勇者
「そうだろう?先々代勇者の魔王さん?」
魔王が、元、勇者?
「よもや、私の名前すら知っているとはな。多少発音がおかしいが。恐らく王家では私の名前を禁忌扱いし、情報を統制したはずだが。」
確かにそうです。
11代目の勇者様は歴代最高の早さで当時の魔王を倒しておきながら
魔王の血を浴びて暴走、王家に被害をもたらしたとのみ伝えられ、勇者様がそんなことになったなどと発表するわけにもいかず、禁忌扱いされているのです。
その勇者が、魔王・・・!
ってその前におかしなこと言ってませんでしたか?
「改めて名乗ろう、猫=五海(メイオ=ウーシャン)である。魔王などとは勝手に呼ばれているだけで、自分で名乗ってはいないがな。」
ああ、そういうことですか。
そう言えば私のこともお姫さんとしか呼んでませんもんね。
「だが、なぜ私の名を知っている?偽った名前ならともかく本当の名前など当時の王族にすら名乗ったことはないはずだ。」
「当時、あんたには王家のすべてが敵に思えただろうな。だが、魔王さん、あんたのことを案じていたものもいたんだ」
「馬鹿な、そんな輩など・・・」
「当時、魔王さんがこの世界のことを知るために通っていた王家の書庫の責任者リブロー・アルファラデの名前に覚えはあるかい」
その名前は予想以上に魔王に影響を与えたようでした。
「ああ!彼女は、彼女はどうなったんだ。何か知っているなら教えてくれ」
「彼女は、魔王に毒されたと公的に認定した王家を批判し、投獄された。出所してからは出家して修道院に入ったらしい。毎日熱心に祈りを捧げていたということだ。何に、かは分からないけどな。あんたは彼女にだけは心を開いていたようだな。禁書の部屋に自ら隠し場所を作って手記を残していた。これのおかげで俺は助かったよ」
そう言って夕熾様が手記を渡す。
「馬鹿だな・・・私のことなど放っておけば良かったのに。だが、これを読んでも尚、王家に尽くそうとするのはなぜだ?奴らは送還のことなど知りもしないのだぞ」
夕熾様は懐から何か取り出しました。
それは丁寧に丸められた紙のようで・・・私の書き写した夕熾様の原稿!
それを魔お・・・先先代勇者様に手渡しながら言ったのです。
「なぁ、よくわからないが、魔王さんの時も国民に向けてアピール、みたいのはやったのかい?」
「ああ、そうだな。そんなこともあったかも知れぬ。ずいぶん前のこと故曖昧にしか覚えておらぬが」
「それは俺のスピーチの内容だ」
「こ、これは!ふははは。そうかそうか、くくくくく、これを言ったかって・・・ちょっと待てよ、この内容お前、私とあまりにも似た境遇だったのだな?」
「そういや言ってなかったな。俺の名前は夕熾=矢狭間だ。それはお前の境遇だ。俺自身はただの学生だったからな。まぁ歴代勇者のことなら嘘にはならないだろうと思ってな」
「なっ!リブローめ、そんな私的なことまで書き残しておったのか馬鹿ものめ・・・」
そう言って俯いた先先代・・・メイオさんは俯いてしまいました。
思うところがあったのでしょう。
「そんなわけでだな。俺も王族のことを信じてるってわけじゃないんだ。ただ、その後に自分の足で俺の居場所を探し出し、直接謝りに来た彼女を信じてるってだけさ」
「ふむ、ならばそこまではよかろう。ならば何故私を召還したのだ?私とてそうそう暇ではないのだぞ」
少し恨めしげにこちらを睨むメイオさんは先ほどまでの険が無くなってちょっとかわいいです。あ、睨まれましたごめんなさい。
「ああ、一番詳しいであろう魔王さんに聞きたいことがあってな。っていうか、帰還方法を探しているんだろう?そして行詰まってるんじゃないか?」
「・・・そうだ。転移する魔法なら開発した。だが次元、いや世界を越えた元の世界を特定する方法がない。」
「それに協力できるかもしれんぞ」
「なんだと!それは本当か!?」
「異世界の俺を勇者として特定したのが彼女の加護だ。」
「違います!条件にあったのが夕熾様というだけで、夕熾様事態を特定したわけではないのです。」
「まぁ、そういうわけだ。確実に助けてやれるってわけじゃない。でも少しはできることの幅が広がるだろ?」
そう言うとメイオさんは眉間に皺を寄せて悩み始めました。
ああ、皺が・・・眉間に皺が寄っちゃいますよう。
「ちなみに貴様は何ができるのだ?」
「俺か、俺はあらゆる魔法に適正があるらしいぞ」
「馬鹿な!いかに六属性に適正があろうと私の魔法を打ち消したり吸収したりなどできるものか!」
「あ、吸収とかバレてたんだな。さすがは魔王さんってか。」
「ふざけるな!」
「ふざけてなんかいないさ。俺の加護は”あらゆる魔法の適正がある”、この一点に変わりはない、変わりないが、解釈にはいろいろある。」
私と魔王さんが揃って首を傾げ、魔王さんは何か閃いたのか、
「まさか!私の使う魔法すらも”あらゆる魔法”の内に入るというのか!?」
「いいとこ突くね!大抵のやつらはさっきみたいに”あらゆる=六属性”と捉えるんじゃいかな。そして一歩進んだ輩は”あらゆる=過去存在した魔法”と拡大解釈する。そして応用力があれば他人の魔法も枠の内に入れてしまう。」
ちょっとだけメイオさんが自慢気どや顔です、かわいい。
それにしても落ち着いてくるとちょっと下半身が気持ち悪いです。
「んでだ、俺は考えたわけだ。俺が作ろうとする魔法も”あらゆる”の内に入るんじゃないかってな」
「「は?」」