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Bang!

作者: 西順

「喝っ!」


 座禅中に自分の横で同僚が警策と呼ばれる平たい棒で肩を叩かれ、何人かがそれに驚いてビクッとしている。


 僕たちがわざわざ禅寺に出向いて座禅をしているのも、修練の一端だ。と言っても僕たちは仏僧ではない。暗殺者だ。それもそこらの暗殺者もどきではなく、政府直轄の、しかも超能力を使った暗殺を生業としている。


 そんなものが存在するのか? と疑問に思う者もいるだろう。ならあなたにとってこの話は、自分には超能力があると思っている精神病患者による手記となる。そんな妄想に興味がなければ、ここで読むのを止めて、他に自分にとって有益だと思う事へシフトする事をお勧めするよ。しかし少しでも面白いと思って貰えたなら続きを読んでくれれば嬉しいかな。


 まあ、精神病患者かと問われれば、実際その通りなので、この話はここまで、と言われればその通りなのだが。だが実際に超能力が使えるのもその通りなのだ。


 有り体に言えば、精神病に冒されたが為に超能力が発症したと言うのが正しい。精神病になる人間なんて言うのは、誰であれ強いストレスを抱えているもので、それは身体に、特に脳に多大なダメージを与えるものだ。


 これを読んでいる者も知っているだろうが、脳にはまだ未知の領域と言うものが存在する。脳にストレスが掛かると、この未知の領域が自身の自己防衛の為に活性化するらしい。何故「らしい」と表記したかと言われれば、僕ではなく、僕らを担当する精神科医がそのように言っていたからだ。実際にそうなのかは僕にも分からない。


 そしてストレスが一定値を超えると精神病となる。常人はここでストレスに耐えられなくなり、精神科に通院するなり、世間から遠ざかるなりするようになるのだが、これも我慢して生活を続けていると、ストレス値が更に脳にダメージを与え、それに抵抗する為に、超能力が発症するようになるのだ。


 その超能力は、自分へストレスを与える何か、個人であったりグループであったり、世間であったりに対して、どのように感じているか、どうしたいか、どうしてくれようか、で変わるので、超能力の種類は種々様々で一人として同じ超能力を持っている者はいない。


 さてここまでは超能力の話。ここからは僕たち政府公認暗殺者の話。僕たちが相手にするのは政敵……ではなく、僕たちと同じ超能力者だ。超能力に対処出来るのは超能力だけ、と言う話だ。


 仕事としては、捜索や探査に長けた超能力者が、超能力を発症した、野にいる未だ政府が認知していない超能力者を探し出し、コンタクトを取り、政府の超能力者になるように勧誘したり、場合によっては、既に超能力を使って悪事を働いている者などもいるので、その対処なども含まれる。専らこちらの方が多いが。何故なら、超能力を発症すると言う事は、世に深い恨み辛みを持っている者が殆どだからだ。


 面倒な話だが、誰かが対処しなければ、このような超能力者により、無辜の一般市民に多大な被害が出るので、やりたくなくてもやらなければならない仕事だ。


 何せ発症したての超能力者と言う奴は、己の超能力をコントロールする事が難しく、暴発させてしまう事が少なくない、または故意に超能力を使って、これまで自分にストレスを与えてきた対象に向かって悪事を働くのが殆どだ。誰だって特別な能力に目覚めれば、自分が特別な存在になったと勘違いしてもおかしくない。


 先程、禅寺で座禅をしていたのも、そんな勘違いを正し、己の超能力を正しい事に使えるようになる為の修練と言う訳だ。


 さて、超能力があると言う話、そして政府直属の超能力者の仕事の話をしてきた訳だが、そうなると、僕の超能力の話をする番が回ってきた。


 僕の超能力は、部署では「ハートショット」と言われている。残念な事に女性の心を射抜き、メロメロにしてしまうような超能力ではなく、実際に対象となる人間の心臓を止める超能力だ。つまり、僕は実働部隊の一人と言う訳だ。


 禅寺での座禅修行が終わり、さて今日も仕事だ。とスケジュールを確認する。幾ら心臓を止める超能力を持っているからと言っても、毎日人殺しをしている訳ではない。先述したが、超能力に目覚めた者の勧誘も僕たちの仕事であり、そちらがメインである。


 しかしスマホを確認すれば、部署の探索係から連絡が入っていた。こう言う時は大抵嫌な仕事の連絡だ。つまり人殺しである。


 メッセージによると、某県某市にて超能力による無差別殺人が発生、直ちに急行せよ。とのお達しに、「はあ……」と肩を落として転送能力を持つ女性の方へ半眼を向けると、彼女の方も諦めたように半眼を向けてくる。


「さっさと終わらせましょう」


 彼女の言う事は尤もなので、僕が彼女の肩に手を置くと、一瞬にして僕一人がその某県某市へとやってきた。どこかのビルの屋上らしく、そこには既に先行して到着していた実働部隊の部隊長がいた。


「お疲れ様です」


「良く来たな」


 部隊長は僕が来た事に喜ぶ素振りも見せず、仕事と割り切り僕へ鋭い視線を向ける。


「人を一人殺すだけなら、僕じゃなくても良くないですか?」


 実働部隊で人殺しに向いた超能力を持っているのは、僕だけじゃない。と言うよりも、先述した理由から、大概の超能力者は人殺しに向いている。先程の女性も、自分に触れた者を遠くに瞬間移動させると言う、役立つ能力である一方、対象を空高く飛ばすだけで、落下死させられるのだ。


「お前を呼んだのには理由がある。対象に近付けないからだ」


 成程? 首傾げる僕に部隊長が説明する。


「対象の能力は、自身の周囲にある生命力を吸収すると言う能力で、超能力発生時には、半径一メートル程だったその能力が、既に半径五十メートルにまで達している。発生が一時間前だった事を考えると、驚異的な速度で能力が膨れ上がっている。部署は直ちに各所に通達し、毒ガス発生を装い、対象から市民を非難させているのが現状だ」


「はあ。それでも、僕でなくても」


「どうやら、その生命力の中に超能力も含まれているようでな。ここまで何人かに対象へ向けて攻性超能力を使ったが、全て吸収され、現在は地属性超能力により、対象周囲のアスファルトを盛り上げる事で、対象を封じている状態だ」


「超能力で盛り上げたアスファルトは無事なんですか?」


「ああ。一度盛り上げてしまえば、対象のアスファルトには超能力は通っていないからな」


 成程?


「ただし、対象の超能力発症者が、周囲の生命力を吸収する能力である為、対象の筋力なども上昇しているらしく、囲ってもすぐに壊され、また囲うの繰り返しだ。なので、一瞬で対象を仕留められるお前を招集したんだ」


 面倒臭い。


「近付けば近付く程、対象の吸収力は上がる。悪いが、ここから対象を狙い撃ってくれ」


 部隊長はそう言って、僕に双眼鏡を渡してきた。それを持って部隊長が指差す方へ双眼鏡を翳すと、盛り上がるアスファルトを、対象が直ぐ様ぶっ壊しているのが目に入った。


「分かりました。すぐに実行しますので、アスファルトで防壁を築いている方は退避させてください」


「分かった」


 それだけ口にすると、僕は双眼鏡を部隊長に返す。僕の超能力は、対象を視認し、それに向かって指鉄砲のポーズで指差し、「Bang!」と声を発する事で対象の心臓を止める。それならば、双眼鏡は必須じゃないか? と思うかも知れないが、僕は幼少の頃に親の転勤で一時期アフリカにいた事があり、その為に視力が10.0あるので、この程度の距離ならば視認は可能だ。まあ、その幼少時代のせいで超能力に目覚めた訳だけれども。


 対象を囲っていたアスファルトがなくなり、対象が次のアスファルトの盛り上がりに備えようと拳を握っているのを、遠目で視認しながら、僕は指鉄砲のポーズで対象を指差し、


「Bang!」


 とまるで自販機のボタンでも押すような気軽さで、超能力を発した。それだけで対象は胸を押さえて苦しみだし、ものの十秒程で昏倒、十分程見守っていたが、探索係から対象の超能力反応が消失したとの一報が入り、対象が死んだ事を確認しに、周囲に伏せていた実働部隊がわらわらと対象に近付いていく。お、地属性の超能力者が、自ら変形させたアスファルトを元に戻している。


 まあ、これで今回の仕事も終わりかな。しかしだからと言って一日の仕事が終わった訳ではない。前々から目を付けていた超能力者の監視と勧誘が残っているからだ。はあ。せめて今日みたいな事があった日は、これで仕事終わりにして欲しいものだ。


 さて、ここまで超能力が存在すると言う話、そんな超能力者たちの仕事の話、僕の超能力の話をしてきた訳だが、ここで残念な話をしなければならない。


 ここに記載された話は実際には機密事項に値する。では何故僕があなたに話したのか。実はこれも超能力だ。探索係にいる未来視を持つ超能力者より、未来において、看過出来ない超能力を有する事となる人物の誕生が予言された。


 それに対抗する為、我々は特殊な記載能力を持つ超能力者の力を借りて、ここにあなたが読めるように今回の話を記載したのだ。そして僕の隣りには、僕があなたを視認する事を可能にする超能力者がいる。つまり僕はあなたを既に視認している訳だ。もう分かるよね? こちらの都合で悪いけれど、もう手遅れだ。それでは御機嫌よう。


「Bang!」


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