決戦
お互いに手順を確認し、何度か実際に小さな物で実験もしました。そのせいで石でてきとうに作ったという狐の像が家の周りを取り囲むように配置され、ちょっと怖いです。
そしていよいよ今日、本番の日です。
近くに人が住んでいない開けた場所に巨大な円と、円の内側に接する二つの向きが逆の三角形、すなわち六芒星。そしてその隙間に細かく文字が描かれています。
「これはなんだ?」
メイオさんが夕熾さんに尋ねました。今日行うことがことだけにピリピリしているようです。
「シェアの魔法に意識を割くのも躊躇われるくらい、今日の儀式はきっつそうなんでな。魔方陣にしておいた。」
どうやら裏で準備を進めていたようです。
「六芒星の角の部分に座ってくれ」
そう言われて、一つの三角形の角に夕熾さん、メイオさん、私がそれぞれ場所につきます。
「よし、起動っと」
それだけで魔方陣は光を放ち、半球状に私達を包み込むのでした。
「シェアの魔法は6人が上限なのか?」
さすがは魔王と呼ばれただけのことはあり、魔法への興味は尽きないようです。
「いや、魔法的な上限はないな。ただ、人が増えたら頭の中で処理が大変になると思う。魔方陣での上限は6人だな。そろそろ行くぞ」
頭の中に太陽を中心とし、幾つもの星が描かれた宇宙の光景が広がります。
何度も実験を重ねて最も見やすいであろう視点。そこに金色の円状の線が走ります。
これは私たちの星が巡る航路。夕熾さんが私に、メイオさんに視線を向け、頷きを返すことで準備が整ったことを互いに確認しました。
昨日を終えて2時間が
過ぎた時間です。
夕熾さんの世界では“ウシミツドキ“といい草木も眠る時間らしいです。妙にきっかりしたことが好まれる世界のようなのに、面白い考え方だなと、妙に頭に残っています。
こんな時間を選んだのは、膨大な魔力を使うので、世界中に混乱が起きないようにというせめてもの配慮らしいです。草木も眠るんなら人も寝ているだろうということですね。
儀式、というのもあまり的確ではないような気がしますが、実際の作業にかかった時間は本のわずかでした。私たちにはとても長く感じられたものですが、ほんの数分だったでしょう。
光の航路に沿って球体がゆっくりと動きます。“半年前の星の位置“をサブ条件に反映させたものです。
私の仕事はこの状態を保つこと。
メイオさんと夕熾さんはさらに頷きあってタイミングを図り、太陽を挟んだ反対側、私のサブ条件が示す位置にポンっと表れました。全然わかりませんが、今私たちの足元は半分になったらしいです。瞬時に魔法で補われたので感じる間もありませんでしたが。
「軸の傾き、時点速度、公転速度は?」
切羽詰まった声で声がかけられます。
「誤差億分の一以下。公道のズレも同様」
私は自分のするべきことに集中しながら、二人の緊張をはらんだ声をひたすら耳にしていました。
「今日のところはここまでにしよう。魔物達の転送はまた今度でいい。一応様子も見たいしな」
私たちは鼻や耳から血を流していました。自分がそんな状態だとは気付かず、私が夕熾さんを夕熾さんがメイオさんをメイオさんが私を指差して
「「「大丈夫!?」」」
と声を併せて言ったのだから、そんな状態も気にせず笑い出してしまいました。
誰からということもなくその場で四肢をほうり出して空を見上げました。
静かに星空を見上げ、見ることはかなわなくももう一つの星を思いました。多分二人もそうだったんじゃないかと思います。
太陽の反対側にあるため見ることは出来ないというのが少々惜しいです。