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 タイトルからして、何かメルヘンチックな童話のような物語でも始まると思われた方もいるかもしれない。しかし、全くもってそんな話ではないのである。


 幼い頃に不思議な体験をしたことが、誰でも一回くらいはあるのではないだろうか。そういう僕もそうした体験の一つや二つくらいは持っている。

 五歳くらいの頃、ウルトラマンを見たことがある。勿論、テレビ画面の中のそれではない。何かのイベントショーで見たわけでもない。家の中で「本物」を見たのだ。勿論、それは両親にテレビ関係者の知人がいて、そのコネでウルトラマンを演じた役者がウルトラマンの格好をして家に来てくれた、といった類のエピソードでもない。僕が見たのはウルトラマンそのものであり「本物」である。ここでの「本物」の意味は、例えば「本物のサンタクロース」における「本物」と同じ意味での「本物」である。何だか余計にややこしくなったかもしれない。当時僕はサンタクロースと同様に、ウルトラマンも、テレビドラマのフィクションとしてではなく、実在するものと信じていたのだ。僕はその実在するであろう「本物」を見たのだ。あるとき、夜中に目が覚め、ベランダの窓を眺めると、窓の外にウルトラマンが神々しく光輝きながら立っていたのである。確かにそういう記憶があるのだ。


 記憶というものは往々にして当てにならないそうだ。人は何かを思い出すとき、脳に貯蔵された情報から、必要な情報を取り出し、再構成するのだという。その際に、しばしば実際の事実とは異なった内容で、記憶が書き換えられるという。

 確かにそれは実体験からも納得できる。例えば、十数年前に録画したTV番組の映像を久しぶりに見たとき、ある場面が自分の記憶していた内容とは微妙に異なっていた、ということがあった。おそらく、その場面の記憶は何年もの月日が経つ間に、いつの間にか異なった内容に書き換えられていたということなのだろう。意外とこういうことはよくあるように思う。

 これは個人差もあるのかもしれない。人によっては比較的元の情報に近い形で記憶が書き換えられていく場合もあるのかもしれない。僕の場合は、どちらかというと、記憶が元の情報とは違った内容に書き換えられていく傾向が多少強いようにも思われる。そのことを考慮すると、僕のウルトラマンの目撃談は全くもって当てにならない。ウルトラマンはもしかしたら夢の記憶だったのかもしれない。それが、長い月日の間に、実際に見たという記憶として書き換えられたのかもしれない。だが、もしかしたら、本当に現でそのような光景を目撃したという可能性もある。さすがに僕でも、幼い頃の記憶といえども、夢と現の記憶はそう混同しないようにも思える。だとすれば、あの光景は何であったのだろうか。おそらく、あれは幻覚に近いものだったのだと思われる。当時、僕は夜の闇が恐ろしくて仕方なく、夜中に目が覚めてしまうと、もうその恐怖たるや尋常ではなかったのだ。あのウルトラマンは、その恐怖から逃れたい願望が作りだした一種の幻だったのだろうと思われる。それが本当に真相だったかどうかは別として、少なくともそう解釈をすれば合点がいく。そして、この解釈は、人間は恐怖といった極限の心理状況の中でしばしば幻を見ることがあるという、人間の心的現象に関するちょっとした知識と経験を持つことで、もたらされたものなのだろう。


 幼い頃というのは、まだ認識能力や理解能力などの知的機能が未分化なところがあり、十分に理解しきれない現象や出来事は、しばしば神秘的な体験として記憶に残るようである。そして、月日が流れて大人になり、様々な現象の科学的メカニズム、物事の道理、人間の心理パターンなどが多少把握できるようになってくると、しばしば、あれはそういうことだったのかと、ようやく謎が解ける思いに至ったりする。これは人類が歴史的に辿ってきたプロセスでもあるのかもしれない。


 前置きが少し長くなったが、これから語るのはそういった類の話である。幼い頃の理解できなかった不思議な体験の謎が解けた時というのは、目の前が開けたような気持ちになったり、納得して気持ちが落ち着いたり、あるいは、夢がぶち壊されてがっかりしたりすることもあるかもしれない。この話はどちらかといえばがっかりする部類の話だろう。


 予め断っておくが、大した話ではない。全くもって大した話ではない。

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