非道の兵士に

家族の絆を引き裂かれている

ように見えるだろうか。


周囲が一層ザワザワする。


「……解った。

だが、必ず後で……」


「当然だ!通行許可証は必ず!」


浅いため息をつくと、

兵士は顎で

「もう行け」という仕草をした。


「良かった……良かった……」

「坊主!良かったなー!」

「家族っていいねえ」


 周りが美談に酔う。

目頭を抑えている者もいる。

オレはというと、

なすがままになっていた。


テンパりを通り越して

思考停止。




 しばらく3人で歩いていくと、

人目が消える頃合いを見計らって

路地に進んだ。


まっすぐ進むと、大きな壁が現れ

壁沿いに進んでいく。


 子供が鋭く目線を配り、

壁にトントントン、トン、トン、と

リズムよくノックした。

壁の一部が開き、3人一緒に入る。

壁が完全に締まり、暗闇が支配する。



音がしない。



 マッチをこするような音がして、

ランタンに火が灯る。


「お帰りドン坊」


 ランタンを持つ、

長髪の男性が静かに話す。


「おう。ああ、疲れた」


 ドン坊と呼ばれた子供が、

伸びをしながら

クッションが大量にある

ソファにダイブする。


「で」


「これはなに?」


ランタンをオレに向ける。


「商品か?」

「ふむ、確かに上玉じゃ」

「あらヤダ。ちょっといやらしすぎない?」

「これくらいの方が貴族は好む」

「ちょっと、どうしたのホントに……」


 周りがザワザワしだす。

直前まで無音だった

部屋が騒がしい。

完全に気配が解らなかった。

「探索」(サーチ)を使うの

忘れてた。


「ちげーよ。ちょっと利用しただけ。

つか、あんた、演技下手すぎ」


ランタンの薄い光が

オレの演技批判をした男性を照らす。


さっきまで大泣きしていた男性だ。


 嗚咽を漏らすほどの

涙を流したとは

思えない

ふてぶてしい態度。


ふてぶてしさは

顔にも表れていた。


 赤色の髪は

縦横無尽に飛び跳ね、

目は切れ長の一重。

 薄めの眉毛の中央には

不機嫌なのか、

シワが寄っていた。

一文字に閉じた口元には

ほくろが一つ。


「悪いけど、

しばらくここに

留まってもらうわ

勘弁な、おねーちゃん」



またもや違う種類の

イケメン登場か……



「探索」(サーチ)で時間を測る。

午前11時過ぎ。



リミットまであと6時間。

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