12
「ちょ、ちょっと時間をくれ」
ディーガンは混乱しているようだ。
ようやくオレがディーガンと同じ
異世界人だと理解してくれたようだが
色々と混乱しているらしい。
自分の中で整理がついたのか、
ついていないのか、
今度は質問攻めに変わった。
「じゃあ、その、あんたは…
この世界に転生したのは
何年前なんだ?」
「いや…三日くらい前に
転生、じゃなくて転送されて…」
「転送?異世界に
生まれたんじゃなくて異世界へ飛ばされたって、
そういう事か?」
「うん」
「転生じゃない?
そんなのもアリなのか…?」
「あ、でも、最初は転生で、
次に転送」
「最初?最初って…――
何だかすます解らない・・」
「ごめん」
「…あとさ、何でその…隠れてるんだ?」
オレは今、岩場の影に隠れて
ディーガンと会話をしている。
「い、色々あってこうやって
話す方がいい」
「そうか…」
会話があんまり進まない。すまん。
「まず、これだけはハッキリさせたい。
あんたは・・魔女様じゃないんだよな?」
「うん。魔女じゃない」
「…そうか」
ディーガンは大きく深呼吸した。
「いや、悪い。魔女様にオレが
異世界人だと知られるのがまずいんだ。
異世界人というか、異世界のスキルを
知られるのがまずい」
ディーガンによると、
<魔女様>という存在がこの世界を
支配しているそうだ。
魔女様は一人ではなく、複数いる。
しかしどれだけいるのか
正確な数は解っていない。
少なくとも、白と青、赤の魔女様が
確認されている。
その魔女様の根城は解っているが
外からでは確認不可能らしく、
魔女様が招き入れない限り
侵入さえ不可能の領域らしい。
あ、最初に「探索」した時に
見つけた空間が歪んでるところかな?
「魔法も、魔女様と、ほんの数人にしか
使えない。この世界は現実に近いよ。
亜人とか魔物はいるけど」
「ふむ」
そっけない返事かと思われるかも
しれないが、長くしゃべれば噛む。
「あと、現実と決定的に違うのは…心力かな」
「しんりょく??」
「この世界のほとんどの人は
魔法が使えない。魔力もない。
でもその代わり、心の力がある。
例えば、その人の表情を見ただけで
相手の心が解る、とか」
それを聞いてまっさきに
思い返したのは、リーフだ。
「記憶とかが解るわけじゃなくて、
その人の心、感情とか、思ってることが
なんとなく解る。
まあ、これは特殊能力でも
なんでもなくて、相手の事を
鋭く察することが出来る
処世術に似た技術だよ」
「つまり超空気読みスキル……――」
「だな。それこそ魔法みたいだよ。
ここじゃ俺なんて空気読めないヤツ扱いだからさ。
前は空気が読める事だけが自慢だったのに」
それは同情するけど、
オレも空気は読めない。今も昔も。
しかしこれでリーフの異常な
行動に合点がいった。
つまり、オレが困っているのを
助けてくれてたんだね。
テンパっているのを察して、
自分なりに解釈して
オレの代わりに
他人とコミュニケーションを
取ってくれてたんだ。
ど、どこまでイケメンなんだあの男…!
「でもリーフ、勘違いしまくってる」
「ああ、まあ、な。でもイイ奴だぜ?」
「それは知ってる」
思わず笑った。ああ、こんな、
人と話をして笑うのなんて
一体どれくらいぶりなんだろう。
「魔女様には俺のスキル、<創造の徒>を
知られる訳にはいかないんだ」
「ドリル出してたね」
「超かっこいいだろ。
あ、いやそれは置いといて。
あの能力は建築物を作る能力なんだ。
本来はな。あんたに使ったのは
建築用の機械を創造した。」
そこまで言うと、急に神妙になった。
「この能力、俺じゃ魔力に限界があって
ビルを建てるぐらいしか使えない。
でも、無尽蔵の魔力を持つ
魔女様が使えば・・・・」
「異世界へ繋がる門を造れるだろう」
あまりに急展開だったので、
思わず身を乗り出す。
「も、門!?それ帰れる!?元に!元の世界に!」
「魔人化」じゃないオレは
キリリとしたイケメンの視線に
一瞬にして赤面し、気絶寸前まで追い込まれた。
ぴょい、とまた岩場の影に隠れる。
少々気まずい空気が流れる。
自分の心臓の音がうるさい。
(か、かわいい)
その言葉は小声だったがハッキリと理解できた。
この時ばかりは「探索」が
恨めしい。顔が赤いのはオレだけじゃなかった。
なに照れてんだディーガン!
「お、オレ、男だから!」
「あ、ああ、聞いたよ。…でも、元だろ?」
「元でも、男!ていうか、男に戻る!
地球にも帰る!」
真っ赤な自分の顔を覆って
よちよちと駕籠の中に入る。
腰に力が入らない。
「も、戻ろう。悪いけど、リーフ達を
呼んできてくれない?」
「ああ。いいよ。って、
あんた、名前は?」
「…アルマ」
「うん。そうか。」
足音が遠くなる。完全に消える前に
(可愛いかったな)
というつぶやきを聞いた。
そ う い う の
や め ろ や。