魔王より魔王な勇者
「いいだろう、聞くだけ聞いてやる。とりあえず話してみろ」
そう言って先々代の勇者様はどっかと地面に座り込み手を組んだ。
「おう、ありがとな。まず、だ魔物と呼ばれる生き物が大気中に漂う魔素を吸収する核を持った動物、という仮定はあっているか?」
夕熾様は唐突にそう言い出しました。
「……お前の話を聞くと言ったのだ私は。まずは話せ。」
えっと、私のことも考慮してほしいのだけれど。
「ああ、そうだな。この魔素と呼ばれる存在は本来現実にというか、物質的に影響を及ぼすことはない。どういうわけか我々に接触すると、体内にとりこまれ、物質を強化し、その際に排出されるのが魔力だ。生物が酸素を取り込みエネルギーを生み出し二酸化炭素を排出するようなものだな。若干脱線するが、魔法を使うと言うことはこの魔力が大気中に霧散しないように身の回りに留め、行使の際に必要な分だけ変換するということだ。」
夕熾様がいうことはさっぱりわからなくなってきました。
「核というのはこの魔素の取り込み効率を格段に向上させるものだと俺は思っているが、その結果として身体が以上に強化され、固体によっては膨大な魔力を行使可能なモノ、それがすなわち魔物そして魔族こと魔人族だ。はっきりいってしまえばだ、核を取り込んだ時点で生物の枠組み自体が異なってしまっている。共存は難しい。なのでもう一つ星を作る」
はぁっ?星ぃ?星って夜に輝いているちっさいやつですよね?
あれを作る?
「具体的にいえば、この星自体を0.02mmずつで分割し、この星のの軌道上、太陽を挟んで反対側に転送。それぞれをA、Bとするなら、AとBをそれぞれ複製し、A’、B’とAとB’、BとA'を統合することで二つの星を生成する。そして核を持つ存在をもう一つの星に遷移させる。大まかにいえばこんなところだ」
「気になっているところがある。まず、普通に星自体を複製してしまう方が単純で無駄がないのではないかということだ」
「実験してみたところだが、複製といっているが、単純にひとつのものを二つにするのは困難だった。それが星サイズになればちょっとふり幅がでか過ぎるんだ。だから核となるものを据えて残りを魔力で補足するほうが負担がすくないからだ」
「なるほどな。それについては分かった。なら私がこの計画に参与するメリットはなんだ?」
「俺の魔法を使うことで計画を進めるには魔力が足りない。書物によると平均の魔力を100とすると俺は3万ほど。そして魔王さんは530000だ。…俺の世界じゃちょっと特別な数字だな。まぁいいとしてこの星の軌道を読んだりするのにお姫さんの力が必要になる。まず俺の魔法で3人の加護や魔力を共有して使えるようにする、そういう魔法を創る。それがあれば魔王さんの生まれた世界を探す役に立つと思う。その練習としてこの計画に加わらないか?」
「いっておくが、この星?という規模で失敗したら魔物の被害なんぞ比べ物にならんほどの影響が…を通り越して全滅すらしかねないぞ?」
「その気はねーよ」
え?え?え?全然分からなかったんですけどそんな大事になってるんです?
「見ろよ、お姫様の表情真っ青になってるぞ。あれが普通の反応だ。お前、私よりよっぽど魔王に向いてるんじゃないか?」