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1-2 元魔王の魔法

聖都コーレスから少し西に行ったところに森がある。

夏になれば日の光が一日中差し込むことなく、誰も踏み込むことのない深い森だ。

大魔女から依頼があった翌日の早朝、

ヴァロとフィア、ニルヴァとその弟子…会議室にいたメンバーはそこへやってきていた。

昨日と同じようにラフェミナは人形に入っているらしい。

季節は冬なので木々には葉がついておらずどこか寒々しい印象を受ける。

「ニルヴァ様、人払いは完了しました」

ニルヴァは弟子の報告に首肯する。

「不便だネ。空を飛ぶ魔法すら満足に研究できないなんてサ」

「必要なことですわ」

空での行き来は一部の地域のみで認められているらしい。

軍事転用されるのを恐れてとの話だ。

「魔封緘だっケ?それじゃ一本頂戴」

ニルヴァが弟子のひとりに視線を送るとその弟子がドーラに何やら手渡す。

魔封緘をドーラが魔封緘を手にするとすぐにその封を切る。

「馬鹿…待て」

ニルヴァの弟子の一人が声を張り上げる。

魔封緘から漏れ出た黒い霧は、ドーラの手の上に黒い球体のようなものに収束していく。

そのさまはまるで生き物のようだ。

「何かいったカイ?」

ドーラは弟子の言葉に振り向いたが、弟子は口ごもる。

ドーラの右手の上には丸い魔力の塊が浮いている。

「材質は木がいいカナ?できればヒノキがいいのだけれど…まあ仕方ないな」

そうつぶやくとドーラは手馴れたように魔法式を展開する。

ドーラは魔法式をいとも簡単に構成して見せた。

その構成速度、精度にヴァロを除いたその場にいた誰もが目を見張る。

まるで息をするかのように巨大な魔法陣が地面に描かれていく。

発動すると同時に魔方陣から黒い霧が吹き出し、周囲の木々を取り込んだ。

周囲に広まった黒い霧が収束していく黒い霧から出てきたのは木で造られた巨大な木造の怪鳥。

一同、目の前で起こる現象に驚いて声もでない。

これほどのモノを作り上げるのにどれほどの繊細な魔法式が必要とされるのか。

魔法式を知らないヴァロでさえ、その技術のすごさを感じ取れる。

「さてと、それじゃ次」

あっという間にドーラの足元に巨大な魔方陣が形成される。

「召喚魔法?」

フィアが声を発する。

「まーネ。ただの媒介召喚。少し知ってる奴を呼び出すのサ。三百年ぶりだけど生きてるカナ?」

魔方陣の中央から吹き出してきた黒い霧のようなものが魔獣のカタチをとる。

角を生やし、腕を組むさまからは威厳のようなものすら感じる。

それは話に聞く悪魔そのもの。

少し前に対峙した聖剣の突き刺さった魔獣ですらも、この悪魔の前にはかすんで見える。

周囲にいるニルヴァの弟子すべてが身構える。

「大丈夫だって、肉体持ってないから危害は加えられないヨ」

ドーラはその場にいた誰もに言い聞かせる。

「人間ごときがわしを呼び出すとは…。相応の対価の覚悟はしておるのじゃろうな」

鋭く威圧するかのように、その悪魔はヴァロたちを睥睨する。

術越しにでもこの悪魔のやばさがひしひしと伝わってくる。

「グロじーさん、まだ生きてたみたいでなによりダ」

それに臆することなくドーラは歩み寄る。

その悪魔はドーラを凝視したあと、驚きの声を上げる。

「この波長…まさかドーラルイ魔法長。人間界で封印されていたと…」

「こっちには最近出てきてネ。魔法長って…いつの話だヨ」

ドーラは苦笑いを浮かべる。

「魔法長の座に就いたのはあなたが最初で最後ですじゃ」

「それ本当?モールの奴なら喜んで後釜に座ったんじゃないカ?」

「それが…少し複雑な事情がありましてな」

話が長くなりそうだったので、ヴァロは少し咳払いをする。

「まあ、積もる話は置いといて…。

僕の疑似魂まだあるカイ?できればここまで送ってくれないカナ?」

「おお、ありますとも。どれにしますかな?」

「それじゃ、ロダの二を出してもらうかナ」

「お安い御用」

魔方陣の中心からドーラの手元に光の玉のようなものがやってくる。

「ありがとう。このことは黙っててくんないカナ。

こんな成りだしサ、アデェルフィとかに知られると面倒だからネ」

「もちろんですとも。わしも隠居した身。して、いつ帰ってこられるのですかな」

「気が向いたらネ」

「お待ちしておりますじゃ」

その悪魔が一礼すると、姿が消えていく。

巨大な気配も嘘のように消失する。

「あれは…」

「昔の友人。自分で呼び出しておいていうのもなんだけど、まさかまだ生きていたとはネ」

そう言いながら、ドーラは光の玉のようなものを木の鳥に入れる。

木の鳥が周囲に光を纏う。

直後、木の怪鳥はまるで生きているかのように翼をはばたかせた。

周囲に突風のようなものが巻き起こる。

幻術ではない。ヴァロは息を飲む。

以前クーナと呼ばれる魔女が使ったものと同じものだ。

あの時は丘がムカデのようなものに代わり、ヴァロたちを襲った。

目の前の鳥はそれとは術の完成度が全く違う。

まるで本物の鳥であり、生きているかのようにすら見える。

それは素人目のヴァロにも容易にわかった。

怪鳥はドーラに向けて頭を垂れてくる。ドーラはその頭を優しく撫でる素振りを見せた。

「疑似魂魄…。三百年前にもその技術がありましたのね」

ニルヴァが唖然とした表情で、それを口にする。

「まあね。鳥の魂まで作る時間はないし、プログラムだと何かあった時に対処できないでショ」

ドーラは鳥の頭をなでながらニルヴァの問いに答える。

「それじゃ、ヴァロ君にフィアちゃん、二人ともこの鳥の背中に乗ってもらえるカイ。

今日中にはミイドリイクに行きたいダロ?」

ドーラの言葉にヴァロとフィアは動き出した。

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