魔王 2
昨日中に帰れず、更新が遅れました。
炎、氷、風、土、光、闇。
この世界で魔法と呼ばれているものを分類した6つの属性と、
それ以外の無属性。
7つの塊が私たち、いや私へと放たれる。
純度の高い魔法は美しかった。
炎は、夕焼けより緋く澄み、世界を染め。
氷は一切の白を含まぬ水晶のよう。
風は、森を駆け抜けたように碧を散らし。
土はあらゆる宝石を詰め込んだ杭となり。
光は収束されてまばゆく辺りを照らし。
闇は一切の色を含まぬ漆黒でその中心が歪んでいる。
そして、色を持たぬ純粋なエネルギーの塊を変換せずに圧縮して飛ばす無属性。
7つの過剰な死の塊を目前にして、これまでの人生を垣間見るというやつでしょうか。
”綺麗”だとやけにゆっくりと迫る破壊の象徴を見ていたのでした。
しかし、それは私の前で急に消滅しました。
割り込んできた夕熾様の背中が私の視界を防ぎ、そして魔法自体もかき消してしまったからです。
私はその場で膝をついてしまいました。
一つ一つが、一城を吹き飛ばせるようなロスト・マジック(失われた禁呪)を躊躇いなく私へと向けてきた、これが・・・魔王。
ガチガチと歯が鳴り、下腹部がなま暖かく気持ち悪くなっているのも
最早恥ずかしいとか思う余裕もないほどの圧倒的・根元的な恐怖に、体を抱くようにして俯き座り込む私。
「悪いがお姫さんをやろうってんなら、まず俺を倒すしかないぜ?」
自分の魔法がかき消えたことへの驚きを消しながら、
「流石は勇者というわけか。なるほどそれだけのことはある。お前はこちらの事情に巻き込まれただけの被害者だ。恨みはない。だが、これ以上私の邪魔をするようなら、そこの王家の娘ともども死んでもらうしかない」
「おいおい、さっきの結果を見ただろう?そんなことはできる奴が言うもんだ」
「・・・確かにセブン・ペインをああも簡単に打ち消されたのには驚いたが一応あれは片手間に撃てる魔法だ。冷静になってみれば、ここには結界を張って内側は異空間になっているな。魔王を召還とはとんだ怠け者だと思ったものが、意外と手間をかけている。確かに結界の外には影響は出まい、が普段なら星ごと壊してしまうが故に自重している魔法もここでなら遠慮はいらないからな」
あんな魔法が片手間に撃てる?
こんなの勝てるわけがない!
チラリと夕熾様に目をやれば、何かに驚いていた。
彼にとってもそれは意外だったのだろうか。
「悪いな。守らない約束は最初からしないスタイルなんだ。」
「そうか、残念だ。
”天蓋崩し(ワールド・エンド)”
」
魔王の発言は嘘やハッタリではなかった。
私たちの周囲が一瞬にして夜に・・・を通り越して闇へと染まる。
輝いているのはただ円冠の月だけ。
それも闇が浸食していき、一切の輝きが失われたとき、
世界を覆う闇諸ともに世界そのものがパラパラと崩れて行く。
”存在”事態を滅ぼす魔法---。
「対抗魔法、
”天地開闢”
」
全ての世界の欠片が崩れさり、”終わる”瞬間に割り込んだ声に
世界が色を取り戻していった。
私が息の仕方を思い出したように、ようやく自分が生きていることを感じ取ることができた。
「馬鹿な!これは私の編み出した魔法だ。存在すら知られていない魔法の対抗魔法だと!?貴様、なにをした!?」
一方で驚愕しているのは魔王。
「あんたの魔法はすげぇよ、予想以上だ。まさか打ち消すので精一杯とは。実際俺も存在が消えかけてた」
「セブン・ペインとは違う。これは打ち消すことなどできるはずのない魔法だ。貴様は一体何者だっ?」
「あんたと同じ、魔導寄りの勇者さ」
私は思わず顔を上げた。