焚き火を囲んで
評価・BMありがとうございます。
今回とても短かいですが、ひとまず上げます。
「とは言え、お姫さんも一緒に住むとなると、流石にこのボロ屋はマズいよな」
夕熾様がポツリと呟きました。
「私のことでしたら気になさらないでください。痛っ」
夕熾様が中指で私の額を弾きました。"デコピン"というそうです。
名前はかわいらしいと思うのですが、その実態は凶悪です。
額を押さえながら涙目で睨み上げると、夕熾様は困ったような顔で仰いました。
「快適に過ごすに当たって、こういうのは始めの内にしっかりとしておかないと駄目なんだよ……主に俺の理性とか」
終わりの方が小声で聞き取れなかったのですが、私とうまくやっていこうという積もりらしいです。
「とは言え、今日はもう遅い。なんやかんやするのは明日からだな」
庵を出て、焚き火の準備をすると、ナイフで整えた枝にパンを刺して
焚き火の側に刺して温め、石組みのかまどに鍋を置いて干し肉や野菜を刻んで投入されています。夕熾様は手際よく作業を進め、私はといえばそれをただ黙って見ているだけでした。城での生活では料理人がしてくれるのが当たり前で、私は何もできないのだと実感させられました。
「あ、あのっ!」
思い切って話しかけると、夕熾様がこちらに振り向きました。
「私に料理を教えてもらえないでしょ・・・うか?」
徐々に声が小さくなってしまいます。
ですが、夕熾様はニッと笑い、
「俺のも人に教えられるほどのもんじゃないけどな。」
そう言いつつ、パンに切れ目を入れ、チーズでしょうか?を挟みつつ火の側に刺しなおしています。
パチパチとたてる音を聞きながら焚き火を囲み食べるのはとろけるチーズたっぷりのパンと干し肉の塩気を生かしたスープで、城で食べる贅を凝らした晩餐とはまるで違いました。でもそれは城での食事に劣るというわけではなく、一眠りしていたとは言え、疲労の残る身体に染み渡るのでした。テーブルがない、というのはちょっと不慣れで、品良く食べるというのが困難でしたが、とても美味しくってずっと印象に残っていました。
手ぬぐいで身体を拭き清める用に、夕熾様は湯を沸かしてくださって、庵を私に使わせてくださいました。
その後、寝床を巡って言いあいをしましたが、結局私がベッドで眠ることになり、夕熾様は火の側で地面で横になるのだとか。
私は夕熾様に謝罪をする、という自己満足のためにここに来て、夕熾様に余計に迷惑をかけているだけなのではないでしょうか。
「なぁ、お姫さん。与えられるのが当たり前だと思ってないだけあんた、嫌いじゃないぜ」
夕熾様にそう言われたのは少し喜しかったのですが、結局私は何もできていないのです。掃除とか、頑張ろうと決意をしたところで、睡魔が私の意識を刈り取っていったのでした。