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お屋敷の手帳

作者: 夕月シン

どこにでもある西洋館---大神館の使用人室にて。


「雨村さん。手帳の謎、聞かせてくださいよ」

 大神館の使用人である国崎千尋が、同じく大神館の使用人である雨村アキトに訪ねてきた。

「手帳の謎って…あの十一月にあったあの事件のこと?」

 雨村は、休憩室の中にある黒いソファーに座りながら、ミルク多めのコーヒーを飲んでいた。彼の口にはミルクの濃厚な甘さと、コーヒーの味が広がり、彼独特のブレンドのカフェオレを楽しんでいた。

 国崎は、雨村の隣に座り込む。

「先輩から聞きました。あの事件を確か先輩が解決したんですよね? 手帳がどうとかっていう、あの」

「ああ、アレでしょ? 解決なんて大袈裟だよ。僕は巻き込まれただけなんだけと」

「ホントですかー? 奥様も言ってましたよ? あの事は雨村さんには大いに助かったって」

国崎はニヤニヤしながら雨村に聞く。

「奥様も大袈裟だね。大体ね、あれは奥様がメインだったんだよ。僕は只のオマケ。脇役だ」

「あれ? 何だか奥様がおっしゃていた話とは違いますけど…」

「それで。確か手帳の謎に関してじゃなかったっけ?」

「あーハイハイそうです。今日は休憩時間は少し長いんで折角なので聞かせてもらおうかと」

「面倒くさいなぁ。しかも聞く理由が『折角なので』だとか」

 雨村はコーヒーをずるずると飲み、近くにコトンと置く。

「まあいいよ。僕もヒマだし。話してあげる」

「ありがとうございます! 」

「ただし、普通には話さない。折角だし、僕の話の最初の部分を聞いて、国崎さんが『手帳とはなにか。どこにあったのか』をあててみない?」

「えっと、ミステリーですか?」

それを聞いて雨村は少し笑った。

「ミステリーだなんて! とんでもない。これは、」

一間。

「ただの、なぞなぞだよ」


        ○―○―○


 あれはある日、この大神館の主人である大神大悟様がいきなり呼びつけたんだよ。仕事室に。その時言われた命令はこうさ。「雨村! 手帳が無いぞ、探して来い!」と。

最初それ聞いた途端ネガティヴ思考がドバッとあふれ出てきたよ。多分これが小説なら(略)になるとおもうけど。確かなんでこんな頭がハ…え? 何? それはいい? ゴメンゴメン。

 じゃ続けるけど、流石に仕事をしなきゃいけないと思って。ネガティブ思考をやめて頭を切り替えたよ。確かその時思ってたのは、旦那様が言っていた手帳についてさ。ここなら普段使う携帯電話とかそれぐらいのサイズを思い浮かべるけどさ。僕が思い浮かべたのはお館様が最近記録とかそいうのをしたりせず、ただ見つめているだけの黒い手帳をね。

 そう一人で物事を考えているとさ、聞いているのかと怒られて、あとは色々と言われたね。もし発見しても見るなとか。あと特徴とかね。その特徴は、色は黒、背表紙に『I.D』と白で書いてある。メーカーロゴがSmart Blackとある黒いペンがついたもの。それらを聞かされてから探しにいったよ。


        ○―○―○


「はー。そんな感じの始まりだったんですね。しかも自分の上司をそう思っていたとは」

「内緒にしといてっ」

「昼飯おごれば」

「チッ」


        ○―○―○


 相槌をうったところで話を続けるね。さっき探して来いと言われて出ようとしたんだけど、あの後もう一回止められて。最後に昨日の行動を聞かされたよ。

『確か昨日は、私室でくつろいでいたな。仕事も特にないもんで。その時手帳を読んでいた。その後調べ物を思い出して書斎に行ったな。ある程度調べた後、そして、そう  腹が減ったんだ。少し何かたべたくなってな。一階の厨房に行ってウチの料理人になんか軽く作ってもらった。その時手帳のことでも忘れてたんだろう。あとはまっすぐ私室に帰ってくつろいでいたぞ。昨日の行動はそれぐらいだ。一応言うが、私室探すときは机の中は探すなよ。この仕事部屋に来る前に私が探した』

 以上が、旦那様の言っていたことかな。帰るときには「あの事もあるというのに」という呟きぐらいだね。


        ○―○―○


「ええと、話を聞く限りでは」

「うん。旦那様は昨日、私室・書斎・厨房の三室に行ったことになるね」

「わかりやすくありがとうございます。あと廊下か階段ですね。そこに落ちたという可能性も」

「それはない」

「えっ。どうして」

「君も掃除好きの神埼さんの噂は聞いたことあるでしょ。旦那様のお気に入りの。あの人異常なほど掃除好きだから。一言で掃除魔。あの人お館様が手帳を落としたらしい日にも掃除したらしくてね。どちらにも手帳は落ちていないと言っていたよ。一応メモ帳の類は落ちていないかどうか聞いたけど。それもないと言われたね」

「あらら」

「一応言うけど、実は他の場所にも行っているというのもないよ。お館様は記憶力は凄くいいから」

「記憶力がいいだけで行っていないのがわかるんですか?」

「自分の大事なものを探してもらうのに行ってない場所言う必要ある? ましてや記憶力がいいあの旦那様が」


        ○―○―○


 とりあえず。僕が最初に探した私室について話そうか。

確かお館様の資質は君も掃除したことがあると思うけど、一応言うね。

 部屋の仕様はこうだよ。部屋のテーマは洋館内にある宿泊部屋。部屋の形は正方形。

 部屋の中のインテリアは、出入り口のドアを北とする。中央には西側寄りの高級な黒ソファー、ドアのすぐ近くには数々の美術品。ヨーロッパの各地で取り寄せたものだという。左手に槍を挙げ、右手に白い本を胸に寄せた、真っ白な石像。アンティークな模様が描かれている青い大壺。そこが深いタイプであり、覗き込んだだけでは底が見えない。そして立派な額縁で飾られた紅いドレスを着た女性の絵。壁に掛けるタイプであり、縁事態も中々のアンティークな模様だ。部屋の南側には本棚が三棹ある。西側には高級でフワフワしていそうなベッド。東には黒い机。上にはいくつかの書類と羽ペン、手元をわかりやすくする為のスタンドライトと小型テレビ。椅子に座ると右手側に棚が三段ある。部屋の大きさは言ってないけどそこは気にせず。

        ○―○―○

「ちょっと待ったあああああ!」

「え、何?」

「多すぎですよ! 確かにお館様の部屋は掃除したことありますけど、一・二回で覚えているはずがありません!」

「知らない。念のため録音しているからさ。しかもゆっくり喋って。あとで図にでもまとめるように」

「えーーー!」


        ○―○―○


 私室での行動はこう。机の下をまず探したらすもーとぶれいくと読める黒い手帳が二冊あったね。言っとくけどこれじゃないよ。ペンがついてなかったからね。他の特徴とも一致しなかったし。でも何かが剥がれていたけど。

 その後も色々と探したよ。

 ソファーの下の探索やベッドの下、さらには本棚の下も探したけど、手帳はない。

 あるゆる床下を探しても手帳はない。

 本棚のどこかに入っているのかも考え、本を一冊一冊抜き出し、挟まっている可能性があると考えパラパラと本をめくったりもしたが、ヘソクリである諭吉が合計で四、五枚出てくるぐらいだった。

 ベッドを徹底的に探しても、ない。

 最終的にはアンティーク品にも手をだして探してみたけど、手帳とおぼしきものはない。

 どのように探したかというと、壺はひっくりかえして振ってみたり棒を入れてまさぐってみたり。

 それでもなにもない。壁にかけられた絵を外して裏側も見ても、手帳はない。

 絵のどこかが盛り上がっているわけでもないので、絵の裏にはない。

 額縁自体の中にあるかと思い、調べてみてもそれはなかった。第一それだともはや旦那様が僕に対して探し物ゲームをしていることになる。

 石像をある程度触って調べても、隠しスペース的なものはなかった。

 そして、石像が持つ本を調べた。接着剤で止められているものとかではないので、案外あっさりと取ることができた。本の中を読んでみたけど、中の内容は英文だったよ。全文も覚えていないから、特徴をさっとあげるね。Aという人物が複数の女性に対して会っていた。それぞれの女性の名前には影付きと括弧つきでわかりやすく示していた。ほとんどがスリンキングキャットという単語があったね。あと金のことも書いてあった。そしてメアリーに関するページの最後があたりが切れていた。eviの部分を残して。他にもページがとれていた感じがした。

 僕は徹底的に探したよ。多分国崎さんも僕と同じぐらい、必死に探すんじゃないかな。


        ○―○―○


「あのお、またもや情報量が多いんですが」

「私室の様子を図に書いて、さっき僕が調べて手帳がない場所にバツでもなんでも印づけすればいいんじゃない?」

「はあい。そうしまぁす。一応ききますけど」

「手抜きしていた場所はあったのか、以外の質問で」

「…質問はやめにします」

「やっぱり」

「次は書斎ですけど、さっきの私室よりかは確か広かったはずです。またもや情報量多めですか?」

「いや、次は少ないほうだよ」


        ○―○―○


 次に、僕は書斎を訪れた。部屋の形は横に少し長い長方形。どこにどの棚が並んでいるかはこの際関係ないから省略。ただ一つを除いて。

 出入り口は南東にあるとイメージ。長方形の右下の角だね。入ってすぐの右手に管理人用のスペースでもあるカウンターがある。この場所は広くてねー。僕たちの間でも掃除したくない場所№1と噂している場所でさ。僕はあの部屋の掃除担当になって掃除した後、あのハゲブッコロスと思ったもんさ。


        ○―○―○


「昼飯おごりその二」

「チィィ」


        ○―○―○


 書斎の探索は特に苦労しなかった。管理人の神田さんに聞いたからね。手帳を持った旦那様は来てた? と。まずこれを聞いてから手帳を探そうとしたよ。順番は特に気にしなかったからね。 これはビンゴだった。旦那様は神田さんがカウンターにいる間来てたと。一応手帳は落ちていないかと聞いたけど、あっさり「皆無」と言われたね。

 あとはこう言ってたね。カウンターの目の前の英語辞書を取ってさっさと出て行ったと。それ以外の本棚とかには行っていないと。ここにはないと確信したね。

…一応言うけど、神田さんが実は耳が悪いとか頭が悪いとか勘が鈍いとかそういうことはないよ。

 むしろ「書斎のスーパーウーマン」とかどこのアメコミヒーローの名だよとツッコミたくなるような、そんなあだ名さえつけられている人だからね。


        ○―○―○


「へぇ…」

「これが、ぼくの書斎における行動だよ」

「言う必要あったんですか?」

「必要だから言ったんだけどね」

「えー。何そ…なんですかソレ」

「ハイーアウトー。何それ言おうとしたー」

「奢りの恨みですか?」

「さぁ。とりあえず、追加説明。この後、他に旦那様が来たのはいつなのか聞いたけどこれまた「皆無」と一蹴。他に来たのは神埼さんだけだって」

「神埼さんが?」

「うん。なんか茶色の分厚い本を持ってきていたとかいってたなぁ」

「…」


        ○―○―○


 最後には厨房に探しにいったよ。

 厨房の正式な説明とか知らないから、先程の旦那様の私室のような説明をさせてもらうね。

 形は横長方形をイメージ。出入口を北東とし、南側壁一面にはコンロやシンク等があるいわゆる食品調理台。北側には皿洗いや野菜洗い用の洗面台及びガスコンロがいくつか並び、西側面には冷蔵庫とかあったなぁ。まぁ説明はこれぐらいで。ここの特徴はそれぐらいだから。

 もし僕が何らかのきっかけでこの屋敷内を案内することになったなら、きっと今の厨房の説明で非難轟々だっただろう。でも大体の特徴を捉えてるのでよしということで。え? わかったから早く続きを? あーわかった、うん。

…厨房に入ってすぐ、僕は真っ先に聞いたよ。料理長の神威さんに。まずは事情を話してから。そして手帳は落ちていないかって。

 そしたらこう答えたよ。『旦那様は来た。けど手帳は知らない。神埼さんがさっき来たけどあなたと同じようなこと言ってたわね』って。この事からこの人は手帳を見てないと推測されるから僕は最初手帳を懐にでも入れているかと考えたよ。でもここで落ちた可能性もあるからね。探したよ。

 神威さん、厨房の床をなかなか掃除しないから。床を徹底的に探したね。けど、なかった。

 これはおかしい。そう思って神威さんの話を詳しく聞いたよ。

『昨日旦那様は確かに来たわよ。それは間違いない。なにか腹が減ったとか。そういうことを言って。仕方ないからサラダとかハムの盛り合わせとか。軽いおつまみでも作ったわ。そしたらワインも飲みたいと言って。そしたらもうそのあとは結局お館様の早い夕食になったわね。さっきのおつまみのようなものがどんどん欲しいといって。魚のさしみだけじゃなく寿司まで作ったわ。電子ジャーの中に米あってよかった。おかげで寿司を振る舞うことができたし。あとは洗面台から少しはみ出している細ながーい野菜とかにぶつかりながら、酔っぱらってでていたわね。あ、鍋の火を消さないと』

 以上のことを言ってたな。僕はこの時ある可能性が浮かんでヒヤッとしたけどそれはある人物によって完全になくなった。

 それは、奥様だよ。旦那様の。

 僕が神威さんと話を聞いていたらしく、『あの人の手帳を探しておられるのですか』と聞いて、はいその通りでございますと答えたら、この後ある事を答えたんだ。


        ○―○―○


「で、そのある事とは?」

「以上。僕の話はひとまず、終わりだよ」

「えっ? ひとまず? え?」

「うん。だってこれ以上言うともうアウトだからね。奥様が何をいったかは自分で考えて。それさえわかれば厨房の話はあっという間にわかる」

「いきなり言われてもわかりません! だいたい手帳はどこかの話なのになんで神埼さんが」

「国崎さん。この話はどこ、だけじゃなく手帳は何? も考える話なんだけど」

「え? 今の話でどうやって? というか他にも謎が多すぎますよ! なんで私室に」

「これは手帳の話だよ?」

「わかってます!」

「だとしたら、もちろんありとあらゆることは手帳に関係するよね?」

「そりゃあ…そうですけど。でも、ヒントの少しぐらいは。情報ばかりでなにもわかりません」

「ヒントねぇ、わかった。一つだけ言おう」

「教えてください! 何ですか!?」

 雨村は、一息吸って強めの発音で答える。

「だれも、一言たりとも嘘を言っていない」

「…え?」

「これがヒントだよ」

                   (出題編終了)

 真相編は近日必ず後悔…いや公開します。正直に言うと、ちゃんとした問題なのか不安です。

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