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1-3 不安

ラフェミナとニルヴァ、そしてその弟子たちは怪鳥が飛び去った空を見上げる。

残された魔女たちは目の前で引き起こされた奇跡にただ驚き、唖然としてその場に立ち尽したままだ。

目撃したものは魔法と呼ばれるものの深奥であり、失われた技法のひとつであった。

あの男は、それをまるで息を吸うかのように扱っていた。

彼女たちは認めていた、彼の者がまぎれもない第四魔王ドーラルイであるという事実を。

「先に馬車に戻ってなさい。わたくしたちは少し話があります」

ニルヴァはそういって弟子たちを下がらせた。

周囲から誰もいなくなるのを確認し、ニルヴァは静かに語りだす。

「なぜそこまでして、あの者たちをミイドリイクにまで行かせようとするのか理解に苦しみますわ?

知る者が知ればあなたのお立場すらも危うくなります。

わたくしにはラフェミナ様がやっていることが理解できませんわ」

「…必要なことよ」

「…それは元魔王を使うほどの事態なのですか?」

「私の感が正しければ。外れてくれればそれに越したことはないけれど」

こういうとき、大魔女の感はおそろしいほどに当たる。

それは抑止の一つであり、この大陸を影から支えてきたものだ。

ニルヴァもそれは知っている。

「…わたくしはあの者を使うことには賛成しかねますわ。

あのものはある種の毒。用い続けるのなら御身にすら災いをもたらすやもしれません。

ラフェミナ様、本当にあの者をこのまま生かしておくおつもりですか?」

「怖い?」

「いえ、けっしてそんなことは…」

ニルヴァは言葉を濁した。

ラフェミナの顔から笑みは途切れない。

「その怖れは正しいわ。召喚術から呼び出された魔物はおそらく異邦の『爵位持ち』に相当する者。

もし受肉し、敵対したのなら人類にとって魔王クラスの脅威になるでしょうね」

「『爵位持ち』?伝説ではなかったのですか…」

「今はどうなっているかはわからないけれど、少なくとも四百年前には制度として存在していたわ」

「そんなものを自在に呼び出せるあの男はわたくしたちにとって…」

「そうね。私でも本気になったあの人を止められるとは思えない」

それを聞いてニルヴァは青ざめる。目の前にいるのは現在の魔法使いの最高峰。同時に絶対抑止。

その方が止められないのならば誰も止められないということに思い至ったからだ。

「それを解ってながら何故…」

「あの人がいなければ今頃コーレスは地図上から姿を消していたわ」

「それはどういう意味ですの」

言ってる意味が解らずニルヴァは聞き返す。

「異次元の彼方に元の躰を吹き飛ばしたのは、ヴィヴィではなく彼よ」

「!!!」

ニルヴァは思わず言葉を失う。

「ヴィヴィちゃんがいくら天才であろうと『三次』をわずか二か月で満足に使えるとは思えない。

『三次』はカーナ姉様でも扱えるようになるまでに数か月を要したのだから」

「カーナ様でも…」

カーナという名がニルヴァにもたらした衝撃は大きい。

彼女たちにとってその名は絶対者もしくは神に等しい。

「そのことをあの人に問いただしたら、ヴィヴィちゃんの魔法を使うタイミングで『三次』を発動させたといっていたわ」

「…」

「私は彼が今結界から出てきたのには何か意味があるんじゃないかって思うのよ。

不安を感じるかもしれないけれど、この件は私に預からせてもらえるかしら?」

ニルヴァは大魔女の言葉に黙って頷いた。



空の上は予想以上に快適だった。

馬車のようにガタガタという振動もなければ、船のように揺れることもない。

動ける場所もかなり広いし、振り落とされるような心配もなさそうだ。

寒さと風を除けば最高の環境とも言えよう。

「フィアちゃん、それじゃ断熱の結界を張ってみようカ。

ここのままだとミイドリイク着くまでにみんな凍死しちゃうからネ。ああ、できれば気圧も整えてくれるといいナ」

ドーラはまるで食堂で料理を注文するかのように、気軽にフィアに言う。

今は冬の寒空だ。上空は風も強いし、地表よりもずっと寒い。

この状況に一日以上続くのならば、全員凍死も十分にありえる。

「ええ」

フィアはすぐさま魔法式を編み始める。

一息ついたところでヴァロはドーラに話しかけた。

「なあドーラはこの件どう思う?」

「どう思うって?」

「俺はやばい気がしてならないんだが」

ドーラはきょとんとした顔でヴァロを見る。

「…ヴァロは意外と鋭いとこあるよネ。僕もそう思うヨ。

元魔王の力を借りるとか体裁気にしてないし、ミーナもかなり切羽詰ってるネ。

おそらくミイドリイクを取り巻く状況はかなり悪いと見たほうがいいんじゃないカナ?」

「…やっぱり」

胸の中でもやもやしていたことが、少しはっきりしてヴァロは少しだけ心が軽くなった。

「状況はよくわからないけど、かなりの厄ネタだと思った方がいいかもネ」

他人事のようにドーラは応える。

「そんなのをなんで引き受けたんだ?」

「決まってるじゃないカ。ミイドリイクに行ってみたかったからサ」

ヴァロはドーラの口から出てきた言葉にあっけにとられた。何言ってんだこの男。

「仕事休めてミイドリイク観光なんて最高でショ。三百年前は戦争してたからいけなかったんだよネ。

遺跡都市…ああ…遺跡都市…なんて甘美な響きなのサ」

「…お前さ」

夢見るように遺跡都市の名を呼ぶドーラを見て、ヴァロは殴りたい衝動に駆られた。

こいつは絶対に観光と勘違いしてる。

「結界張り終えましたよ」

ヴァロが何か言いかけようとすると、背後からフィアの声が聞こえてくる。

気が付けば周囲は半透明の膜のようなものに包まれていた。

気が付くと周囲は風も無く、気温も適度な温度に保たれている。

「ああ、ご苦労さん。防風に断熱、気圧調整がきっちりなされてるネ。さすがフィアちゃんダ」

ヴァロはあの召喚の魔法を見せつけられた後に褒めるもどうかと思ったが、

ただフィアはほめられたことに素直に照れている。

フィアにとってドーラは上の存在なのか。

以前ドーラはヴァロのことを友達と言っていた。

そのことにヴァロは悪い気はしないが、ずいぶん奇妙なことになったと思った。

元をただせばこの男がイレギュラー過ぎるのが悪いのだが。

「それじゃ、ミイドリイクまで行ってみよーカ」

張り切って言い放つドーラにヴァロは頭痛を禁じ得なかった。

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