"Technical - bre@k"
「こんなのが全部躰に入ったら、僕どうなっちゃうんだろう……」
早まっていく動悸と共に、僕は手にしたナイフの刀身を、上から下まで舐めるように潤んだ瞳で視回す
金属の冷たさと硬さが、グリップを握って居る筈の指にずっしりと伝わってくる
刃は、横から触れてさえ、指が切り落とされてしまいそうな程に鋭い
『きっと皮膚下に入ったが最後、僕自身の躰が求めて居るかのように、滑らかに中へと入っていくだろう』と僕は思った
もちろん、事実として僕の躰はこの暴力的で狂った刃に屈服させられるのを想像して、既に震え始めて居たが
眼を細めて、刃の先端を視る
鋸の様な逆刃構造が、刃全体に造形されて居る
躰内に入ったあと、引き抜く際にあらゆる肉や骨、神経に鉤爪のように引っ掛かり、内側をずたずたにする為だ
『レビュー』の日は、必ず泥酔する様に心掛けて居る
多くの場合、飲むのは市販されて居るウォッカ系炭酸飲料で、三本も飲むと前後不覚を併発する程に酩酊が始まる
僕の場合、この状態になっても意識自体はきちんとして居る
きちんとした『評価』を行う為に義務感が働いて居るのかも知れないが、理由はよく解って居ない
近頃は効きが悪くなりだして居るので、部屋の床には空缶が四つ転がって居る
適切な麻酔効果が得られなければ、生命を落とす事が予想されるので、備えは万全にしたかった
肌にそのまま着ていたセーターの腹部をめくると、ナイフを刺し込む
冷たい金属の異物感が、躰を奥の奥まで征服する
悦びの信号が脳髄の中で乱反射して、我慢しようと思って居た筈の声が、けして低くない音量で溢れ出してしまった
びちゃびちゃっ、とフローリングの床から液躰音がする
嬉し過ぎて出血が過度に発生したらしかった
酩酊のせいだろうか
愉しくて、僕は笑った
腹膜の内側でピンク色の肉が、僕が笑うたび、唇の様に太くて分厚いナイフを全力でしゃぶる
『自分はいま、無機物に奉仕を強要されて居るのだ』と思い込むと愉しくて、また紅い血がナイフの埋まっ場所から噴き出した
意図せず刃が背骨に当たった時、感じた事のない快楽が意識の中で爆発した
意識とは別の原動力で、「あ゛っ」と声が出る
背骨の神経を切先で小刻みに突くと、頭が痺れ始めた
その間も、びゅくびゅくとした出血は断続的に続いて居る
『これ以上すれば、半身不随になる』という感覚が漠然と存在したが、肉躰が快楽に抗う事が出来なかった
呻きながら、僕は人間ではなく単なる血袋になっていく
そしてある瞬間から急に部屋から音が消え、眼には何も視えなくなった




