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崩壊した世界と新たな誓い

俺はシエラと共に、冒険者ギルドのギルド長室に戻った。オークションは大成功だった。異世界から持ち帰った品々は現実世界で驚くほどの価値を持ち、莫大な資金がアイテムボックスに眠っている。しかし、その安堵もつかの間、部屋には見知らぬ面々が待ち構えていた。


「お帰りなさいませ、勇者様」


声を揃えてそう言ったのは、六人のギルド長たちだった。商人、職人、傭兵、魔道士、薬師──それぞれのギルドを統べる者たちが、種族も様々に集結している。長い耳を持つエルフ、筋骨隆々のドワーフ、優雅な角を生やした獣人。彼らは皆、私がかつて救った十の世界から女神達によって派遣されてきたという。


俺が室内に入ると、全員が整然と片膝をつき、頭を深く下げた。あの臣下の礼──どの世界でも共通の、最高の敬意を示す姿勢だ。


「私たちの故郷を、家族を、救ってくださった感謝は言葉に尽きません」と、白髪のエルフのギルド長が声を震わせて言った。


俺は覚えていない。助けた世界が多すぎて、どの者がどの世界の者か区別がつかない。だが、彼らの瞳に宿る感謝と忠誠は本物だった。


事情を聞くうちに、この世界の状況が俺の想像以上に深刻であることがわかった。俺たちが今いる「コロニー」は、かつての東京の一区画に過ぎない。日本国内には、こうした大規模のコロニーの他にも、小規模の避難地域が点在しているという。国土の多くが魔物が闊歩する領域となってしまっている。


国際社会も少なからず同じようで、日本はまだマシらしい。他の国では魔物による虐殺が発生しているらしい。


ダンジョンの出現によって社会は大きく変貌した。天皇陛下や政府は形としては存続しているが、実力主義が台頭し、秩序は緩やかに崩れつつあった。


「私たちがお願いしたいのは三つです」と、ドワーフの職人ギルド長が重々しく口を開いた。「第一に、コロニーの拡大。第二に、無法者の排除。第三に──あなたが世界最強の実力者として、東アジアの総合ギルドの発言権を国際社会で確立することです」


俺は思わずため息をついた。面倒なことばかりだ。だが、ふと我が家のことを考えた。私の故郷は東京ではない。あの穏やかな町も、今はダンジョンに飲み込まれているかもしれない。元の暮らしを取り戻すには、生活圏拡大は必須かもしれない。


「わかった」俺はそう言いつつも、少し間を置いてから続けた。


「ただし、一つだけ条件がある」


部屋の空気が張り詰めた。


「俺は誰の下にもつかない。日本政府でも、天皇陛下でもない。無論、国際社会にもだ。誰かの命令には従わない。もし無理強いするなら──」


私はゆっくりと目を上げ、一人ひとりの顔を見渡した。


「消えてもらう」


沈黙が流れた。しかし、彼らはうなずいた。理解を示すように、深く頭を下げた。


「では、政府への伝達は私たちが行います」とエルフのギルド長が言った。「貴方様には、思うように進んでいただければ結構です」


シエラが「ご両親のところへ行きましょう」と提案した。私たちはギルドを出て、街を歩き始めた。


道行く人々が、ギルド長たちを見るやいなや頭を下げる。有名な人物たちらしい。


「すごいもんだな」私は感心して呟いた。


すると、長命のエルフが微笑みながら言った。「地球よりもはるかに広い向こうの世界で、全ての種族の民から敬愛されていた貴方様には敵いませんよ」


ドワーフも大きくうなずいた。

「我々長命種がこれほど心から認める者は、貴方様以外…千年に一人も現れませんでした」


悪い気はしなかった。むしろ、少し照れくさいような気分だった。


いつの間にか、実家の雑貨屋の前に立っていた。今朝も見たけど。


中に入ると、両親が駆け寄ってきた。


「おかえり!」


今朝出かけたばかりなのに、なぜか懐かしい。母の温かな笑顔、父の少し困ったような表情──すべてが愛おしかった。


俺は経緯を説明し、ギルド長たちを店内に招き入れた。両親は最初、緊張していたが、彼らが丁寧に礼を述べる様子を見て次第に打ち解けていった。


「では、これで」シエラが一枚の証明書を取り出した。魔法が込められた御用達の証だ。盗まれず、消えず、永遠に輝き続ける。


彼女はそれをカウンターに貼り付け、ふわりと光る魔法をかけた。


「これで、この店はすべてのギルドの公認店舗となります」シエラが説明する。「品揃え、取引、保護──すべてにおいて最高の保証がつきます」


母は涙を浮かべ、父は何度も頭を下げた。


「お礼を言うなら、息子さんに言ってください」シエラはそう言うと、そっと店を後にする。「彼がすべてを持ち帰ってきたのですから」


ギルド長たちも次々と去っていった。最後にエルフのギルド長が振り返り、深々と一礼した。


「では、本日はこれで失礼致します」


店に二人きりになった時、俺は両親にオークションのことを話した。


「すごい金額になったよ。一生遊んで暮らせるくらいの」


両親は目を見開いた。


「でも」私は続けた。「この金は、僕たち三人のためだけに使う。誰かのためじゃない。僕たちが幸せに暮らすためだけに」


窓の外では、夕日が街をオレンジ色に染めていた。崩壊した世界の片隅で、小さな幸せが確かにここにある。


俺は思った。誰かのために戦うつもりはない…だが、この温もりを守るためなら──もう一度、剣を取ることも厭わない。


世界は変わった。でも、変わらないものもある。家族の絆、帰る場所、そして自分自身の意志。


「明日からどうする?」父が聞いた。


「まずは店を改装しよう」俺は笑った。


「立派な看板をつけて、まずはこのコロニーイチの店にするんだ!次は国内イチ!そしていずれは世界中から客が来るような店にしよう!」


母が嬉しそうに頷いた。


「それなら、お母さんが一番いい場所に手作りケーキを並べるわ」


その夜、俺たちは将来について話し合った


窓から見える月は、異世界のものより少し小さく、しかし優しい光を放っていた。


私は静かに誓った。


もう誰かの英雄ではない。ただ、この小さな幸せを守る者でありたい。


そして、もしもこの平穏を脅かす者が現れれば──たとえそれが世界そのものであっても、私は戦おう。


悠々自適な暮らし。それは、守るべきものがあるからこそ意味を持つ。


私はグラスを掲げた。


「新しい人生に、乾杯」


「乾杯!」


三つのグラスが触れ合い、澄んだ音を響かせた。


その音は、新たな始まりを告げる鐘のようだった。

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