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5-4 秘策

それは夕食後、ヴァロの部屋での一幕だ。

「ドーラさん。お願いです。歪みの原因を教えてもらえませんか?」

フィアはドーラの前で深々と頭を下げた。

ドーラは首を捻り、値踏みするようにそのフィアの姿を見つめる。

ヴァロはこんな必死なフィアは初めて見る。

思えばフィアは、夕食の時もどこか思いつめた顔をしていたような気がする。

「それは君がミーナから任されたことだヨ。僕が解決したのでは意味がないサ」

「それでも…」

引き下がらないフィアを見てドーラは首をかしげた。

「それはどちらの立場から来る願いなのカナ?」

「…」

「君の秤は壊れているネ。

僕が言うのもなんだけれど、君がその考えを捨てない限り、取り返しのつかない事態を引き起こすヨ」

見るに見かねてヴァロが口を出す。

「ドーラ、俺からも頼むよ」

こいつ横から何言ってるんだ、と言わんばかりの顔でドーラはヴァロを睨む。

「本人が自覚ないんじゃネェ」

ドーラはため息をつくと、語り始めた。

「…それじゃヒントダ。結界は世界を作る術だヨ。この結界の綻びは世界の歪みそのものなのサ。

ならもし世界に歪みがあるのならばそれはどんな時かナ?」

フィアはドーラの言葉に少し放心したように聞き入る。

「それじゃ、フィアちゃんの部屋に戻って考えるといい。僕らは明日の用意がある。

フィアちゃんは自分の部屋に戻ってネ」

そう言ってドーラはフィアを部屋から締め出した。


「大丈夫なのか?」

宿に戻るフィアを、窓から眺めながらヴァロ。

「もうヒントは出しているヨ。後はフィアちゃん次第。

僕はフィアちゃんを買い被っているのサ」

フィアなら結界を修復できると確信しているということだろう。

問題はフィアが明日までにそれを解けるかどうか。

もし解けたとしても、そのあと結界の綻びを直さなくてはならない。

さらに結界を使っての魔軍の締め出しは本当に可能なのかどうか、甚だ疑問ではある。

結界の綻びを解くことが問題解決にどうつながるのだろうか。

「…お前は綻びの原因を知っているんだな」

ヴァロの問いにドーラは沈黙で返した。

ドーラに関しては本当に底が知れない。この元魔王はすべてにおいて理解の外にいる。

怖ろしいと思う反面、頼もしくもあった。

「彼女にはアレを引っ張りだしてきてもらわないとネ」

ドーラの顔には笑みが浮かぶ。

「意味がわからない」

「意味を知る必要はないサ。フィアちゃんの出した結果にこそ意味はアル。

その件はフィアちゃんにすべてまかせようヨ。僕らは僕らのするべきことをするべきじゃないカ?

ここからは僕らの話だヨ。ヴァロ君の考えを聞きたいネ」

ドーラはヴァロににこりと微笑みかける。

「考え?」

「とぼけちゃいけないヨ。その様子じゃ、聖剣との契約もまだエレナに伝えてないんダロ。僕はアドリブはごめんダヨ」

ヴァロは聖剣との契約をエレナに伏せている。

それはエレナにもし聖剣の保有を知られれば、それを踏まえたうえで作戦を立てようとすると考えられるからだ。

聖剣の力は、かつて劣勢だった魔王戦争においてそれを覆したというほどの兵器でもある。

エレナの気性から考えるに、あの魔軍と直接戦うことも十分考えられる。

そうなれば被害は甚大なものになるだろうし、頼みの綱の聖剣も何処までもつのかわからない。

そのためそれはタイミングを見て、ヴァロ一人で行う必要があった。

「…本当になんでもお見通しだな」

ヴァロは盛大なため息をついた。

「僕の忠告をきいてくれたんダロ」

ドーラはいつになくにこにこしている。

どうやらこの男ドーラはすべて見通しているようだ。

考えを話してしまってもいい気がした。

自身の協力者は一人でも多いほうがいい。

ドーラは元魔王だろうが、関係ない

ヴァロは考えていることをドーラに語りだした。


「それ面白いね。ただし、相手は伯爵ダ。命がけになるヨ」

あっさりとドーラはヴァロの考えを許容する。

「わかっている。どう考えても無事に済むとは思えない」

「僕が一度だけ時間を作るヨ」

ドーラの一言にヴァロは驚く。

「いいのか?これであんたも俺と同罪だぞ?」

ヴァロは思ったことを口にする。

今後魔女たちに狙われるかもしれない。

下手をすれば教会から指名手配される場合もあり得る。

それは人として生きたいと願った彼には障害にしかなりえないはずだ。

「構わないサ。もう寝ようヨ。明日の朝の本番に差し支えるヨ」

背伸びをするしぐさをしてドーラは立ち上がる。

「構わないって…。何であんたは俺にそこまでしてくれるんだ?」

この数日を通してみてわかったことがある。

この男は本物の怪物だ。

この男は魔力がないとはいえ、魔女ですら驚くほどの魔法を使えるし、

その気になれば再び魔王として君臨することもできるだろう。

何もないヴァロに協力してくれる道理などないのだ。

「君は僕の友人だと言っただろう?友人への助けに理由は必要かい?」

「友人って…。俺はあんたらと違って、何も持っていないただの人間だぞ?」

フィアもそうだ。

どんな敵を前にしても、自身を必死で守ろうとしてくれる。

魔王と対峙した時も、ヒルデの件の時も。

代えのきかない存在ではないし、守らなくてはいけないモノでもない。

命の危険があれば見捨てて逃げても、責められることはない。

死ぬことも仕事の一部なのだ。

「んー、君だけは僕らを一個の人間として扱ってくれているからサ。

…君は僕に友人として見られることは嫌カイ?」

ドーラの一言に、ヴァロは言葉を詰まらせる。

「それじゃ、また明日」

そう言って奇妙な男は自身の部屋に戻っていった。


どうやら信用できていなかったのは、ヴァロ自身らしい。


ヴァロは明かりを消し、窓から空を眺める。

切り替えなくてはならない。相手は異邦の伯爵。その能力は準魔王級だという。

迷いや恐れがあってはまず勝てない。

かならず明日を乗り切って、明後日を皆で迎えたい。

ヴァロは目を閉じだ。

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