特異な普通
計算合ってないのは仕様です
「普通すぎるんですよ」
お姉さんの口から飛び出た珍しいの内容。
それに対して思わず声がでる。疑問を乗せて。
「はい?」
「ですから、お客様普通すぎるんですよ」
そんなこといわれても、普通の基準が分からない。
確かに平々凡々に生きてきたけれど…普通すぎるってなに?
「人間誰しも初めは1000魄を持って生まれ、必ず増減し、死亡時の魄残量が持っている魄となります」
「それはさっき聞きましたけど……」
「お客様も例に洩れず確かに増減はしてます。けれど……最初からは変動がないんです」
訳が分からなくなってきた。変動がない?増減はしているのに?
なにより私の持っている魄量は2000だとお姉さんがいったのではなかっただろうか。
首を捻った私にお姉さんが説明を追加する。
「つまりですね、100減ったら補うように100追加され、50追加されたら50減ってるんです」
「±0ってことですか?」
「はい。0.1すらズレずに千ピッタリなんです。どうです?普通過ぎるでしょう?」
「え?逆に可笑しいんじゃないですか?」
「まあ普通は増減しますからね。でも変動がないのは普通すぎる……そう思えませんか?」
「行き過ぎて逆にってことですか」
人間誰しも嘘を吐く。同じように良い事したら悪い事もする。
例外なんて赤子くらい。つまり誰だって魄量は変動する。
なのに変動なし。±0!
なにか善行をしたら、それを打ち消すような悪行をしたということか。器用に。
でも悪行って何をしたかと思い返しているところでお姉さんから声がかかる。
いけない。思考に沈み込んでいたらしい。
「悪行っていってもそんな対したことじゃないですよ。まあ、判定するそれぞれの世界担当の神様次第なんですけど……それも一々嘘を吐いたくらいで神様が判断してるわけじゃないんですけどね。まあつまり!何か大きな悪行を働いていないのに変動がないってことは、善行も特にはしてこなかったってことですね」
全く持ってその通り。だって、私って普通でしたから。
そこで先程浮かんだ疑問を解消するために質問を投げかける。
「さっき、私が持ってるのは2000魄だって言いましたよね」
「はい。その通りですが?」
お姉さんはにこりと笑みを一層深くして答えてくれた。
間違いというわけでもなさそうだ。だったらどういうことなんだろうか。
いい加減ずっと立っているのも案外辛いので入ってすぐに設置されているベンチに腰を下ろさせてもらった。
お姉さんは勤務中だといって正面に立ったままだ。
そういう分別はつけるんだと関心して、笑顔のまま見下ろされているようでちょっと恐いと思ったのは内緒だ。
どうせバレてるんだろうな。なんて思わなくもないけれど。
「どうして変動がないハズなのに、2000なんですか」
「あ、それはお客様の死因と年齢に関係しております」
死因と年齢……?そんなことも考慮しているのかと少し驚きつつまずは死因を振り返ろう。
そういえば、普通で平凡な人生を送ってきたと散々繰り返したが、最後だけは普通ではなかった。
私の中の普通の死因とは老衰だろうか。曖昧な定義だが、少なくとも何気に珍しいかもしれない。でも誰にでも降りかかりそうな事だ。
ハンマー使用後に思い出した事だが通り魔殺人。の、被害者。
状況は雨上がりで水溜りが出来た帰り道、私は定番の黒服を纏ったいかにも怪しげな男に刺された。そしてここにいる。
でもやはりぶつかった衝撃と腹部の熱しか思い出せないので恐怖なんて冷静に考えられる今も湧き上がらない。
そもそも既に死んでいるのだから恐怖も何もないのか。
そして年齢は十七歳。花の女子高生です。……そんなに楽しいわけでもなかったけど。
「まず殺人被害者ですので+500魄。更に未成年ボーナスで200魄となっております」
「ボーナス!?」
「未来を絶たれてしまったわけですからねー。殺人被害者の方も若いほど追加なんですよ」
「じゃあ、逆に私を殺した人は?」
「貴女だけではなく将来の夫、生まれてくる子供……その他大勢の人間の未来や命を間接的に奪ったことになりますから。大抵は地獄行きです」
若い人を殺すほど罪が重くなるのは現世でも同じだ。
こちらはより具体的に将来を、可能性を奪ったから……いや、現世もそこらへん考えているんだろうか?
「人間平等と言いますが、既に子供を立派に育て上げた女性と身篭っている女性……どちらを殺した方が罪が重いかと問われれば大体結果は分かるでしょう?そしてその子供の可能性等を考慮しますとこうなるんですね」
「連鎖的に、間接的に奪われた未来を、可能性を償え……ってことか」
以外にシビア。いや、思ったとおり?
本当に神様がいて、慈悲深くだれにでも平等だというのなら願いは全て届いているだろうから。
神を肯定しなくても、否定しても。善人でも悪人でも救っているだろうから。
そうじゃないということは、つまりそういうことだ。
「神様も案外不自由なんですよ?人間から脱却できても次は神様の理に縛られますから」
「ふうん……」
「……ツッコまないんですね」
「え?やっぱり意図的だったんですか?もう面倒だし無駄そうだからやめましたけど」
「まあやめる気はないんですけどね!さて、それではそろそろ買い物をいたしますか?」
「そうですね。説明も充分だし」
さて、レッツショッピング?
何が売ってるのか、あまり買い物に興味のない私ですら楽しみだ。