表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

1-4 空の上にて

「ヴァロ、マールス騎士団領はあっちのほう?」

「そうだな」

フィアははしゃぎっぱなしだ。

大人びて見えるときもあるが、少女なのだと改めて思う。

そういうヴァロも空の旅を楽しんでいる。

空の旅がこれほど快適なものだとは思わなかった。

地上に見える人工の建造物は、城門に囲われたコーレスぐらいだ。

ヴァロは改めてコーレスの大きさを知るとともに、どれだけ自分たちが小さな存在かを思い知る。

「地上を見るのは構わないけど、この高度から落ちたら確実に死ぬから気を付けてネ」

さりげなくドーラがヴァロに声をかけてくる。

ヴァロは思わず一歩後ずさる。

聞けば地上から見られないよう、かなり高度をとっているらしい。

「ヴァロ、あの山脈はなんて言われてるの?」

「あそこがロロミア山脈。この大陸の背骨といわれている。

あの山脈を越えると大陸北部。

地形の関係上曇りの日が多く、冬ともなれば太陽の登らない日もあるらしい。

過酷な環境のため人を寄せ付けない。そのため暗黒大陸と揶揄する者もいる。

聞くところによれば、魔女の結社が散在してるって話だ。

さらに北に行けば年中氷に閉ざされた、魔術王の治めるラムード自治領がある」

「私が住んでいた場所もあの山の向こうになるんだ」

フィアはじっとその方向を見つめる。

「そうなるな」

フィアなりに感じるものがあるのかもしれない。

「次の目的地のミイドリイクはどの辺?」

「ミイドリイクはこの先の山脈を二つばかり越えたところにある。

広大な砂漠が広がる土地でな、陸路ならば結構な長旅になる」

「ヴァロよく知ってるね」

「そりゃ、二年間師と一緒に大陸中さまよっていたからな」

ヴァロは師ギヴィアとともに大陸中を二年間駆けずり回った。

目的は狩人としての修業とその適正を見るためだ。

そのためササニーム地方にも少しは足をのばしている。

ももっともミイドリイクまでは足を運ばなかった。

「ところでドーラは大魔女のことをミーナとか呼んでいたけど、昔からの知り合いなのか?」

ヴァロの質問に、ドーラは開いている本から目を離さない。

よく見ると、本にはミイドリイクの観光案内と書かれていた。

「まあね」

気にはなっていたことだ。

大魔女と敵対していたはずのこの男が親しげに話しているのは少し違和感があった。

「彼女たちに魔法を教えたの僕だからネェ」

ドーラはさらりとすごいことを言った。

突然の告白にヴァロとフィアは言葉を失う。

「まじか」

「ドーラさん、本当なの?」

フィアのその言葉にドーラは少し意外そうな表情を見せ、本を読むのをやめた。

「なるほど、それは教えられてないわけカ」

すべてを束ねる現魔法使いのトップが、敵対するはずの魔王から魔法の教えを受けていたなど

公にはできない話である。

それなりの地位にあるフィアが知らないところをみると、その事実はなかったことになっているのかも知れない

「本当サ。とはいってもかなり昔の話になるけどネ」

ドーラは本を閉じると当時のことをゆっくりと語り始めた。

「昔、王様から彼女たちに魔法を教えるように頼まれてネ。

そもそも宮廷内で信用のおける人間がそんなにいなかったし、魔法を教えられる人もそうそうはいなかった。

加えて彼女たち…特にカーナは才能の化け物でネ。気に入らない教師を次々に追い出してたヨ」

ドーラは苦笑いを浮かべた。

伝説の魔女カーナ。多くの魔王を倒し、現在の魔法の体系の基礎を作った人といわれている。

百年前にアビスに落ちたというドーラの探し人。

「…子供のころから壮絶な人だったんですね」

「そうだヨ。そんなわけで宮廷内に入ってきたばかりの僕に白羽の矢が立ったというわけサ。

当時どこの派閥にも属してなかったし、思想もそれほど極端ではなかったしネ。

今にして思えば、うってつけだったんだろうと思うよ。

まあ僕も、王様じきじきの頼みだったし、当時そんな内部事情つゆほどもしらなかったし、

二つ返事で了承しちゃったんだよネ。

…引き受けるんじゃなかったと、すぐに激しく後悔することになったんだけどサ…」

「そんなにやばかったのか?」

「彼女たちの吸収力は半端じゃなかったから当然仕込みもしなきゃいけなかったし、

僕も宮廷に入りたてで、山のように覚えることあったからネェ。

そんな中仕事で疲れ果ててる中、カーナの魔法の直撃を食らった時は死を覚悟したヨ。

それが一回二回じゃないってのがサ…」

蒼白な面持ちでドーラは語る。

「た、大変だったんだな…」

ここでドーラが言う王様というのは第三魔王クファトスである。

ラフェミナ、サフェリナ、カーナ三人の大魔女はクファトスの実子だという。

彼女たちは三百年前に幻獣王とともに魔王クファトスに反旗を翻し、これを封印。

この時代の礎を作ったとされている。

ちなみに秘密になっているが、サフェリナはフィアの実母である。

「三人はどんな教え子だったの?」

フィアは目を輝かせながら聞く。

「言葉にするなら下から順に博覧強記、才気煥発、天衣無縫ってとこカナ。

王様の実子というひいき目抜きにしても、彼女らの才能は飛びぬけていたネ」

「すごいなぁ」

「フィアちゃんもがんばって。君も十分彼女たちと張り合えるよ」

「私はまだまだです」

フィアは照れながら、それに応える。

「ドーラさん、さっきから何の本読んでるんです?」

「ミイドリイクの案内本。コーレスで調達してきた」

ドーラはそう言って本の表紙をフィアに見せる。

「これから訪れる場所ですし、よければ教えもらえませんか?」

ドーラはまるでおもちゃを見つけた子供のような目をした。

ヴァロは嫌な予感がした。

ヴァロにとってののどかで穏やかな空の時間は、突然の終息を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ