親方ァっ、根元に女の子がっ
夕熾の歩みに淀みはない。
住処を中心に一定範囲に張られている結界、それを踏み越えた時になる警戒アラームが鳴り、様子を見に行こうというには些か問題である。
ちなみにここに住むにあたり、この辺りを住処とする魔物とは肉体言語でO☆HA☆NA☆SHIしたので、この山に住む小動物らが辺りを散歩する程度である。
とまれ、「勇者」として与えられたスペックはなかなか、を通り越してこの世界ではありとあらゆる生物を含めてトップクラスであるから、何がきたのかな~♪なんて鼻唄交じりの散歩である。
「ん?」
結界の境界ギリギリで割と大物な魔物が数匹一本の木の下を覗き込んでいた。よくわからんがとりあえず、
「そ~~い」
とびひざげりを入れてふっ飛ばしておいた。
顔を手で押さえてこちらを見ながら去っていく様子は
「手を出さないで様子を見ていただけなのに理不尽過ぎる~!」
とでも言っているようだった。
さてさて彼らは何を見ていたのかなっとっとっと!?
そこにいたのは一人の女性(髪が長い男でなければ)だった。
山に入り込んだ平民のように見えなくもないが、服の生地は割と上質そうだった。これは町にお忍びで遊びに出た貴族、とかかもしれない。
面倒くさそうな予感が全力でする。
とは言え、このままここに放置しておけばまた魔物が近寄ってきてアラームが鳴る、というのも煩わしそうだ。仕方なくうつ伏せの女性(予定)をごろりとひっくり返して背中と膝裏に手を入れて持ち上げる。
いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
ちゃんと女の子でよかった、と思いつつ顔に目をやれば、
山歩きで薄汚れているが、顔立ちは整っている。
今は閉じている目を開けばきっとかわいいのではないか。
お忍びの最中で拉致された、とかだろうか。
ますます面倒ごとの予感しかしない。
幸いにも、彼女の呼吸は落ち着いていて、
特に怪我の様子も…枝で引っ?いたような小さいのが幾つか。
「これはサービスだ」
回復魔法を使うと、柔らかな光が周囲を覆い、傷跡も汚れもなくなる。
消毒の意味合いも兼ねて浄化の魔法もかけたためだ。
綺麗になった彼女は予想以上にきれいで思わずゴキュンと喉が鳴る。
俺も年頃の男だからさ…って文字通りお持ち帰りしてるんじゃね、これ?
いや、悪気はねーから!と誰にでもない言い訳をしつつ自宅へと帰るのであった。
幸いにもシーツは今朝洗って干していたので、ベッドのシーツを取り替えて件の女性を寝かせる。
あれ?単純に寝てるだけじゃないか?との疑いを抱いたが、確認しようと顔を近づけた瞬間に目を開けて
「きゃあ~へんた~い!」
なんていわれるに違いないのだ。
目を覚ました時に合わせて
「目を覚ましたか」
と登場するのが安定行動だろう。
そもそも読書の…研究の途中で放り出していったのだった。
さっき読んでいた本はどこにやったかなと部屋の中を見回して、
汚ねぇ
と呟く。不思議なことに今朝まではなんともなかった部屋が妙に意識された。
というわけで隠密スキルや消音の魔法を使って起こさないように、と贅沢な掃除が行われた。