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6-2 魔将

想像以上に天幕は大きかった。

小さな屋敷ほどあるだろうか。

これほどのモノを移動できる異邦の技術にヴァロは驚く。

天幕に入ると甲冑を付けた兵が二人、入口付近で番をしていた。

それをちらりとドーラは盗み見る。

その二人から離れると、小声でドーラは呟く。

「…やっぱり制軍か」

「制軍って?なんだ?このクラントさんにもわかるように説明してもらおうか?」

クラントがドーラにかみついてくる。

「悪魔王の旗下の軍サ」

「悪魔王?」

「聞いたことがあるだろう。幻獣王の一人サ。

異邦の三王の中でももっとも厳格で、もっとも高潔な王様」

「幻獣王なんてものはただのおとぎ話だろ。

だいたい生きてるとなりゃもう四百歳以上じゃねえのか」

そう幻獣王が人間の歴史に登場してきたのは第一次魔王戦争時の時だ。

そして、最後の記述が残っているのは第三魔王を封印したあと。

それが本当ならクラントの言うとおり、少なくとも四百年は生きているということになる。

「生きてるさ。天災とかそういった類の連中だからネ」

静かにドーラは断言する。

それがどんなものなのか、ヴァロたちはこの時まだ知り得なかったのだ。

それがどれだけ強大なものなのか。

「そりゃ本当に生物かよ」

「僕もそれが知りたいヨ」

どこか呆れたようにドーラはぼやいた。

「無駄口は終わりだ」

エレナは鋭い眼光で二人を睨みつけた。二人は一瞬で黙りこくった。


その場所に座っていたのは甲冑をきた一人の男だった。

見た目は人間で二十代ぐらいだろう。

「はじめまして。我の名は幻獣王バルハロイ配下、伯爵、カリア=ノーブフォンデ

お前たちが異邦と呼ぶゾプダーフ連邦において制軍第七師団を任されているものだ」

黒い甲冑に身を包んだ男は堂々とそして余裕をもってそう答えた。

体はそれほど大きくはない、見た目からは想像もできないほどのゆるぎない存在感。

指先一つを動かすにしても圧のようなものを感じてしまう。

明らかに人という枠ではない。

強者ぞろいのマールス騎士団にも、これほどの傑物はいないと断言できる。

「交渉の余地はない。ミイドリイクは引き渡さんよ」

エレナは毅然とした態度でそう言い放つ。

「よりよい返事がきけると思ったのだがな。残念だ」

返事を予想していたのか男が動じる気配はない。

「それは我々と事を構える覚悟があると考えてもよいのだな」

カリアは凄惨な笑みを見せる。

まるで野生の獣が牙をむき出しにしたような感覚。

青年の体をしているが、中身は鬼か竜か。

「ああ」

ヴァロは相手は魔族なのだと再認識した。

「ハハハ…我と対峙してひるまない者は久しぶりだ」

エレナはゆっくりと深呼吸をする。

今彼女にとって好都合なのは、敵が集まっていることだ。

彼女のもっとも得意とする師から伝授された『瞬魔』ならば、

瞬きの間に魔法を発動させ、ここにいる魔族に魔法を放つことが可能。

たとえ自身が犠牲になろうとも、ここで目の前の敵を倒さなくてはならない。

エレナはそれがもっとも犠牲の少ない道だと信じて疑わない。

エレナは脳内に魔法式を描き始める。

「…そうだな」

それを行おうとした瞬間、首から下の違和感に気づく。

エレナは動かそうとするも動かない。首から下の肉体の感覚が無くなっているのだ。

あり得ない異常事態にエレナは戸惑う。

「それ以上はなしでネ」

背後からぼそっと小さく声をかけられる。

その声のもつ響きは水面に起こる波のように彼女の心をざわつかせた。

同時に自身が意図的に動けない状況に置かれているということを知る。


ヴァロはそれを背後から見ていた。

ドーラがエレナの背後に立ち、背中に指を当てている。

護衛であるはずのクラントは見て見ぬふりをしてくれているようだ。

不意にヴァロはドーラと目があう。

ヴァロはドーラにやれと言われた気がした。

ヴァロは意を決して、エレナの前に進み出る。

「私からもいいでしょうか?」

「従者風情が何のようだ?」

カリアは不快感を隠そうともしない。

ヴァロは無言で、手にした布をほどき、聖剣の刀身を半分さらした。

その剣からは白いオーラのようなものが立ち上る。

「聖剣…カフルギリア。失われたはずの聖剣がどうしてここに?」

一番に反応したのはエレナだった。

そしてその一言にその場がしんと静まり返る。

「ヌーヴァ、本物か」

カリアはヌーヴァに問う。

「本物です。『棘』の聖剣に間違いはないかと」

初老の男も信じられないものを見るようにそれを口にする。

周囲の騎士たちはその言葉にざわめいた。

「貴様、聖剣の契約者か」

カリアの問いにヴァロは頷く。


そして、ヴァロは漸く交渉の席につけたことを知る。


「こちらには聖堂回境師二人に魔剣使い、

私も必要ならばこの聖剣の持てる力すべてを開放して戦う用意があります」

クラントもまた俺もいるんだといわんばかりに、刀身をちらつかせる。

どす黒いオーラに周囲の騎士が警戒するのがわかる。

『呪剣』ジャダルカ。

聖剣と戦って敗れはしたものの、その力は未だ健在のようだ。

「…見くびられたものだな。我々が死を恐れるとでも?」

そのカリアの言葉には凄みが感じられた。

名誉を汚すのであれば死すらいとわない誇り高きその精神。

ヴァロは同じ種類の人間を知っている。

だからこそ、それを知るヴァロが駆け引きできるのだ。

「いえ、そういう意味ではありません。

もし戦闘になったのならばミイドリイクの住民まで巻き込んでしまいます。

あなたも騎士を名乗るのならば、敵の民とはいえ、無辜の民を巻き込むことは本意ではないでしょう?」

ヴァロには確信があった。

ライフラインである水を最後まで残していたのは、おそらく敵国であろうと

戦争に関係ない一般市民を最後まで巻き込みたくないという迷いがあったためだ。

交渉をしようと手紙をよこしたのは、できるだけ穏便に済ませたかったからだ。

それはこの男の甘さでもある。

もしこの男が本気になりさえすれば、

結界の機能しないミイドリイクなど、一日にして陥落できたのだ。

対峙している今だからこそそう確信が持てる。

「…フム。ではどうする聖剣使い?」

カリアは面白そうに口元を歪める。

「決闘をしましょう。私とあなたで。ミイドリイクをかけて」

ヴァロの突拍子もない申し出にその場が凍りつく。

その場にいた誰もが予想もしなかった言葉に反応できないのだ。

「なんだと?」

ヴァロの言葉にカリアは動じる気配をみせない。

「お互いに魔力、聖剣は一切使わずただの剣のみで」

ヴァロの一言に、水を差したようにその場が静まり返る。

それは危険な賭けでもあった。

聖剣が折れていると相手に分かったのであればその取引は成り立たない。

聖剣を所持しているとわかれば、相手も死力を尽くしてくる。

「フフフ…ハハハ…アハハハ」

その将軍は狂ったように笑いだす。

天幕の中を将軍を中心に、黒い魔力が吹き荒れる。

「よもや人間ごときに決闘を申し込まれるとはな。

もし我が負ければ軍を引いてやる。その代わり我が勝ったならば、ミイドリイクを差し出してもらう」

これ以上ない凄惨な笑みを浮かべ、カリアと呼ばれる魔族はヴァロに向けて言い放つ。

「若」

「ヌーヴァは黙っていろ。決闘を申し込まれたのならばそれを受けねば騎士の名折れ。

ただし、小僧、我に決闘を申し込んだこと後悔はするなよ」

カリアは激情とともに黒い魔力を周囲にまき散らす。

それはその天幕を覆い尽くすほどのものだ。

普通の人間ならばそれに当てられ、失神していてもおかしくはない。

「ええ」

ヴァロは怯むことなくそれに応じる。

その対応は、第四魔王の躰と戦った経験が生きたといっていい。


そして、その舞台の最後の幕が上がったのだ。

ちなみに魔軍のテントはサーカスのテントをイメージしてください。

魔物の手当てとかあるので大きめです。

若干ネタバレです。

幻獣王に関しては、天災級です。

並みの魔王では太刀打ちできません。

しかもそれぞれがかなりの知性を持っていて最強クラスです。

ただし全員保守的。そしてある約束があり、人間界に干渉してきません。

一人物語で語られたのは魔術王に牙を渡したというフィリンギ。

考えてみればオルカ出てるな…。

オルカに関しては事情がかなり複雑。それも今度。

いずれみんな登場させる予定です。

お楽しみに。

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