庵の食卓—笑顔をつなぐ香り
庵の台所。
薪のはぜる音、香ばしい匂いが立ち上る。
「ジーク、そこの野菜ちゃんと洗って!」
「分かってるって!」
「アルト様、包丁はお任せしていいですか?」
「……ああ。庖丁を握るのは慣れてないが、やってみる」
「アマネ、火の加減お願い!」
「うん! 任せて!」
ミナの指示が飛ぶたび、皆が慌ただしく動く。
普段は戦いの場でしか息を合わせない仲間たちが、今は一つの食卓のために力を合わせていた。
「すごいな……学園の錬金術師が、こんなに料理上手だとは」
カイルが感嘆する。
「効率を考えたら、自然と工夫するのよ」ミナは胸を張った。
「鍋の熱伝導率、調味料の配合、全部“計算”だから!」
「……でも」アマネが微笑む。
「計算だけじゃなくて、ミナが楽しそうだから、美味しくなるんだと思う」
その言葉に、ミナは一瞬ぽかんとしたが、すぐに顔を赤らめた。
「ば、ばか……そんなこと言っても、量は減らさないからね!」
◇
やがて、食卓に並んだ料理は、彩り豊かなものだった。
香草を効かせたスープ、香ばしく焼き上げた肉、畑で採れた野菜のサラダ。
どれも庵の素朴な恵みを活かした品々だ。
「いただきます!」
一斉に声を揃えて、食事が始まる。
ジークは豪快に肉を頬張り、「うめぇ!」と声を上げる。
リュシアは「……本当に、美味しい」と小さな笑みを浮かべる。
アルトは黙って味わい、カイルは「塩加減が絶妙だ」と素直に褒めた。
アマネは口いっぱいに頬張って「幸せ……!」と呟く。
セレスとアサヒもその光景を静かに見守り、時折笑みを交わした。
「……いいわね」セレスがぽつりと呟く。
「こうして皆で食卓を囲むだけで、何よりも力になる」
アサヒが頷き、カグヤが足元でふわりと尻尾を揺らす。
庵の食卓には、戦いの緊張も、役割の重圧もなかった。
ただ仲間と共にある温もりが、そこに広がっていた。
――その温もりこそが、彼らを次の試練へと導く支えとなるのだった。
お読みいただきありがとうございます。いけるところまで連続投稿!(不定期ですが毎日目標)。
面白かったらブクマ&感想で応援いただけると嬉しいです。