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4-3 修理依頼

彼女の高い塔を思わせる建物の最上階に彼女の部屋はあった。

フゲンガルデン、コーレスと比べれば明らかに異質。

フィア、ヴァロ、クラントは奥の一室に案内された。

その部屋にはエレナの座る机とその前に向かい合うようにソファーが置いてあった。

彼女の背後には大きな窓があり、青空がのぞいている。

ここに来るまでも動く小さな部屋に入ってここまで来た。

おそらく魔女たちの使う技術を使っているのだろう。

遺跡都市とはいうが、その技術は現代の技術では作りえないものだ。

「好きに座ってくれ」

書類に目を通しながらエレナ。

彼女の机と思われる机の上には書類の山があった。

真ん中のソファーに三人は腰かける。

「もう一人いたはずだが?」

「すみません。ミイドリイクに入ってすぐに、はぐれてしまいました」

ドーラのことだ。向かった先は間違いなく遺跡。

時が来れば、またひょっこりと顔を出すに違いない。

「かまわんさ。むしろ少ないほうが都合がいい。

フィア殿、できれば後ろの二人には席を外してもらいたいのだが」

「ここにいる『狩人』はヴィヴィと私がもっとも信頼のおいている者です。

差し支えなければ同席させてもらいたいのですが?」

「俺はヒルデとは親しいし、口は堅いほうだぜ」

自信ありげに応えるクラントにエレナは目を細める。

「…まあいい。口論している時間が惜しい」

眉間にしわを寄せながら、エレナはしぶしぶ了承する。

「状況は見ての通りだ」

五日前から魔物の占拠が続いている。

五日前というと大魔女ラフェミナから依頼を受ける二日前。

そのころには、すでに魔物が占拠していたということになる。

「我々も魔物を排除するべく、武力をもって対処しようとした矢先にこんな手紙が届いた」

そう言ってヒルデは一枚の羊皮紙をテーブルに広げる。

ヴァロの目にも、一目で高価なものだとわかる。

羊皮紙の上には見たこともない文字の羅列があった。

最後にはきっちりと刻印のようなものまで押されている。

「この文字は?」

「…異邦の文字だ」

異邦とは文化圏が違う。

「読めるんですか?」

「少しはな。手短に言おう。

この手紙には、明後日の朝までにこのミイドリイクを退去すること。

それが簡潔に書かれていた」

言い換えるならば出て行かないのであれば軍事力を行使することもいとわない。

つまりは脅迫文だ。

「さらに刻印のようなものと一緒に、伯爵カリア=ノーブフォンデと書いてある。

ここに書かれている通りならば相手は異邦の伯爵。

つまりは『爵位持ち』ということになる」

『爵位持ち』という言葉にヴァロは心当たりはない。

そもそも異邦に関しての知識など一般の人間が持ちようがない。

ドーラがいれば解説してくれたのだろうが、奴は現在観光中だ。

「『爵位持ち』…伝説ではなかったのですね」

フィアは重々しくその事実を受け止める。

「さあな、実物をみたわけではないから何とも言えんが。

この書簡、そして今置かれている現状から見て、信ぴょう性は高いと考えている」

『爵位持ち』という言葉に、その場の空気が明らかに重くなった。

ヴァロは『爵位持ち』という言葉は初めて聞く。

フィアとエレナは理解しているようだ。

ただこの場で聞けるような雰囲気でもないので、ヴァロは置物のように黙っていた。

「もし本当に『爵位持ち』が相手の陣営にいた場合、我々の戦力では勝つことは難しい。

さらに言うなら異邦との交戦状態になることも十分考えられる」

そこまで来て事の重大性にヴァロは漸く気付く。

ここで判断を誤れば交戦…つまり戦争になるということだ。

それが起きれば有史以来初となる異邦と戦争になる。

「話し合いでは解決できないのでしょうか?」

「現在異邦とは国交を結んでいない。

かろうじてあったつながりはザクリアの災厄以後完全に切れてしまったままだ。

三百年の間、彼の国の情報は唯一国交のあるラムード自治領から

断片的に入ってくるだけだ。内部でなにが起きているのかすら一切わからん」

大陸最大のブラックボックス。

それが異邦。この大陸のおおよそ半分の版図をもち、最大の軍事力を有する最大の国家。

三百年という長い時の間、沈黙を守り続けてきた。

一時緊張が緩和していた時期もあったようだが。

ザクリアの災害というのは、異邦から強大な黒獣ミャルディッケが人間界にやってきた事件である。

その際に黒獣ミャルディッケは大災害を引き起こした。

それが原因となり、それ以後人間界の中で、異邦は禁域とする風潮がはびこることになる。

その流れの中でかろうじて異邦と国交のあった国もなくなり、

以後、人間界と異邦との国交は途絶えることになる。

黒獣ミャルディッケは異邦とは直接関係がないとわかったのは、国交が途絶えた後だという。

「見ての通り、ミイドリイクの結界がどういうわけか機能していない。

もし再び機能することができるのならば、

あの魔物どもをミイドリイクの外まで追い出すことができるはずだ。

そこでフィア殿には結界の調査をお願いしたいのだが?」

「私に?」

フィアはきょとんとした表情で、そう応じるのが精いっぱいだったようだ。

「そうだ。評議会の連中への対応等におわれていて、私一人ではそこまで手が回せない。

かといって弟子には任せられる者はいないし、正直かなり困っていた」

初めてみせるエレナの弱音。

「私などが…」

エレナは立ち上がりフィアの肩を軽く叩いた。

「もう少し胸を張れ。フィア殿はラフェミナ様に選ばれたのだろう?

ここの結界は初めて見るだろうが、フゲンガルデンの結界管理をしていたのであれば問題はなかろう。

…どうだ引き受けてくれるか?」

エレナの問い駆けにフィアはしばらく考えた後、首肯する。

「わかりました。こちらもこちらのできる限りのことをさせてもらいましょう」

フィアの言葉にエレナは頷いた素振りを見せる。

「案内役にはセージをつけよう。わからないこと、頼みたいことがあればセージに言え。

今宿の手配をまかせてある。ここにいればもうじきくるはずだ」

そう言ってエレナは身を翻し背を向ける。

「エレナさんは?」

「私はこれから評議会の連中のお守りをしてこなくてはならん。

連中、何もできないくせに口だけは達者でな。…気が滅入る」

エレナは机の横にかけられたコートをとり、袖を通した。

「そうそう魔剣使い。お前は別だ。お前は私の護衛についてもらう」

「は」

クラントの表情が一瞬固まる。

「どうした?ついてこい」

「…おいおいお尋ね者を護衛につけていいのかよ」

クラントはあからさまに嫌そうな顔をする。

「貴様はヒルデ様に任されたのだろう?あの方の信頼は私の信頼でもある」

捨て犬のようなまなざしをヴァロたちに向ける。

どうにかしてくれと顔に書いてあるが、こればかりはどうにもならない。

「あー、わかったよ」

クラントは頭をかき、しぶしぶエレナの後を追った。

クラントはお尋ね者である。

ヒルデと関係があるとはいえ、危険分子は目の届くところに置いておきたい

という思惑もあるのだろう。

これで『狩人』とクラントの不測の事態への配慮はほとんど消えたといってもいい。

またこれは魔剣使いなど、いつでもどうにかできるという彼女の自身への

絶対的な自信の表れでもあるともいえるのかもしれない。

その部屋のドアの前で、エレナは立ち止まる。

「…そうだ『狩人』」

「?」

いきなり呼び止められヴァロは驚いた素振りを見せる。

「ヒルデ様は今もお元気だったか?」

「ああ」

「そうか」

ヴァロは、エレナ険しい横顔が少しだけ緩んだ気がした。

ちなみに捕捉。ミャルディッケはのちに魔王と教会が認定しました。

一度会話の中で出てきているので調べてみると面白いかも。

爵位持ちの説明は次章でやります。

異邦はスケールが大きいっす。

異なる秩序のある社会であり、それ故に人間界との接触を嫌います。

人間界と呼称しましたが、そこは人間の生息域ってことでお願いします

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