魔王
そしていよいよその日がやってきたのです。
「お姫さん、姫さんの加護で俺より魔力量が多い存在を検索してみてくれないか?」
恐る恐る夕熾様の言うことを実行します。
「痛っ。条件を満たす方は世界中で4人です」
「結構いるんだな。俺の魔力量の2倍以上の存在は?」
「該当者は1人です」
「俺の魔力量の4倍以上の存在は?」
「該当者は1人です」
「6倍以上は?」
「同じです」
流石に夕熾様も想定外だったようです。
思えば夕熾様がここまで驚いたところを見るのは初めてのような気がすします。
「ちなみに15倍以上は?」
「該当者ありません」
ふぅ、とため息をつくのが聞こえました。
「まぁ、ちょっと予想以上だったけど、なんとかなる範囲かな。よし、いくぞ」
その声と同時に夕熾様から膨大な魔力が放たれます。
本来純粋なエネルギーである魔力は、実体に影響を与えないはずですが、私は魔力の波に押されて少しでも気を抜いたら尻餅をつきそうになるのをこらえるので精一杯desita。
数秒をおいて、魔力が静まっていきます。
失敗したのでしょうか?
がっかりするはずの心にホッとしたところがあるのはおかしいのでしょうか。
いえ、違います。魔力が一点に向かい凝縮されているのでした。
夕熾様が集中を解いたら、解放された魔力でこのあたりが更地になってしまうのではないでしょうか。
そして、極限にまで高められた魔力が一瞬、深紅に輝くと、
魔力は宙に複雑な幾何学模様を描き、曲線が直線が乱れ、魔力が火花なり、光と爆音になり、辺りを満たす。
そして、光が静まり、静寂が再び訪れる。
---失敗したのか。
度々そう思ってしまうのは申し訳なくも、今回の試みが無謀だと思ってしまっているからか。
しかし、幾何学模様・・・魔法陣が現れる前とは異なる光景があった。
魔法陣の中心があった所に一人の人影があったことだ。
「・・・ここは、どこ?これは夢?私は確か、研究の途中で机で寝てしまったはず・・・」
それは女性であった。
不健康なまでに痩せた身体と病的なまでに、青白い肌。
元々の顔は整っていたのかもしれない、その面影は残っているが、
現状は吸血鬼と言われればそうかもしれないと思ってしまうだろう。
そして女性はこちらに気づき、険しい表情でこちらを睨む。
その視線が夕熾様に刺さり、次いで私に向けられた瞬間、
”険しい”から”鬼気迫る”を通り越し、
「また私から奪うのか?王族の人でなし共が!」
先ほどの夕熾様ほどではないと思うが、
私を亡き者にするには十分すぎる魔力量を感じた。
悲鳴を上げる間もなく、なんとかできたのはまぶたを閉じることだけだった。
「貴様が今回の勇者か。なぜ私の邪魔をする?王族にたぶらかされたか?そやつらは貴様を利用しようとしているだけだ。元の世界への帰り方など知りもせん。おまえはだまされているだけだぞ」
そんな苛立ちを隠さない声が聞こえてきて・・・って私はまだ生きてた。
やわやわと瞼をあげれば私の前に夕熾様が立ち、
片手を魔王に向けてあげている。
「そこを退け!貴様に恨みはないが、邪魔立てするならばそこの女共々消し去るぞっ!」
恐らくその言葉に偽りはないのでしょう。
周辺の空気にヒリヒリと感じる殺気が混じっています。
「勇者だから魔王に負けるはずがないとでも思っているのならばそんなことは本の中にしかないことを身を持って知ることになるぞ。これが最後の宣告だ、そこをどけ!」
夕熾様は私の前から動かず、魔王から6つの致命的な魔法が放たれた。